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【ショート・ショート】魔法の手

「おかしいなあ」
 夫が、頭をひねっている。
「どうしたの」
「昨日からずっと堂々巡りなんだ」
「そうなんだ」
「これでいいはずなんだけどなあ」
「まあ、少し休んだら。あまり根を詰めると体に毒よ。お茶でも入れるから」
「そうだな、そうするか」
 夫は、カメラをいじっている手を休めて、大きく伸びをした。

 会社の帰りにいつも立ち寄る店で貰ってきたという古いカメラ。部品取り用として片隅に積んであったのだそうだ。
「これ、かなり古い物じゃない?」
「そう。もう部品も手に入らないしね」
「そう聞くと、心をくすぐられるなあ」
「でしょう。田島さんなら何とかなるかもね。只でいいよ」
 実に嬉しそうに、店の主人とのやり取りをろうする。

 お茶を飲みながら私の話にあいづちを打ってるが、頭の中はカメラのことでいっぱい。
「カメラじゃなくて、写真機と言うんだ」
「ふーん」
 私にはどちらでもいい。
「これは掘り出し物なんだぞ」
「でも、この間のよりひどいじゃない。動くようになるの」
 ちょっと水を向けると、
「何とかするさ。何十年間も眠っていた写真機が、俺の手で又よみがえるんだ。たまらないよ」
 とよどみない。
 部屋には、幾つか修理を待っている物が、きちんと箱に分けられて積み重ねてある。
 私には、そんなガラクタいじりのどこが面白いんだか、よく分からない。一日中部屋に籠もっていることもある。
 カメラと私、どっちと結婚したの。子供みたいに夢中になるあなたも好きだけど、たまの休みには、おしゃべりしたり、一緒に外出もしたい。だから、ちょっと悪戯いたずら

「どうしてもネジが一個余るんだよな」

 もう少しだけおしゃべりに付き合ってくれたら、私の魔法の手があなたの問題を解決してあげる。
 だから、もう少し。


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