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コーヒーの2050年問題ってなんだ?

「まずは自分の好きなものから環境問題を考えればいい」という環境活動家・露木しいなさんの言葉に後押しされ、「コーヒーの2050年問題」をライター古澤が調べてみた。

<環境問題に関心を持ったきっかけの話>



好きなコーヒーは「アラビカ種」だった

アラビカ種の伝統在来品種名にもあるエチオピアのコーヒー農園。
収穫したコーヒーチェリーを自然乾燥しているところ

「コーヒーの2050年問題」とは、地球温暖化による気温の上昇や、降雨量の減少により、世界のコーヒー流通量の6割を占める「アラビカ種」の農地が半分になってしまうこと。

簡単に言えば、収穫が激減するということだ。
では「アラビカ種」って何だろう。

コーヒーとはアカネ科コフィア属の常緑樹の実の中にある種だ。『スペシャルティコーヒー大事典』(ジェームズ・ホフマン著、丸山健太郎監修、日経ナショナルジオグラフィック社)によれば、一般的にコーヒーというと「アラビカコーヒーノキ(アラビカ種)」であると断言している(ちなみに「コーヒーノキ」は、日本語の正式名称だ)。

コーヒー豆が採れる「コーヒーチェリー」を実らせる樹木は130種ほど特定されているが、ほとんど飲用に向かず、大量に栽培されているのは主にアラビカ種とロブスタ種(学名に沿ってカネフォラ種ともいう)だそうだ。

複数の品種を生産していても、流通しているコーヒー豆の多くが原産国名で取引されることが多いため、品種の特定が難しく分類も定まっていない。この表は代表的なものを独自に抜粋

ロブスタ種は酸味がほとんどなく、苦味が強いためエスプレッソやアイスコーヒーなどブレンドに向いている。木炭のような香りが特徴だ。高温多湿の気候でも丈夫に育ち、低コストで大量生産も可能なため、缶コーヒーや業務用コーヒーに使われている。

一方、アラビカ種は質の良い酸味やフレーバーが特徴で、突然変異や栽培環境などによって更に多くの品種に分けられている。代表的なティピカ、ブルボン、ゲイシャなどは聞いたことがあるだろう。

#てさぐり部 の象徴的アイテムである家庭用手回し焙煎器「くるくるカンカン」付属の生豆もほとんどアラビカ種だ。


美味おいしいコーヒーが育つ条件

背の高いシェードツリーに守られるコスタリカのコーヒー畑

アラビカコーヒーノキが健全に育つには、いくつかの条件がある。

まず、水はけが良く、有機物を多く含んだ肥沃な土であること。

育成には年間2000mm前後の降雨量が必須で、加えて雨季と乾季がはっきりしていないと生産量に影響が出る。

コーヒーの味わいをよくする気温は20〜25℃で、ゆっくり実が熟すことが大切。そのためには朝晩の寒暖差が必要だ。暑すぎると早熟になったり、病気が発生しやすくなる。

一方で、日当たりが良ければ良いというわけじゃない。強すぎる直射日光は葉焼けなどを起こすため「シェードツリー」という背の高い木を植えて適度な日陰をつくるそうだ。

これらの条件をクリアしやすい赤道を挟んで北南の緯度25度地帯を「コーヒーベルト」と呼び、その中でも寒暖差のある標高1000〜2000mほどの場所で栽培されている。

これらの条件のなか、農家さんが努力できることなんて、土作りと日陰作りくらいじゃないか。このままじゃ、約30年後には気温上昇と降雨量の変化で、アラビカコーヒーノキの生産地が半減してしまう。

完熟したコーヒーチェリーは甘くて美味しいらしい

収穫したコーヒーチェリーがどうやってコーヒー豆になっていくのかは、この記事を参照してほしい。


児童労働に支えられているコーヒー需要

アラビカ種のコーヒーチェリーをすくう子供たちの手

また、コーヒーの生産には児童労働の問題も潜んでいる。

世界のコーヒー需要は年々増加しているが、生産者は貧しいままだ。コーヒー1杯1ドルと仮定し、生産者に入るのは0.02ドルという計算もある。消費地に届くまでに介在する企業が多くて、生産者が儲かりにくい仕組みだからだ。

ただでさえ、生産者に入る売上は少ないのに、その年の気候によって生産量が減ってしまったり、他の国の生産量の増大により価格下落の影響を受けたりしてしまうのだ。農園の維持コストとコーヒー豆の世界相場のバランスが合わなければ、作れば作るほど赤字になることだってあり得る。

また、コーヒー豆生産を主要産業としている国は発展途上国が多く、そもそもの経済状況に課題を抱えている場合が多い。需要に応えて生産量を必死に増やすため、子供を働かせている農園も少なくない。

コーヒー産業は児童労働に支えられている産業の一つとして、長年問題視されている。学校に行かず働くことで、教育を受ける機会や子供らしい生活を奪われるだけでなく、機械操作や農薬散布により健康上にも問題があることが指摘されている。


今日から私にできること

「自分へのメリットを大切に」問題を知って小さなことからでも行動できるよう促したいという、23歳の環境活動家、露木しいなさん

露木さん、コーヒーにまつわる問題を知ってあらためて驚いたのですが、私に何ができますか……?

「社会課題の解決を目的に開発されているコーヒー豆がないか、調べてみるといいかもしれません。いくつかコーヒー豆に関する国際認証がありますよ」

なるほど、さっそくコーヒー豆の国際認証について調べてみた。

第三者組織が保証する「認証」マーク

「国際フェアトレード認証ラベル」と「レインフォレスト・アライアンス認証マーク」
出典元: Ralf Liebhold / Shutterstock.com(左)、RaffMaster / Shutterstock.com(右)

「認証コーヒー」とは、地球環境だけでなく地域の発展や品質などさまざまな視点と理念を掲げた第三者組織が、そのコーヒー豆と生産者を審査し保証する制度だ。

代表的なのはフェアトレード認証だろう。正式名称を「国際フェアトレード認証ラベル」といい、生産者の安定した収入と安全な労働環境を重視して取引される商品に与えられる。コーヒー豆は全生産量の70〜80%を3ヘクタール以下の小規模農家が支えており、農業協同組合や仲介人に販売しているところが多い。その中で倫理的で適正な買付が行われているか重視しているものだ。儲かりにくい生産地を直接買い支えることができる。

もう一つ代表的なのが「レインフォレスト・アライアンス認証マーク」。自然環境、労働条件や地域経済の基準を満たした農園で生産された製品に与えられる。

こういった認証に注目してコーヒー豆を選んでみるのも良さそうだ。

身近なところで探してみると、ローソンやミニストップのコーヒーにもこれらのラベルがついていた。コンビニのコーヒーが環境に優しい消費につながるなんてすごい! やはり問題を知ったうえで、課題解決に向き合う商品を知ると買ってみようかなと思えてくる。

コーヒーを通して見えてくる「いいこと」

「コーヒーを通して社会課題を解決する方法は、生産過程、消費過程、廃棄過程でそれぞれ考えることができます。消費者ができるのは、消費過程と廃棄過程ですね。消費過程では、紙フィルターが不要なドリッパーを使うとか、認証を受けたコーヒー豆を買うとか。廃棄過程の場合は、コーヒーかすの再利用方法を考えることができますよね。自宅で植物肥料にしたり、コンポスト(堆肥たいひ)にしたり。消費過程と廃棄過程のそれぞれで自分ができそうなことに取り組んでみるといいかもしれません」

露木さんによると、抽出後のコーヒーかすは水分を含んでいるため、ゴミ処理のときに多くのエネルギーを使ってしまうという。廃棄のエネルギーを減らすためにも、コーヒーかすの再利用に注目が集まっているらしい。コーヒーかすを使ってお皿を作ったり、染め物をしたりといった商品を開発する企業も増えている。気に入ったデザインのものがあれば、アップサイクル品を購入するのも楽しそうだ。

作る、使う、捨てるを想像する

「生産過程、消費過程、廃棄過程で社会課題を考える」という方法は、コーヒー以外にも応用できそうだ。食べ物でも道具でも衣料品でも、それを作るために働いている人と原材料がはぐくまれている環境がある。それをどのように使い、捨てるのか。

身の回りでできることを考えれば、環境問題だって遠くない。美味しいコーヒーを飲み続けることを考えていたのが、だれにでもできる環境問題へのアクションの話になってきたぞ!

コーヒーかすは窒素を含むため、米ぬかや腐葉土と合わせてコンポストにするのがおすすめ

自分の興味がある分野から環境問題を知ったことで、行動を変えてみようかなと思うことができた。

それどころか「なんだか楽しく取り組めそう!」とさえ思っている。
他にも環境のためにできることはないだろうか。なんでも知りたいし、調べたい。この勢いで地球の未来を救っちゃう!?

「ただ、できないこともあるという現状についても知ってほしいんです」

そんな……!

次回は今の私たちが環境のためにできるスモールステップと、そのために持っておきたいマインドについて紹介する。

(つづく)

Supported by くるくるカンカン


クレジット

文:古澤椋子
編集:野田春香コヤナギユウ
撮影:尾藤能暢
校正:月鈴子
取材協力:露木しいな
制作協力:富士珈機

ライター・古澤椋子 https://twitter.com/k_ar0202
1993年生まれ、東京都板橋区出身。水産系の社団法人、ベンチャー企業を経て、2023年よりフリーライターとして活動開始。映画やドラマのコラム、農業系イベントの取材、女性キャリアに関するSEO、飲食店取材など幅広く執筆。在宅ワーク中心で、運動不足なことが課題。


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