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マツダ3のデザイン解析#4  〜隠れた”バンプライン”の効果〜

目次
バンプライン=陰デザイン
バンプラインの機能:小さく低く
光の轍
台形シルエットは絶対に譲れない!!

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バンプライン=陰デザイン
 今回は前回の陽デザインに対する陰デザインについてです。文字通り隠れて見えない外観要素を指すことになりますが、それはマツダ3のルーフとサイドドアの間にひっそり流れるように備わっています。図を見てもらうとわかりますが、底の浅い半円の凹みが緩やかにリアに向かって流れています。サイドウインドーの壁面のすぐ上に、ルーフの頂点(全高)から若干低い位置に流れるそれをバンプラインと名付けましょう。
 他の陰デザインの例を挙げるとすれば、以前記事にしたタントの見込みデザインも陰デザインの一種と言えます。4代目までのレガシィツーリングワゴンに備わるルーフの盛り上がりも、ワゴンとしてのデザインを整えるための陰デザインと言えるでしょう。
 それではマツダ3における陰デザイン、バンプラインがどのように機能しているのか見ていきましょう。

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バンプラインの機能:小さく低く
 バンプラインはリアウインドー上部の、本来あったルーフと側面が交わる角を削る様に位置します。人で言う側頭部の耳の上に水平に溝が伸びているのです。
車両を見る角度や、光の具合によっても見え方が違うのですが、いずれにせよその溝が映す光と影を使って、輪郭の見え方をコントロールしているのは間違いないです。
 少し遠巻きに斜めから対面した場合は非常にわかりやすい効果を見せます。構造からすれば、バンプラインの深さ含めてその断面がまじまじと臨める角度ではありますが、実際の自然光下では凹みに影を落とさせ、本来そこにあって見えるはずのボデーのリアに向かう奥行きを隠します。つまり実際のルーフの長さより小さく見せています。何度もお伝えしている様に、cセグメントのハッチバック車は十分な後部座席と荷室の容積のために膨らんだキャビンが、薄く伸びるエンジンルームとのバランスを難しくさせています。マツダ3はウインドー下の大胆なデザインを使って、そのボリュームをリアタイヤに乗せる事で解決を図っています。そのためには重心高い位置に左右に張ったルーフの存在を削ることが必要だったと考えられます。

光の轍
 側面や後ろから見た場合。または光の加減によっては、バンプラインが影を演出し続けることはできません。いやむしろ、そうなると開き直るかのように積極的に光を映します。ルーフ頂点から低い側面で反射する事で車高を低く印象づけつつ、最終的には流麗なヒップラインに光のバトンを滑らかに渡します。もしバンプラインがなかった場合は、水平に伸びている本来のルーフ造形とその先にあるスポイラーの縁に光を当てることになります。居住性を確保したスクエアな形状を明らかにすることは、自慢のサイドパネルのデザインとのバランスを欠くことになります。なので、バンプラインによる光の轍で、実際の端部から離した低い位置でボデーの輪郭を矯正させる必要があるのです。バンプラインの光をそのままヒップラインに沿ってまあるくタイヤまで落としたのも重要です。
多くの車はボデー、リアハッチ、バンパーやスポイラーなどの構成物のつなぎ目はボデーの角や辺に沿わせます。ハッチの広大な開口部を確保することや、コストも踏まえた図面再現性を考えて合理的です。けれどそもそも構造物全体でみればそういったエッジには光が集まりがちで、そうなると工業製品の加工組み付け精度や断続する異素材の微妙な照りの違いに意識が散って目にうるさく感じてしまいます。マツダ3の塊感や品質の高さを印象付けるため。現実的な部分を見せないために、光の反射を操作して、豊かなボデーパネル上でスムーズな光の輪郭表現をしたのは賢いですね。ふくよかな面で構成された斜め後ろの出立ちが、不思議とでっぷりせずに見えるのは、遮るものがない面の上にシャープな光の輪郭がしっかりルーフからタイヤ周りの造形までつなげがれて引き締めているからでしょう。

台形シルエットは絶対に譲れない!!
 真後ろから見たマツダ3はシンプルかつ堂々としたcセグメントのハッチ車の理想的な装いそのものです。先代アクセラ時代から続く、日常使いで過不足ない容積と俊敏性を両立させた姿に安心します。それはBセグメントの小型ハッチバック車にはないふくよかな面構成。リアタイヤが地面を掴んだ安定感のある台形フォルム。Dセグメントワゴンにはない短いオーバーハングがあってこそです。けれどこれもバンプラインがないと成り立たなかったと考えます。
 もし前述のバンプラインの効果をバンプラインなしで実現させようとするとどうなると思いますか。答えはルーフとサイドウインドーを後方に向かってより車内へ絞り込ませる必要があります。張り出したサイドパネルを内側に押し込むことと、まあるいヒップラインの実現のためにルーフを押し下げるのです。もっと目を引く華やかなデザインになるかもしれませんね。
 けれどマツダ3の立場を考えましょう。装いこそ唯一無二で人の目を引く大胆な印象を与えますが、立ち位置としてはマツダ車両群の中核を成す“普通の”Cセグメントのハッチバック車です。量産車種の一種であり、決してVWゴルフのシロッコの様な特別な意味を持つ亜種ではないのです。マツダ3はゴルフやプリウス、メルセデスAクラスと同じ土俵に立っています。
もしバンプラインの代わりにリアを絞り込んでしまうと、リアから見た場合のハッチバック安心の台形バランスが崩れてしまいます。より低くなった車高と、絞り込まれたサイドウインドーが見せるだろう後ろ姿は体脂肪が低く、日常使いをイメージさせるゆとりが消え失せます。そもそも本来必要な居住性が損なわれてしまいます。なので、バンプラインは『量産Cセグメントハッチバック』である『マツダ3ファストバック』を成立させるためにはなくてはならない陰デザインと言えるでしょう。ぜひみなさんのその目で確かめてみてください。

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