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黒谷知也
2022年3月8日 15:46
Chapter01 海の方から本の匂いがしてきたのを、八尾鳥アオリは感じた。しかし気のせいだろうと思い直した。なにしろ広くはないこの借家には、数千冊の蔵書があるのである。 いっぽうで、いつも身近にあって感覚が麻痺しているに違いない本の匂いを、あらためて感じるというのは少し妙な気もした。そして湿度が高いので匂いが留まりやすくなっているのだろうとも考えた。 彼人は、そのまま日課の読書を続けてか
2020年10月21日 04:26
Chapter01 朝の四時に雇用主から電話があり、「今すぐ来い」と叩き起された。彼は気が狂ったのではないかと思うほど立腹していた。 理由はグールワーナの死にある。私がグールワーナを殺したというのだ。 だが、そのようなことが起こったなどと信じたくはない。私は昨日、いつも通り職務を果たし、充分に足る朗読をしたではないか。 Chapter02 タクシーを呼び、大急ぎでかけつけると、確か