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3行日記 #123(バタコさん、ひじきの睫毛、二つの灯)

一月十九日(金)、晴れのち曇り

昼、老舗の洋菓子店でシュークリームとプリンを買った。他の商品も眺めていると、お菓子の棚のブランデーケーキとプロムケーキのあいだにバタコさんのぬいぐるみがあった。綺麗に包装されてピンクのリボンもつけられて、忘れもの、と書かれていた。バタコさんは笑っていた。

夕方、北へ歩いてふた駅離れた耳鼻科へ。待合室のソファに腰をおろすと、いぃ、いぃやあぁ! 泣きじゃくる叫びが奥の処置室から聞こえてきた。噴霧されたものを鼻腔に何分かあてる処置を終えた、べつの女の子が立ち去ろうとすると、あ、これ、と看護婦さんが呼び止める。振り向いた女の子の手のひらに、銀色の包装紙にくるまれた飴をそっと渡した。はい、おわりですよ、しんどかったなあ。先ほど泣いていた男の子に、看護婦さんがやさしい言葉をかける。いややあ。しょぼくれたまま帰っていった。私はといえば、前にもらった軟膏をもらうだけのつもりで軽い気持ちで行ったのだが、さすがに混んでいるので、また出直すことにした。

スーパーのレジに列ができていた。先頭のほうをみると、奥の精算機で支払いをしている人が原因らしい。横顔しか見えないが、目の周りにパンダのような真っ黒なメイクをし、ひじきの煮物のような太いつけ睫毛がくるりんとしている。動きがものすごくのっそりしている。レジを待つ次の客やレジ打ちの店員のおばちゃんもその動きを見守っている。非難のまなざしというよりも、珍しい生き物を見るように。手に握られた小さなカバンは金色に光っている。ようやく精算を終えて、商品を袋に詰める台に移動する。雨樋の下の塩ビのパイプのように細い脚を、一本ずつ、うんしょ、うんしょと動かして、ようやく台についた。

父から電話。きょうスーパーのレジに並んでいたら、前のおじさんの財布に十万の束が七つ。八つ入ってて、レジの男の子といっしょにびっくりして、自分のおつり、六千円くらいとってくるの忘れて、気づいたらなくなってしまったんや。一応レジの男の子に声かけておいたら、夕方くらいに電話があって、見つかったらしいって。

夜、昨日の肉じゃがの残り、チンジャオロースー、蜜柑、シュークリーム。チャックの散歩、向かっていると、通りの向こうから二つの灯りが近づいてくる。あれは、車のヘッドライトか、それとも、並行して走る自転車のライトか。近づくまでわからなかった。左、右、左、区役所の角でうんち。南の公園で二回目のうんち。夜の公園、ブランコの奥からなにかの音が聞こえる。ザッザッザッザッ。暗闇に目を凝らすと、緑色のジャンパーを着たひとが、ウサギ跳びをしていた。公園を抜けて商店街を入ってすぐのところにあるモスバーガーを、奥のガラス窓からのぞく。サラリーマンが食べていた。チャックはふだん見られない景色に満足しているようだった。小さなおやつをあげて帰宅。妻のお母さんとおばあちゃんにプリンをあげた。お母さんは全身緑だった。明日から大寒だというのに、あまり寒さを感じない。夜の散歩のときの気温は六度だったが、それでも寒さを感じない。おそらく、チャックの散歩を毎日して、乾布摩擦のように寒さに慣れて強い身体になっているからだろう。

#3行日記

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