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アイムシリウス。

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特にやりたいことは無い。でもつまらない人生にはしたくない。これまで、悪くはないけど別に良くもない人生を送ってきた瀬名月見(セナツキミ)には、みんなから羨ましがられる「女優」の彼女…
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2024年7月の記事一覧

小説「アイムシリウス。外伝 ーこころー」

小説「アイムシリウス。外伝 ーこころー」

〈あらすじ〉

 いつも明るく、笑顔を絶やさないこと。大人の人に対しては、正しく敬語を使えること。そして、確かな演技力。優秀な子役の条件を満たす子供はたくさんいるが、夏来こころ(ナツキココロ)という子はその中でもかなり目を引く。彼女は「作り方」が巧く、どこにいてもまるで本当に、ただ無邪気にその場を楽しんでいるような表情を見せる。
 業界関係者からそんな評価を受ける御神湖心(ミカミココロ)の今がある

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小説「アイムシリウス。」(11)

小説「アイムシリウス。」(11)

『慢性鼻炎の私』
監督:水田麻子
主演:白羅真鳳
(第1話より抜粋)
両方の鼻にティッシュを詰めたまま、不機嫌に公園を歩いている清子(さやこ)。目の前のベンチで、楽しそうにイチャイチャしているカップルが目に留まる。
ナレーション(霧島清子、35歳独身。恋も仕事も、上手く行かないのにはある理由があった。彼女はそう! 慢性鼻炎である!)
清子「ズビッ(鼻をすする音)」

「芸歴3ヶ月で台本をもらえるな

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小説「アイムシリウス。」(10)

小説「アイムシリウス。」(10)

「初めまして、陸上と申します」
「あ、どうも。すいません今日名刺持ってきて無くて」
 瀬名月見(セナツキミ)は、財布に数枚でも名刺を仕込んでおかなかった過去の自分を責めた。目の前の男に初対面でいきなりナメられるのが嫌だったからだ。陸上(クガミ)と名乗るその男はスーツの着こなしに一切の隙がなく、いかにもやり手の若手実業家、といった印象であった。ところが本人の話によると、彼は月見の高校時代のクラスメー

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小説「アイムシリウス。」(9)

小説「アイムシリウス。」(9)

第二話 と、力無く膝を付き、天を仰ぐ月見。

 全国展開しているその大手カフェチェーン店の店内では常に客が入れ替わり立ち替わり、カフェと言えど長時間寛ぐにはもはや適していないかもしれない。そこの手狭な2人掛けテーブルには、時折太い眉を動かし相手の様子を伺う男、燈孝之助(アカシコウノスケ)と、とにかく早く帰りたいなと思っている夏来こころ(ナツキココロ)が座っていた。
「なぁ頼む! 俺とやろう!」

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小説「アイムシリウス。」(8)

小説「アイムシリウス。」(8)

 エキストラの撮影が終わった頃にはもう日が傾き始めていた。夏来こころ(ナツキココロ)はそれからずっと、行方不明となった恋人、瀬名月見(セナツキミ)を探し続けている。撮影現場周辺は一通り探したし、月見の家にも連絡したが帰っていないらしい。撮影現場でこころのことを心配したエキストラの数人が一緒に探してくれていたが、さすがにこれ以上は申し訳ないと帰ってもらい、今は1人で探している。探す範囲を広げることや

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