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【随筆/まくらのそうし】 狸

 タヌキには、肉が臭いのと、臭くないのがあって、それを見分けることは不可能、捌いてみて初めて、食えるものか食えないものか、判断がつくのだという。

 しかし、その判断が、生きてるタヌキで可能だという人がいた。

 この集落でたった一人、その人だけが、このタヌキは食えるのかということを、はっきり判断できるのだ。

 冬には狩猟をする人ばかり、それでもタヌキは分からない、だのにその人は百発百中言い当てるのだから、タヌキを食うならその人へ、がここらの人の常識だった。

 一体どうして見分けたものか、聞いても特にコツはなく、ゆえにその技を誰にも伝わらないまま、人は天寿を全うし、捕らえたタヌキの臭いか、臭くないかということは、誰にも分からなくなったのだった。

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