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茅(かや)を欲しいという人

 屋根に肥料に、家畜の飼料など、茅は人の生活を助けるもので、昔は、集落の近くの茅場から、茅を取っては使ったという。

 しかし、いつしかそれも山に飲まれてなくなって、夏越の祓の茅輪くぐり、その茅輪を作る茅もなく、分けて欲しいと頼まれる。

 仏教伝来という出来事は、何百年前という大昔、けれど、ここらで寺は未だ異教の風情、神社が当たり前の土地柄で、神主となると忙しい、あちらの神社、こちらの神社と飛び回り、祝詞を上げるものである。

 ならば、信心深い土地かと言えば、あっけらかんとしたもので、お供え物にはチョコにクッキー、大事な大根やら人参やら、そんなものも、産直市のシール付きで、これが生活に根付いた神様かと、良いように取らねばどうしようもないという体たらく、四年に一度、地区で受け持つ祭りのときには、老人たちの記憶対決、あれはこうだった、いやこうじゃなかったかと、古人も見られまい、無論、そんな集落故に、手の回らぬままに茂った茅を、これ幸いと持って行ってくれるのである。

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