強まる経済安保とマネロン対策
2020年11月に開催した「知っておきたいあの話」で「『AML』って何ですか？初めて聞くマネロンと金融業界の取り組みのお話」をして貰って以来、マネロン対策の話がとても気になっています。ちょっと古いですが、最近この話が２つあったのでシェアします。
＜2021年9月1日 日経新聞電子版＞
緊迫した国際情勢が続くなか、米国が財務省外国資産管理局（OFAC）による規制を強めている。国家安全保障上の懸念から、米国が制裁対象としている企業や人への資金の流れを断つのが狙いで、日本企業も無縁ではない。
＜2021年9月21日 日経新聞電子版＞
「カネに色は付いていない」。額に汗して手にしたものも、誰かからだまし取って得たものも、おカネはおカネ。日本社会にこんな感覚が、はびこっているわけではないだろう。では、なぜ――。
編集委員が日々のニュースを取り上げ、独自の切り口で分析します。
日本のマネーロンダリング（資金洗浄）防止の取り組みが、国際社会で合格点をとれないままでいる。マネロンやテロ資金対策を担う国際組織、金融活動作業部会（FATF、事務局・パリ）が8月末に公表した審査の結果で、日本の総合的な評価は3段階で2番目の「重点フォローアップ国」となった。
この二つの機関はちょっと毛色が違いますが、共通していることがあります。それは、不正なお金の流れを防いで安心できる社会にしたいという考えだと私は思っています。（政治的な思惑とかは別として。。。）
マネロンやテロ資金対策を担う国際組織が、OECDの金融活動作業部会FATFです。そして先ほどの米国が財務省外国資産管理局（OFAC）による規制はアメリカ1ヵ国としての対策になります。
このFATFとOFACの最大の違いはというと、強制力だと思います。
FATFの場合は、各国のマネロン対策について調査・評価をします。ちょっと生ぬるいように感じるかもしれませんが、評価が悪いと貿易などの経済活動に支障がでるので、FATFは遅効性の効果と言えるかもしれません。マネロンが横行しそうな国とレッテルを張られると全うなビジネスがその国では出来ない可能性が高まり、結果経済活動が停滞します。
一方、OFACの場合は、アメリカの安全保障を脅かすと指定した国、法人、個人の資産を凍結する義務を課すなど、かなり踏み込んだ規制となり、即効性のある効果がある上に、米ドル建て取引などをすれば日本含め外国企業も対象になるなど二次制裁のリスクもある。
アメリカ独自の制裁はかなり強烈というか、世界の決済額トップが米ドル（約38%）です。1国の通貨として、ずば抜けているのが分かると思います。この数字を見ても分かるように、世界経済を支えているのが米ドルであり、こうした背景からOFAC規制のような強気な姿勢を取れるのだと思います。
また、中国との覇権争いが激化するなかで、この地位をしっかりと維持するための施策を打っているとも言えます。ちなみに、2位ユーロ（約37%）、3位英ポンド（約7%）、4位日本円（約3%）、5位中国人民元（約2％）となっていて、中国との差は歴然としていますが、人民元は2016年来最高水準の決済額となっているとのことで、アメリカの姿勢を硬化させる一因となっているのかもしれません。
イギリスからアメリカに覇権が移り、「その次にどうなるか」という時代の変わり目にいるのだと私は考えているので、こうしたニュースは大きな流れを掴むうえで非常に重要だと思っています。
【追記】
2021年9月27日 日経新聞電子版に関連記事があったので、追記します。
マネーロンダリング（資金洗浄）対策の強化に向けた連携が加速してきた。金融機関は口座の所有者の所在を追跡するため電力会社のデータを活用するほか、不正取引を検知するシステムの共同開発も進める。貴金属業界も海外製品の買い取りをやめるなど厳格化に動く。実質不合格となった国際審査の結果を受け、対策の高度化を急ぐ。
この記事の中で重要なことが書かれている箇所があるので、記載しておきます。
マネロン対策への国際的な視線は厳しさを増しているが、テロを身近に感じにくい日本では口座凍結などの強い対策を打ち出しにくいのが実態だ。対策が遅れれば日本の金融機関の国際的な信用は低下し、海外での取引の制約にもつながりかねない。
上記の文章に集約されていると感じます。日本人の平和ボケとも言われるところなのかもしれませんが、こうした長期的な視点を持って行動していかないと、緩やかに日本の力が減衰していくしかなくなってしまうんですよね…
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