企画を立てる時は「捨てる客」を決める
昔、ある大物漫才師が「笑わせにいっちゃいけない客がいる」というお話をされていた。
漫才と言えば、子供からご老人までお茶の間全体を笑わすのが常識だった時代に、彼は「20歳から35歳の男性」にターゲットを絞って、尖った漫才をくり広げていた。
その人は、「劇場で出待ちをしているような若い女の子を笑わせようとすると、自分たちの漫才はダメになる」というようなことを言っていた。
劇場に駆けつけるファンの女性たちは、何をやっても笑ってくれる。でも、自分たちはちょっと斜に構えてテレビを見ている若い男性をターゲットにしているのであって、その人たちに
「こいつら、なかなかおもろいやんけ」
と言わせてなんぼ。若い女性ファンたちにサービスした笑いをやってしまうと、本来狙っている層に相手にされなくなる、ということなのだと思う。
ぼくは日頃、本をつくる仕事をしている。「笑わせにいっちゃいけない客がいる」というのは、本の企画に関してもまったく同じだなあ、と感じる。
本を企画する時には、「こんな人たちに読んでほしい」という想定読者がいる。企画によって、想定読者を狭くとることもあれば、絞らずに広くとることもある。ただ、いずれの場合も考える必要があるのは、
「どの層を捨てるべきか」
ということだ。よく言われるように、今は、嗜好性が多様化したことで、「マス」を取りにいくのはなかなか難しい時代だ。趣味、嗜好、世代、性別、思想、哲学・・・様々な関数がある中で、AとBの両方を取りにいこうとすると、中途半端な内容になってしまう。この場合、どちらかを思い切って捨てないといけない。
ディズニー映画のように360度展開させるようなコンテンツであっても、おそらく「捨てている層」というのはあるはずだ。
これから自分がつくりだすコンテンツは誰に向けているのか。そしてその人たちに「なかなかおもろいやんけ」と言われるためには、どの層を捨てないといけないのか。「笑わせにいっちゃいけない客がいる」という言葉をつねに意識して、コンテンツのあり方を考えていきたい。
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