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図書室つながり「怪」読書~クック『図書室の怪』からの緑川聖司『図書室の怪談 悪魔の本』

私はテーマを決めた読書というのを時々やります。にわか司書になったつもりで、自分の書棚から関連書を抜き出し、勝手に自分にお勧めするのです。自己満足以外の何ものでもないのですが、手当たり次第乱読ぎみの普段とはまた違った読書体験が得られてよいものです。

先週末は、図書室つながりをテーマにした怪奇読書を楽しみました。一冊目はマイケル・ドズワース・クック著/山田順子訳『図書室の怪 四編の奇怪な物語』(創元推理文庫)、二冊目は緑川聖司著『図書室の怪談 悪魔の本』(ポプラキミノベル)です。

『図書室の怪 四編の奇怪な物語』あらすじ(公式より)
中世史学者のジャックは大学時代の友人から、久々に連絡を受けた。屋敷の図書室の蔵書目録の改訂を任せたいというのだ。稀覯本(きこうぼん)に目がないジャックは喜んで引き受けるが、屋敷に到着した彼を迎えたのは、やつれはてた友人だった。そこで見せられた友人の亡き妻の手記には、騎士の幽霊を見た体験が書かれていた……。表題作を始め四編を収録。クラシックな香り高い英国怪奇幻想譚

http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488544058

表題作「図書室の怪」古色蒼然とした英国幽霊譚かと思いきや、読み進めるうちに五百年前の犯罪と幻の稀覯書にまつわる本格的な歴史ミステリ、いにしえの修道院の図書室をめぐる建築ミステリの妙味をおび、その上ちょっとした暗号解読(もちろん図面つき)のスリルまで味わえてしまうという、何とも贅沢な仕立て。かといって詰め込みすぎというわけでもなく、中編に過不足なく収まって、余韻まで楽しませてくれます。何より文体の雰囲気と、時折挟まれる、臨場感たっぷりの中世の幻視が好みでした。でもこんな図書室はいやだ。

 図書室に入る。扉を開けているので、ショートギャラリーを蒼白く染めていた月光がさしこんできた。月の光は四方の壁をも蒼白く染め、闇と戯れるように、優美な図書室をすみずみまでくまなく照らしだしている。しかし、その光景に心がなごむことはなかった。一階を見おろすと、冥府に降りていくような心もちになる。つかのま、階段の手前に立ちつくし、月明かりのなかで踊る無数の影に見入っていた。どの影も悪意をもっているように見える。いくつもの書架がぱくりと口を開けた獰猛な怪物に、書棚に並んでいる書物が牙に見える。… p.161より

著者のマイケル・ドズワース・クックは英デヴォン州在住、中世史研究家にしてブリストル大学で博士号を取得したエドガー・アラン・ポオの研究者(納得しかない笑)。言うまでもなく、この二つの研究観が、表題作の設定や描写にもふんだんに盛り込まれています。表題作以外の三編もそれぞれに楽しめました。古代の樹木(英国では特にオーク)畏怖・崇拝を下敷きにした幻想譚「グリーンマン」に、表題作同様、土地と血脈の因縁を描いた「ゴルゴダの丘」、どちらもよいです。

英国の薄暗い物語に浸かった脳みそのまま、お次は日本の中学生の現代怪談めぐりへ。子どもたちになじみの深い都市伝説や怪談がたっぷりと楽しめる、ギミックだらけの快作です。こんな図書室はいやだ。

『図書室の怪談 悪魔の本』あらすじ
中学1年生の大樹は、いじめられていたクラスメイトをかばったことが原因で、自分がいじめの対象になってしまった。ある日、図書室で見つけた「悪魔の本」を読み始めると、彼の周囲でおかしなことが起こり始める。彼をいじめるクラスメイトが本に書かれているのと同じような事故にあったり、幼馴染の陽奈にも異変が……。見知らぬ青年に「その本はとても危険な本だから僕に渡して」と言われるが断る。危険を感じた大樹は、神社の神主さんにお祓いをしてもらおうとしたが、すでに彼は「悪魔の本」と契約を交わしており、逃げられない運命に。図書室で出会う女の子、幼馴染、謎の青年、神主さんにもそれぞれ秘密がありそうで、真実を言っているのは一体誰なのか、大樹は呪われた本から逃れられるのか!?

https://www.poplar.co.jp/book/search/result/archive/8051006.html

本作に出てくる怪談はテケテケ、呪いのDVD、首なしライダー、赤い靴……怪談好きなら郷愁すらおぼえてしまうお品書きです。怪談と怪談の間に、大樹の一人称による物語が挟まれています。大樹同様、私もこの本をぱらぱらと読みはじめたわけですが、いつのまにか止まらなくなってしまいました。上手にコントロールされたお話の緩急と、小さな違和感の積み重ね、ところどころで、「あっ騙された」という小気味よい裏切りがあって、少しも飽きません。ミステリも得意とするベテラン作家さんらしく、いくつもの伏線をフックに物語を前転させながらたたみ込んでいく……終盤にかけてのスピード感は、まるで大樹のいる世界に自分まで引きずり込まれたような気分。私のお気に入りは、たくさんの怪談のノロイが集約される異界として無人の「学校」が出てくるところです。背筋がぞっとすると同時に、ただの怪談ものにとどまらない、怪談ユニバースともいうべきスケールの大きさにわくわくしました。

さっそく夏に第二巻が刊行されるという本作。次巻では、謎めいた「死ねない男」久我も中心人物として登場するのでしょうか。この物語、きっとまだまだ先は長いはず。次巻を読むのを心待ちにしています。

図書室つながりの「怪」読書、一冊は英国怪奇譚、もう一冊は主に小中学生を対象にした日本の怪談作品とまったくカラーは違いましたが、どちらも至福の読書時間を与えてくれました。にわか司書も捨てたものではないのです。さて、次は何つながりにしようかな?



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