高松熟睡ノ記

 最近ライターで漫画家の村田らむさんの怖い話に触発されて自分もなんか怖い話あったかしら?と連日つらつらと記憶を探っていたのです。
 とはいえ無風のありふれた氷河期非正規ライフを漂流してきた名もなき私にそんな際立ったエピソードなんて…。
 あ。あった。
 最近齢のせいか物忘れが激しくなってきたんでちょっくら書いて置きますね。

 皆さん!
 徳島と言えば?「自衛官」ですよね!
 愛媛と言えば?「刑務所」ですよね!
 高知と言えば?「白バイ」ですよね!
 公権力だ!暴力装置だ!隠ぺいだ!Yeah!(さあ、検索してみよう!)
 そして香川!香川県といえば…あったわ。自分が体験した怖い話が。
(※四国に縁のある方ごめんなさい)

 2000年代のとある夏、3泊4日ぐらいで四国へ鉄道旅行に出かけまして。最後の宿泊地として高松のとある格安ホテルに投宿したのです。このころ以来地方都市に目立ってきた駐車場となっている空きスペースに囲まれポツンと建っていて、1泊¥4000ぐらいだったかな?
 4階の廊下の突き当りの部屋だったのですが、一つ手前の部屋のドアが開いていて、夕日に照らされたお兄さんが夢中で受話器に怒鳴っていました。
「どこでもいいからさあ!どっか別のホテル教えてくれよ!ここ嫌なんだよ!」
 泣き出しそうな声を尻目に、なんじゃろなとモヤモヤしながら部屋に入ると奥にベッドがあってその向こうに壁。ユニットバスのシャワーから湯を出すと猛烈にオッサン臭かったので仕方なくフロントで教えてもらった浴場へ。
 ここがおかしな作りで、最上階でエレベーターを降りて1階分階段上って脱衣所に付くとまず施錠。早い者勝ちです。脱衣所も浴室も洗い場も最大定員2名サイズ。
 えー?
 このホテルは全体に薄暗くて心細く、どこもかしこもまるで吸い込まれたかのように音が無い。先ほどの半泣きお兄さんの件もあり、おっかなびっくりで体を洗っておそるおそる浴槽へ。ぬるい。窓の向こうはすぐに壁で眺望はありません。
 なにこれ?
 張り詰める静寂の中、やんわりと覆われていくような不条理と、少しづつ締めあげられるような不安に苛まれつつふと水面に視線を落とすと、蠅の死骸が浮いていました。
(よかった!自分はひとりじゃなかった!)
 いやちょっと待て。その感想はおかしいだろ。こりゃいよいよ自分も毒されてきたわい、とそそくさと自室に戻りました。
 なお、扉の閉じた隣室から人の気配は消えていました。

 適当に買い出ししてきた夕食を雑に済ませて缶ビールなんか飲んでいたら突然、
「ドン!」
 とベッドの向こうの壁が叩かれました。
 なにこれ?ねえ、なにこれ!
 びっくりしたなあ、もう。ビールの残りを…と、ここでこの部屋の位置関係を思い出しました。
「空きスペースに囲まれポツンと建って」いるホテルの「4階の廊下の突き当りの部屋」の「奥のベッドの向こうに壁」が叩かれました。
 お判りいただけたでしょうか?
 壁の向こうには何もないということに。
 じゃあさっきのあれは誰がどうやって叩いたんでしょうね。
 ここまで思い至ってさーっと血の気が引いていくのがわかりました。

 次の瞬間、夢中で受話器を取り上げてフロントに向けて半泣きで、
「どこでもいいからさあ!どっか別のホテル教えてくれよ!ここ嫌なんだよ!」
 とは…なりませんでした。
 なぜなら長旅ですっかり疲れていて、ビールも飲んで眠くて面倒くさかったから!
 ベッドで熟睡しちゃいました。てへ。
 そのまま何事もなく(何事かあったかもしれないけど目覚めるようなこともなく)定刻に目覚めてチェックアウトしたのですが、その時気付いたんですよね。
 フロントのおばちゃんが、つのだじろうそっくりだったという事に。

 いやちょっと待て。そのオチはおかしいだろ。

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