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これこそ、地方がコラボすべきイベントではないのか

地方や郊外都市ではあらゆるところで集客に励み様々な知恵を出し合っている様子だ。
時にアニメやドラマとのコラボレーションを展開したり、鉄道会社と合同で企画したイベントを展開したりなど、あらゆる手を使っている様子なのが見て取れる。
そうやって創意工夫の上で集客に励んでいるようだが、裏を返すとそれほどに地域へ人を集めるのに苦労しているということになるだろう。

しかし、中には地方と企業などが大々的にタッグを組んで盛大に仕掛けなくても、地元の有志や地元の企業などが協力しあって面白い展開をしているところもある。
都心部ではあるものの、前回の記事で紹介した下北沢カレーフェスもまた、その試みの代表的なそれだろう。
(何が魅力的なのかは前回の記事を読んでいただきたい)

久しぶりに横須賀美術館に出向いてきた。
ここは、目の前にパノラマな海の景観が広がる最高のロケーションに立地するので、訪れるだけでも開放的な気分になるので最高な場所だ(駅からかなり離れているのが難だが)。

しかし、目的はその展示物ではない。
用があったのは、建物脇に駐車していたトラックだ。

無顔プロジェクト』という企画をご存知であろうか?
詳しくは、リンク先のページを参照していただきたい。
上記のようなトラックにお化け屋敷を丸ごと積み込んで、あらゆる観光地やアミューズメントパークに赴いて、お化け屋敷を楽しんでいただく試みである。
この宣伝ツイートが筆者のTwitter TL上にも流れてきて、興味が湧いたので赴いた流れである。

早速、土曜日の昼下がり、横須賀美術館の敷地に入ってみた。
土曜日ということもあり、それなりの人が美術館前に佇んでいる。浜辺側にも釣り竿を持った人やバイク乗りなどの姿が見え、横須賀の観光名所の代表格であるというのも、その様子からわかる。
そんな綺麗に整備された観光地の一角に、異様な雰囲気のトラックが停まっていた。

まるで、山奥の中にかつてあった村が廃棄され、その家屋だけが朽ちてもなお人を迎え入れようかとしているような風貌だ。
しかし、その迎え入れる人間は果たして生者なのだろうか? 
その家屋に充満した狂気は、やがて意志を持って動き出し、長年にわたり溜め込んだ負のエネルギーを原動力として、こうして人里に降りてさりげなく生贄を探しているのかもしれない……。
筆者は、迂闊にもそうとは知らずにノコノコと足を向けてしまったのだろうか……。

これが、移動式お化け屋敷『無顔』である。
ただの使い古したトラックにも見えなくはないが、立派なお化け屋敷だ。
外観に騙されてはいけない。

筆者が訪れると、ちょうど体験した女性3人組が中から出てくるところであった。
早速
「怖かったですか?」
と尋ねると、間髪入れずに怖い怖いと騒ぎ立てる。そのリアクションからして、怖さは間違いない。
これは期待感が余計に増すではないか。
一人で入ろうとすると、

「一人で⁈ それはよした方がいい!」

と、まるでホラー映画で殺人鬼が住む村の場所を尋ねた際に、主人公たちを引き止める老人のようなリアクションを見せてくれた。
しかし、こちらは独り身である。
一人で入るしかない。
お代である千円を払い、覚悟を決めて屋敷の中へと潜入した。


荷台の中の惨劇は、ここでは細かくは書けない。それは、営業妨害などというチャチな気遣いなどではない。筆舌に尽くし難いほど壮絶な体験が、そこにはあったのだ。

……あれは幻。

そうあってほしい。
いや、確かにその絶望と狂気は現実なのだ。
あの荷台という限られた逃げることさえ許されない空間で、滴り寄ってくる恐怖。
幻であってくれ! といくら絶叫したところで、現実だと強制的に教える『何者』かの存在。
こちらはただの通りすがりの人間だというのに、それすらも許すことのできない、もはや暴走した狂気。もう、誰であろうと関係ないのだ。全ては家屋の生贄なのである。

決して物理的には傷つくことはないはずなのだが、思わず身を守りたくなる。
前からだけではない、上からも、横からも、そして、背後の壁からも。
絶望はあらゆるところから押し寄せ、押し潰そうとする。
そして、最後には人間の感覚へダイレクトに攻撃してくる。
視覚、聴覚、触覚……。
何も見えていないことが、逆に多くの情報を強制的に受け入れさせる。
もはや、逃げることすら思い浮かぶことはない。
ただ、全てが早く過ぎてくれることを祈るばかりであった。

最後に何か見たような気がする。
いや、あれこそ幻だったのではなかろうか。

気がつけば、係のお兄さんが荷台の中に現れていた。
そう、ここは捨てられた村に建つ廃屋ではない。
トラックの荷台なのだ。
それが現実なのだ。

外に出ると、確かにそこは清々しいまでの海が広がる観音崎の地。
確かに、美術館背後には森が広がるが、這い寄る家屋などありはしない。

無顔プロジェクトが見せた幻なのだ。


トラックの荷台には、確かに狂気の空間が詰め込まれていた。
これは是非とも堪能してほしい。


さて、お化け屋敷の中身も興味深かったが、筆者がより面白く感じているのが、この『移動式』という要素である。
これは、つまりトラックを停めておくスペースさえあれば、大体の場所で幽霊屋敷を堪能できるということである。
そこが、美術館であろうと、大きな公園であろうと、温泉地だろうと、トラックさえ停められればそこに一つのアミューズメント施設が誕生するのである。
これは興味深い試みだ。

例えば、観音崎という地。
ここは、海や美術館はあるが、駅からかなり離れていてついでに立ち寄る施設はない。
美術館に立ち寄ってそのまま帰路に着くしかない場合もあるだろう。
しかし、こうしたアトラクショントラックが脇に一つ加わるだけでもまた違う。
思い出や、話のタネに一つのアクセントをつけることができる。
横須賀美術館の前に無顔が訪れたというソレイユの丘公園もまた、駅から離れていて、そこだけが目的の地になりやすい場所。
そういう地により深い意味付をする意味でも、この手の『移動する企画』は目を引く。
全国にある、インパクトがイマイチで、後一歩なにかを加えたいと思えてならない施設管理者や企画担当の方は、検討する価値は充分にあると思えるのだが。

今回はお化け屋敷という形式を取っていたが、アイデアと工夫次第では全く別の企画も展開できるのではなかろうか。
そうなれば、呼ぶ側もまた選択肢を広げられてやりやすいだろう。

また、ただ施設に横付けするだけでなく、それこそ何かの企画とコラボしてみるのもおもしろい。
地方のインパクト薄いハロウィン企画を盛り上げるためとか、他のホラー企画だとか。

観音崎という地をもっと取り入れても面白かったのではなかろうか。

観音崎は、上記写真のように自然公園だけあって木々が鬱蒼と茂っている。
自然公園全体を使って何かをするのも面白いだろう。
そういう時の、オープニングアクションとして利用するのもまた面白そうだ。
短い恐怖体験をした後、公園内をスタンプラリーなどで周ってもらう。
その際、現実的な仕掛けなども施してみたりなど。


地方の観光課も、ありふれた企画に便乗するのではなく、こうした独自のおもしろいアクションを展開している人とコラボを考えてもいかがなのだろうか。
ありふれたコラボ企画では、いつまでも人々の感心を惹くことも難しいでしょうから。

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