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世界の株式市場は2月中旬から急落し、史上最大の値上がり幅、値下がり幅を連日繰り返す大荒れの展開となっています。いつも以上に日々の値動きが気になってしまいますし、我が身に振りかかるかもしれない悪いニュースを想起し、気が滅入ってしまうこともあります。

私が大学を卒業した2003年には日本のメガバンクの経営状態が悪化して、国が銀行にお金を貸す公的資金注入が行われました。いわゆる就職氷河期の最後の時期でエントリーシートを書いても書いても、面接にもたどり着けず、面接まで呼ばれても1次で落とされるということが続き、途方に暮れていました。ようやく最終面接までたどり着いた証券会社に内定をいただいたものの、「1年で内定者の半数が退職するから頑張れ」と発破をかけられ、希望にあふれる社会人デビューとは程遠かったものです。

その後一念発起して退職、英国留学の後、再就職しようとしたタイミングで今度はリーマン・ショックが起きました。当時英国の大学に通いつつ、インターン、アルバイトを続けていた現地のNGOへの就職に一縷の望みを抱かざるを得なかったのです。就職した日本企業は退職してしまっていましたし、日本での社会人経験はたったの4年、英国への留学が日本で評価されるとは考えていなかったためです。給料は必ずしも高くなかったのですが、英国のNGOにしがみついて、その後7年そこで勤務していました。

こんな感じで私自身が下落相場で近視眼的になっていましたので、ついつい目先のことが気になってしまうのは仕方ないと痛感しています。ただし投資家はこんな時だからこそ長期的な視点を少しでも持ってほしいと考えています。少なくとも投資家の投資先である企業ではそのように考えられています。

今週はとある上場企業の社長とお話させていただく機会がありました。その方は昨年の後半に英国のEU離脱や米中貿易摩擦の激化を横目で見つつ、世界経済の混乱が現実的になりつつあると感じ、2020年は忍耐の年になると考えていたそうです。そして次に相場が上向いた際に一気に業績改善にアクセルをかけられるように、社内体制の整備や設備投資に注力することにしたそうです。

その内容を伺うといわゆるESGに関するものが満載でした。社長の考えをより効率的に届けるために現場と社長との間に置く管理職の数を制限するというのもその1つです。社内コミュニケーションの効率化は社長から現場への一方向だけが重要ということではありません。現場から社長への伝達も重要で、特に悪いニュースこそいち早く社長に伝わり、対策が講じられなければなりません。これは不祥事の未然防止にも有効です。

また複数の事業部を渡り歩くようにさせる人事方針も重要です。事業部毎の流動性が乏しいと不正が長年継続する可能性もあり、この人事方針は先述の不祥事の未然防止という点でも重要です。さらに複数の事業部を渡り歩くことは異なる市場環境、環境・サプライチェーン対応を含む顧客の要求水準に接することを意味し、将来の取締役候補、上級管理職候補はもちろん、そうではなくともバランスの取れた視点を持つことができるようになります。特に取締役は株主総会その他で投資家に自社の説明を求められますので、複数の事業部での経験は必須と言えるでしょう。

お話を伺った社長はもちろんESGのエキスパートではありませんが、こういったESG要素の重要性は十分認識されており、SDGsバッジを着けて街を闊歩するだけの「見せかけのESG」や石炭や石油と聞くとアレルギー反応を示す環境活動家及びそれに与する投資家には辟易としていました。地に足の着いたESG活動の展開が期待できるお話を伺えたと同時に、投資家も目先の相場に一喜一憂せず、長期的な見立てを以て日々の相場に接することの重要性を改めて感じました。

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