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年末年始が近づくと、流行語大賞に代表される今年の総括と来年の見通しが各所で取り上げられます。ESGの世界ではもちろん単年の見通しが全く重要ではないということはありませんが、より重要なのはそれを検討する元となる長期的な見通しです。

長期的な見通しを立てるにあたり、自社の各種資源(内部環境)についても認識する必要がありますが、同時に外部環境についてもおさらいする必要があります。しかも長期的となると現在の環境では大きな変化を見込んでいない要因についても考慮に入れる必要があります。そうなると考えなければならない要因が多く、ある程度分類が必要となります。

その方法の1つであるPEST分析を取り入れる日本企業が増えてきています。PESTはP(政治、Politics)、E(経済、Economy)、S(社会、Society)、T(技術、Technology)という4つの視点であり、経営学者のフィリップ・コトラーが提唱したものです。

当然経営戦略を策定する上で、これらを考慮することは重要です。しかし長期的な見通しを考える上で、かつ経営戦略においてESG要因の重要性が高まっていることから、ESGに関する取組を考える上でも、このPEST分析が必要になってきています。

例えば、商社大手の伊藤忠は以下のようにPEST分析を行っています。2020年と比較的短期間の想定ですが、それぞれの項目について機会とリスクを特定している点は注目に値します。

Politics(政治)
・米国と中国の対立(貿易摩擦・技術移転問題等)
・Brexit・反EUの動き
・主要国の選挙(米国大統領選挙・衆院選)
・地政学リスク
・通商協議・協定(日米、米EU、USMCA等)
・温暖化ガス抑制の規制(パリ協定等)
・中国や欧州での新エネルギー車等への移行
・パーソナルデータの取り扱いに関する規制変化
・国際的な租税の潮流(法人税引下げ/租税回避対策)
・日本の消費税
Economics(経済)
・先進国経済の原則
・為替相場のドル安
・新興国経済の回復・成長安定
・資産価格(株式・不動産)の上昇
・投資環境の変化
Society(社会)
・気候変動への取組み(低炭素社会への寄与)
・働きがいのある職場環境の整備
・人権の尊重・配慮とコンプライアンス
・健康で豊かな生活への貢献
・安定的な調達・供給
・健全かつ透明性の高い企業統治体制の堅持
Technology(技術)
・ITの進化・新技術・インフラ整備
・次世代型成長モデルへの進化

一方、自動車部品大手のデンソーも以下のようにPEST分析を行っています。伊藤忠とは異なりそれぞれの項目について機会とリスクについて特定していないものの、分析の想定年が2030年としており、冒頭の長期的な見通しに近いものとなっています。

Politics(政治)
・アメリカ・中国の貿易摩擦
・エネルギー源は地域で多様化、中東・中国で天然ガス需要拡大
・新興国のエネルギー需要増で需給逼迫
・脱炭素化には、再生可能エネルギー・水素貯蔵が不可欠に
・地球温暖化は待ったなし、気候変動対応への国際協調が加速
・脱炭素はチャンスかつ既存事業のリスクに
・バリューチェーン全体での社会・環境負荷を意識した企業戦略
Economics(経済)
・新興国の台頭、世界は多極化
・経済連携の深化・拡大、資本取引のボーダレス化
・格差拡大、保護主義台頭が、ボーダレス化の流れを阻む
Society(社会)
・人口80億人超、爆発的増加が社会の持続性を脅かす
・地球まるごと高齢化、労働力減への備え、健康寿命延伸加速
・新興国としか、スマート・コンパクト化による都市再生が加速
・消費行動はエシカル・経験消費、シェアリングエコノミーへ
・AI・ロボットによる労働代替進展、労働観・可処分時間の変化
Technology(技術)
・IoT・ウェアラブルの進展で、デジタルとフィジカルが融合
・ビッグデータ活用で、生産性向上、バリューチェーン統合
・AI・ロボットによる労働代替進展、労働観・可処分時間の変化

なお本投稿が2019年の最後の投稿になります。今年は初の単著を出版するとともにnoteでのフォロワーが急増し、実り多き1年となりました。皆様に御礼を申し上げます。2020年も変わらぬご愛顧を賜われば幸いです。

どうぞよいお年をお迎えください。

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