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社債ブームとROE至上主義

以下の記事では社債発行ペースが過去20年で最高で推移していることを伝えています。

社債とは企業が資金を調達する手段の一つで、一定期間資金を借りる代わりに、その期間中は企業が金利を支払うというものです。銀行から資金を借りる場合には融資と呼びますが、社債は資本市場から資金調達する点で異なり、投資商品の1つです。

社債発行急増の背景として歴史的な低金利が市場で定着していることがあります。10年物国債(発行から10年間に渡り投資家から資金調達する国債)を指標とする長期金利がマイナスとなっています。企業が発行する社債は国の発行する国債に比べると、投資資金が全額戻ってこないリスクが高いと考えられることから、社債の金利は国債のそれよりも高くなります。しかし、国債の金利がマイナスに転落している現在では、社債を発行する企業も金利の支払いがこれまでよりも少額で済むことになります。

私はもう1つの背景にも注目しており、それはコーポレートガバナンス改革の成果指標とも目されているROEの重視です。ROE(自己資本利益率、Return On Equity)は純利益を分子に、自己資本を分母において算出し、一定の資本を元手にいかに効率良く利益を上げたかを示す指標です。

ROEを上昇させる方法は2つあります。1つは分子の純利益を増加させることです。魅力的な製品・サービスを販売し売上を増加させるとともに、人件費その他の費用を抑制することで純利益を増加させることが可能です。コーポレートガバナンス改革の目的として掲げられたのは日本企業の「稼ぐ力」の向上であり、まさにこの純利益の増加です。もう1つは自己資本を減少させることです。自己資本とは株式により調達資金のほか、過年度の純利益のうち、役員報酬や配当等として支払われなかった部分(留保利益)も含まれます。

伊藤レポートで「ROE8%以上が望ましい」と具体的な目標を示されてしまったこともあり、日本企業はこぞってROE上昇を目指しました。もちろん第1の純利益増加に励んだ企業も多くありますが、第2の自己資本減少に走った企業もあります。自己資本減少の方法には自社株買い(市場に流通している自社の株式を買い取ること)や配当増額(すなわち留保利益減少)があります。

しかし事業を遂行するために必要な資金が特に減ったわけではありませんので、何らかの方法で資金調達をしなければなりません。その手段として社債発行が選ばれているのではないかと推測しています。社債での調達資金は自己資本には含まれず、自己資本の対義語である他人資本の1つとして分類されます。すなわちROE上昇を目的とし、純利益を所与とした場合、自己資本を最小化し、社債等他人資本を最大化するのが合理的な企業行動と言えます。

第2の自己資本減少に注力する企業が多くなることは、コーポレートガバナンス改革の形骸化を意味します。真に企業に用いるべき業績指標はROIC(投下資本利益率=純利益/(他人資本+自己資本))であると言えるでしょう。

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