2020年スキルマトリックス(2):要求スキルの理由付けに改善の余地

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第2回はスキルマトリックスで要求されるスキルの理由開示についてです。スキルマトリックスを作成する目的は現在の取締役会メンバーの持つスキルを棚卸し、企業に必要なスキルが揃っているか確認することです。もし現在の取締役会に必要なスキルを持つ人材が揃っていなければ、社内から選出するか、社外から招聘するかして補充しなければなりません。

このようなプロセスを経るにはまず取締役会に必要なスキルを定義しなければなりません。そして定義だけではなく、なぜそのスキルが必要かを投資家に説明しなければならないのです。

例えば以下の積水化学工業の説明は好例です。

 積水化学グループは、新しい長期ビジョンと中期経営計画を策定し、その実現に向けて踏み出しました。ESG(環境・社会・ガバナンス)を経営の中心におき、現有事業の拡大と新事業の創出を柱にして、DX(デジタル変革)を活かして2030年に業容倍増を目指します。
 つきましては、ESG経営、DX、新事業開発に関する高い見識と監督能力を有する執行役員が取締役に加わり、その知見を取締役会において発揮することにより、当社グループの将来にわたる事業成長と持続的な企業価値向上に貢献することが期待できると判断し、取締役を1名増員したいと存じます。

現在の事業だけではなく、2030年までの業容の変化を見据えて、それに必要な取締役を据えるという説明は投資家に納得感のある説明と言えます。

一方、キリンホールディングスは以下のように説明しています。

「食と健康」の分野で日本の中核としたグローバルな事業展開を行う当社グループの意思決定及び経営の監督をより適切かつ高いレベルで行うため、当社グループの主要事業又は事業経営に関しての豊富な経験、実績、専門政党のバランスを考慮した取締役、執行役員及び監査役を選任する。

「食と健康」という事業ドメインを理由としていますが、中期もしくは長期戦略とのリンクは必ずしも濃いとは言えません。

以下の電通グループはスキルの説明とあるものの、実際には多様性についての説明となっています。

取締役のスキルについて(本総会において各候補者が選任された場合)
当社は取締役会の構成について、
①取締役会の多様性(外国人3名、女性2名)
②業務執行と監督機能の員数(業務執行6名:非業務執行6名)
③社内と社外の員数(社内7名:社外5名)
の3点のバランスを適切に図り配置しております。

三菱ケミカルホールディングスは要求スキルのリストは示していますが、その理由は明示していません。

当社グループの経営の基本方針を策定し、適切に経営を監督するため、経営経験、財務・会計、科学技術・IT・生産、リスクマネジメント、事業戦略・マーケティング、法務・法規制等、国際性・多様性の各項目の観点で、高度な専門的知識と高い見識を有する取締役を選任する。

このように要求スキルの理由を明示している企業はまだまだ多くありません。しかし投資家は冒頭のように要求スキルの定義から取締役会メンバーがそれを満たしているかどうかを確認します。その際、要求スキルの理由が曖昧だと、取締役会メンバーありきで、要求スキルは後付けだと誤解されかねないリスクを抱えることになります。

スキルマトリックスの慣行はこれからも拡がっていくことが予想されますが、要求スキルの理由を説明する企業が増加していくことを期待したいと思います。

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