その熱は原動力〜本のひととき〜
「本日は、お日柄もよく」原田マハ
著者との出会いがこの本だった。再び、ページを開くことにする。
何度でも読みたい。
そうさせる熱がこの本には詰まっている。
製菓メーカーのOL・二ノ宮こと葉。彼女が想いを寄せていた幼なじみの結婚式に出席するところから物語は始まる。
タイトルの「本日はお日柄もよく」は結婚式スピーチの常套句だ。
過去に何度も列席したことはあるけれど、正直心に残ったスピーチは思い出せない。会場もざわついていて聞こえづらかった憶えはあるのだが。
こと葉はそこで出逢ってしまう。
伝説のスピーチライター・久遠久美に。彼女の紡ぎ出す言葉の世界に。
ざわめきが静寂に変わる頃、彼女が語り始める。冒頭から徐々に引き込まれ、やがて身を乗り出すほど。いっときも聞き逃がせない。
まるで自分がこと葉になり、その場にいるような臨場感。心を動かされる瞬間をひしひしと感じた。
スピーチライターという職業を本書で初めて知った。政治家や企業家たちのスピーチは本人が考えたものだと思っていた。あれはスピーチライターが本人と綿密に話し合い、練り上げた言葉だったのだ。
とはいえ、決して表には出ない。あくまでも裏方。スピーチは話し手(スピーカー)により初めて「生きた言葉」となる。そのために相手の意向や考えを真摯に聞き、全力でサポートする。
そして聞き手(オーディエンス)がいないと何も始まらない。言葉だけじゃだめ。身振りや手振り。立ち振る舞い。視線。表情。スピーチは全身から発するものだ。
こと葉もそれに気づいていく。熱に浮かされたように飛び込んだけど、どんどん魅力にはまっていく。心が満ちる瞬間。久美の背中を追いかけながら走り続ける。誰かのために、自分のために。こと葉から目が離せず、なかなかページを閉じられなかった。
作中のスピーチの数々も胸を打った。
文字がさざ波のように押し寄せる。もしこれを実際に耳にしたらどうだろう。想像すると鳥肌が立つ。胸がいっぱいで泣いてしまうかもしれないなとも思う。
書くのも読むのも話すのも。みんな言葉の力がはたらいている。
それを信じて、これからも紡ぎ出したい。
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