読順①日本に来る(いる)難民:入管行政の基本的な問題点について

日本にも「難民」が外国から来たり、日本で非正規滞在していたりします。

こうした外国人の出入国の管理をするのが、出入国在留管理庁(略称は入管庁)です。もともとは法務省の内部部局でしたが、平成31年に法務省の外局として改めて設置されました。

以前から、日本の入管行政については、国内外から人権侵害であるとたびたび批判されてきました。この入管行政について、問題点を整理したいと思います。


「難民」とは、どのような人たち?


日本も批准している難民条約では、「人種、宗教、国籍、政治的意見やまたは特定の社会集団に属するなどの理由で、自国にいると迫害を受けるかあるいは迫害を受けるおそれがあるために他国に逃れた」人々と定義されています。
戦争や内戦で国を追われたり、宗教的・政治的な弾圧や民族迫害(差別)、あるいは自然災害、飢餓、経済的困窮により、自国(居住地域)を離れざるをえなくなった、または強制的に退去させられた人たちのことです。


実際に自分が暴力を受けたり、自分の家族に危害がおよぶことを恐れ、自由と身の安全を求めて新天地を探し、逃れてきました。


しかし、中には経済的に恵まれた国へのあこがれから、本当は就労を目的としていても、「難民だ」と偽って入国しようとする人もいます。
あるいは、(就労や永住を目的として)短期滞在の観光、親族訪問等を建前として入国し、渡航期間を過ぎること(オーバーステイ)で、新たな在留資格の取得を目的とした難民申請をする場合もあります。


このように、”目的をいつわり不法入国(滞在)しようとする人”と”保護を求める難民”とを見分け、真に難民の人を認定していく必要がありますが、その審査が他国と比べて厳格でかつ長ければ数年もかかるため、「強制退去」や入国管理センター等の収容施設への「拘束(長期に及ぶこともある収容)」が、行政処分として行われています。これによって苛烈な人権侵害をおこしていることが問題点として挙げられます。

低い難民認定率

難民認定の認定率は、他国と比べて極端に低いです。2019年に日本で難民認定申請をした人は10,375人、難民として認定されたのは44人、人道的な配慮から在留が認められたのは37人でした。認定率は0.3%。1万人以上いる申請者に対して、そのほとんどに退去命令を出して、自国へ帰らせています。これは、難民及び難民申請者の送還を禁じる「ノン・ルフールマン原則」、日本も批准している難民条約の33条にも違反しています。

(2018年までの認定数の推移や他国との比較については
nippon.com 日本の難民認定:2018年も申請の1%に届かず―わずか42人(2019.05.09) https://www.nippon.com/ja/japan-data/h00449/を参照されたい)


また、難民認定審査期間が平均13カ月(加えて異議申立ての手続きに半年間以上)かかるそうです。長い間、「難民申請中」という宙ぶらりんの、なんの在留資格も国からの庇護も十分には受けられない状態に置かれます。

収容施設への長期収容


強制退去を命じられた外国人を地方入国管理局のほか、東日本入国管理センターや大村入国管理センターなどの計17か所の収容施設に一時的に拘束・収容しています。拘束は、送還を確実に実施するための身柄確保が理由です。
収容された人が送還に同意し、出国すれば、拘束は解かれますが、自国に戻って迫害や困窮の恐れがあるとして難民申請をしていたり、出身国政府が身柄引き受けに拒否したり、あるいは家族・親族が日本にいたりして同意を拒むと、直ちには送還されず収容が長期化してしまいます。被収容者の54%もの人が、6カ月以上の長期に渡って収容されています。

こうした収容施設では、入管職員からの制圧行為、適切な医療を受けさせてもらえない、収容者のハンストが起こり餓死者が出る、狭い部屋に大人数を監禁、懲罰としての隔離措置など、たくさんの問題が指摘されています。


また、収容に際して期限は設けられていません。他国では人道上の理由から期間に上限を設けています。無期限の収容について国連の人種差別撤廃委員会や国連加盟国からも人権上の懸念を表明されています。

仮放免


退去命令が出された人に条件付きで拘束を解く「仮放免」の場合、就労の禁止や居住都道府県からの移動禁止、1カ月に1回程度地方入国管理局に出頭する必要があります。家庭訪問等により日常生活を調べられ、(就労などの)条件違反があった場合には仮放免許可は取り消されます。また、出頭して仮放免の許可が延長されなければ、収容施設に再収容されてしまう怖れがあります。2019年12月時点で、2,217人います。


仮放免の難民申請者は、就労を禁止されている上、健康保険にも入れず、公的な生活支援もない状態で(※2)の生活をよぎなくされ、心身共に非常に困難な状況に置かれています。
(※2)活動制限のない特定活動資格を持つ難民申請中の仮放免者であれば、適法な在留のため、生活保護の実施責任を負う福祉事務所が厚生労働省に照会の上、例外的に生活保護を適用(準用)できる可能性があります。

また、仮放免の親から生まれた子どもについても「仮放免」の扱いになるため、健康保険に加入できない、就労できない、県をまたぐ移動に許可が必要といった制約が課せられます。

未成年の仮放免者は、304人。うち、10歳未満は134人います。

まとめ

・日本の難民認定の数は極端に少なく、認定率は1%にも満たない。

・収容施設では、本人が本国への送還に同意するまで無期限で、場合によっては長期にわたる収容を行っている。

・仮放免についても、生活が制限され、就労の自由が認められず、国からの庇護も十分には受けられない。経済的に困窮し、心身共に困難な状況に置かれてしまう。


参考文献・ホームページ

平野雄吾、『ルポ 入管―絶望の外国人収容施設』(ちくま新書、2020年)

鴇沢哲雄、『日本で生きるクルド人』(ぶなのもり、2019年)

特定非営利活動法人移住者と連帯する全国ネットワーク編、『外国人の医療・福祉・社会保障 相談ハンドブック』(明石書店、2019年)

アムネスティ・インターナショナル「日本の難民・移民―外国人の収容問題」 https://www.amnesty.or.jp/human-rights/topic/refugee_in_japan/immigration.html(2010年11月9日閲覧)

認定NPO法人難民支援協会 「難民を知る―日本での難民受け入れ」https://www.refugee.or.jp/refugee/(2020年11月7日閲覧)

東京新聞「生まれた日本で家族といたい 仮放免の子らの絵、ネットで公開へ」https://www.tokyo-np.co.jp/article/16940

主に平野氏のルポを参考にさせて頂きました。感謝申し上げます。


<追記>

私の書くnoteでは、この記事を含めて「難民」や「難民申請者」と呼称していますが、法的には「難民」として認定される前の立場の人々、「アサイラム・シーカーズ(Asylum seekers)」(※)のことを指すことにします。

法的に難民として認定された「難民」と混同してしまうかもしれませんが、呼称として一般的である点、イメージを掴みやすい点から「難民」という呼称を使用しています。前か後に説明をつける等して、なるべく混同を避けたいと思います。

※アサイラム・シーカーズとは…

UNHCRでは、「国際的な保護を求めており、難民としての地位を求める申請に対する認定がなされる前の個人」と定義しています。