読順⑥ソーシャルワークとの関連②難民申請者に対するセーフティネットの脆弱性(その1)

法からの疎外・貧困に陥りやすい難民申請者

日本での難民申請者(法的には在留資格未取得者)のセーフティネットは法的保障はほとんどなく、社会的な地位はおろか、就労も禁じられたり、生活保護を受給することもでないといった厳しい制約の中で生きていかざるをえません。さらに、日本に居続けられないからといって本国に戻れないという状況を抱えた難民は、国と国との間の空白(法の支配の外)に落ちてしまったような状態といえます。

また、自分の仕事、住まいを失い、さらに多くの人が家族から離別して異国から日本にやってきた難民申請者は、それまでの人生から一変し、居場所の無さや疎外感を感じていることでしょう。

さらに、在留資格の有無に関係なく、親族や知人がいない/少ない、日本語能力が低い、日本文化に慣れていない、そのうえ社会的に難民への理解が低いなどの理由で難民申請者は貧困に陥りやすいのです。

難民申請者のセーフティネットを考える際、まずはこうした法的な地位からの疎外状態に置かれ、法的な後ろ盾のない、アイデンティティの危機状態にあることを知っておかなければなりません。

難民申請者の収入源―就労

セーフティネット以前に、まず働くことを禁じられ、正規に収入を得る方法を絶たれている難民申請者がかなりの割合(難民申請者の4割近く)でいることが、大きな問題です。

外国人が日本で正規に雇用されるためには、就労許可を受けなければならなりません。就労許可が与えられるのは有効な在留資格がある者に限られます。

法務省の発表によると、難民申請者の中で申請時に正規の在留資格があった者の割合は、2007年~2011年の5年間の平均で51.5%。

就労許可を与えられた難民申請者も生活に困窮すれば外務省保護費を受給できます。実際に就労許可はあるが仕事先がみつからず外務省保護費を受給している難民申請者も多くいます。

一方で、在留資格が無い難民申請者も半数近くいますが、彼らは就労許可を与えられないので、正規に就労することができません。就労が認められていませんが、外務省保護費が必ず受給できるという制度になっていません。外務省保護費は難民申請者の1割程度に支給する予算で実施されているので、難民申請者全体のうち約9割は保護費を受給していないこと、約5割は在留資格が無く就労許可が与えられていないことを考慮すると、4割近い難民申請者は就労許可を持たず、そして保護費を受給していないと推量できます。

彼らも含め、9割以上の保護費を受給していない難民申請者は自身や家族の生存のため、そして文化的で安定的な暮らしを実現するため、労働による賃金収入を得て暮らしていると考えられます。

また、2018年からは、「難民認定制度のさらなる運用の見直し」と称し、申請から半年後に一律に就労を認めていた運用を廃止(厳格化)。また、正規在留を取り消す対象を「三回以上繰り返す申請者」から「二回以上繰り返す申請者」に厳格化、一部の申請者(難民の可能性が高い難民申請者)には就労を許可するものの、元技能実習生や留学生には就労を認めないこととなりました(下のネット記事URLを参照)。

難民申請者の収入源―外務省保護費

難民申請者は定住的な在留資格を持つことが無いので、生活保護の準用の対象にはなりません(※1)。生活保護法にもとづく生活保護とは別に、外務省が管轄し、公益財団法人アジア福祉教育財団の中の難民事業本部(RHQ)という部署が実施主体の、いわゆる「外務省保護費」が日本政府からの経済的援助として支給されます。

※1:難民申請中のケースで、難民認定申請等により、定住ではなく「活動制限のない」特定活動資格が付与され、生活保護が認められた事例があります。

外務省保護費は根拠法令が無く、保護(扶助)の範囲も生活、住居、医療(※2)の3分野のみで、教育や出産は含まれません。生活扶助においては母子加算等が無く、住居扶助については一時扶助がないため賃貸アパートの入居や更新にかかる契約金を払うことができません。また、すべての難民申請者が対象ではなく、外務省が定める要件に満たない場合は、保護費を申し込むこともできません。

※2:医療費については、実費支給。(上限あり。立替払い。)

「外務省保護費」は、その金額についても、生活保護法の生活保護費のおよそ6~7割程度。つまり、日本国民に保障されている健康で文化的な最低限度の生活よりさらに低い基準で設定されています。

例:単身、30代、障害を持たない東京都(1級地ー1)に居所がある

最低生活費は、86,500円(うち、生活扶助46,500円、住宅扶助40,000円)

(2012年7月時の基準額等による計算。古藤の報告論文内の表から抜粋)


この他考えられるのは、本人や親族の貯蓄、日本にいる親族や知人からの経済的援助、母国や海外の親族等からの経済的援助でなんとかしのいでいる、というのが現状です。多くの難民申請者が生活に困窮せざるを得ない状況に追い込まれるのは、こうしたセーフティネットの脆弱性にあります。

追記(参考までに)

国会の答弁を見ると、外務省保護費の受給者は、平成28年度で345人だったことが分かります。

UNHCRの定義による日本のアサイラム・シーカーズの数は、(2012年時点で)約3000人とされているので、本文に書いた通り、外務省保護費の受給者が難民申請者のだいたい1割ということが確かに推量できます(かなり大雑把だけど…)。

<参考文献・URL>

古藤吾郎、「滞日難民申請者の脱貧困をめぐる困難と葛藤―ソーシャルワークの現場から」難民研究フォーラム編『難民研究ジャーナル第2号』、2012年。

公益財団法人アジア福祉教育財団(RHQ)「難民認定申請者に対する支援(案内)」https://www.rhq.gr.jp/%e9%9b%a3%e6%b0%91%e8%aa%8d%e5%ae%9a%e7%94%b3%e8%ab%8b%e8%80%85%e3%81%ab%e5%af%be%e3%81%99%e3%82%8b%e6%94%af%e6%8f%b4%ef%bc%88%e6%a1%88%e5%86%85%ef%bc%89/

日本経済新聞「申請半年で就労」廃止 難民認定巡り法務省https://www.nikkei.com/article/DGXMZO25597990S8A110C1MM0000/