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認知症アセスメントバッテリー、MMSE(Mini-Mental State Examination)

―MMSE(Mini-Mental State Examination)-

AD=アルツハイマー型認知症
VaD=脳血管性認知症
DLB=レビー小体型認知症
FTD=前頭側頭型認知症
MCI=軽度認知症

【概要】


・ホプキンズ大学のFolstein夫妻により開発され、世界的に最も使用されている認知機能の簡易スクリーニング検査で、5~10分程度で評価でき、30点満点で評価される。23点以下が認知症疑いである。

【注意点】


・認知機能障害のスクリーニング検査には練習効果がある。(学習し、本来の認知機能の結果より高い得点となってしまう)

1.点数
・30 点満点で評価される
・23 点以下:認知症疑い(感度 81%、特異度 89%)
・27 点以下:MCI 疑い(感度 45~60%、特異度 65~90%)
⇒この場合他の検査(MOCA-J 等)にて評価する必要性が高い
・言語機能 29 点、構成課題 1 点からなっている

【内容】
①時間の見当識(見当識、時間の感覚、体内リズム、自分の状況、記憶)
今日は何年ですか?
今の季節は何ですか?
今日は何曜日ですか?
今日は何月ですか?
今日は何日ですか?
※それぞれ1点

②場所の見当識(見当識、自分のおかれる状況、視覚認知、記憶)
ここは何県ですか?(都道府県でいうとどこですか??)
ここは何市ですか?(市区町村でいうとどこですか??)
ここはどこですか?(ここの施設の名前はなんですか?、ここは何病院ですか?)
ここは何階ですか?
ここは何地方ですか?(地方でいうとどこですか?例えば、〇〇地方)
※それぞれ1点

③物品呼称(即時再生:即時記憶、聴理解、言語表出)
これからいう3つの言葉を覚えて繰り返し言ってください。
「さくら、ねこ、でんしゃ」
3個すべて言えるまで繰り返し、6回まで挑戦してよい。
※それぞれ1点

④計算 or 逆唱:注意機能、計算の概念など
・100から順に7を引く
93,86,79,72,65
それぞれ1点。

・計算が不可能である場合(計算の概念障害などによる):注意機能など
「フジノヤマ」を逆唱させる
正答:「マヤノジフ」
※5点

⑤遅延再生:先ほど覚えた3つの言葉の想起。(長期記憶など)
「先ほど覚えていただいた3つの言葉はなんでしたか?」
※それぞれ1点:ヒントは加点しない。出してもOK

⑥物品呼称
(時計を見せながら)これは何ですか?
(鉛筆を見せながら)これは何ですか?
※それぞれ1点

⑦文の復唱
一字一句はっきりと答える
「みんなで、力を合わせて綱を引きます」
※1点

⑧3段階命令(※方法多数あり)
紙を置いた状態で開始
1.右手にこの紙を持ってください
2.それを半分に折りたたんでください
3.机の上においてください or 私に下さい
※それぞれ1点

⑨命令指示(指示書に書いてある文にしたがう)
「目を閉じてください」
※1点

⑩文章書字
何か”文章”を書いてください、どんな”文章”でもかまいません。
単語などはNG
※1点

⑪次の図形を正確に書き写して下さい
ダブルペンタゴンを書き写す。
二つの角が重なって1点
5角形を書くことができて1点

2.MCI に対して
・病前の知的能力が高く、視空間認知障害がある場合に感度が低い
・実際は MCI でも言語障害がある場合は低得点となる場合が多い

3.認知症に対して
①時間の見当識
・AD(Alzheimer 病)初期から時間の見当識が失点する傾向がある
・DLB(レビー小体型認知症)に比べて AD は時間の見当識が低下しやすい
・AD/DLBに比べて FTD(前頭側頭型認知症),VaD(脳血管性認知症)では見当識障害が軽度である

② 遅延再生
・AD の初期には即時記憶はある程度保たれるため記銘での失点は少ない
・AD の初期には近時記憶が障害されやすい
・DLBではADに比べ、想起の得点が有意に高い傾向がある。
・想起得点が高く、Serial-7 の得点が低い場合には VaD、うつ病、水頭症の可能性がある
⇒ただし想起は床効果があり近時記憶障害の重症度を的確に評価するには不十分である
⇒⇒特に AD の場合 7 割以上は 1 単語も答えられないことが指摘されている
⇒⇒⇒そのため得点は加えずに自由再生を 3 点、不可能だった単語の上位カテゴリを提示して行う補助再生を 2 点、3 択による再認再生を 1 点として実施すると近時再生の重症度評価の参考になる値が得られる
・DLB の場合、顕著な視空間認知障害・構成障害を示すことが多い

4.Serial-7 について
・ワーキングメモリ、計算力、注意機能などが評価される
・どの機能により減点したのか判別しづらいため、減点したところから改めて音声指示(86-7 は?)、文字提示、筆算式、筆記回答の追加により的確な評価が可能となる。
⇒※この場合 MMSE の得点には加点されない
・AD 多数例検討では 5~3 点の範囲は分配性注意障害によって失点しやすい
・2~0 点は持続性注意や数字の概念および計算の障害が多く影響している
・「7シリーズ」の項目を遂行するためには, 引き算という計算方法を長期記憶から想起しながら,今行っている課題 (計算)の結果の数字を記銘しつつ, また繰り返して遂行していくという高度な作業記憶が要求される。

★書字課題
・「文章」を書くという能力には, 長期記憶から字や文法などを取り出してそれを書くという行為が達成されるまで記銘しておかなければならないという記銘力が要求される.

5.構成課題
・重なっているペンタゴンを書く課題であるが正否の判定が困難な場合があり、妥当性の問題が指摘されている。
・構成障害の有無の検出には立方体透視図(Necker cube)の模写課題の方が有用であるとの報告もある
⇒そのためMMSE実施後にNecker cubeの模写課題を追加実施することで視空間認知障害
をより詳しく評価できると思われる

【文献からの参考】


・1)HDS-RやMMSEの臨床での活用で、特にDr,セラピストでは総合得点による認知機能障害の評価が中心で、どの項目の得点が低下しているかという項目間の得点の分析・検討はほとんどなされない。しかし実際には項目間の得点の分布の違いを検討することが臨床上は重要である。
・2)MMSEは被験者がMCIであるが病前の知的能力が高く、視空間認知障害が主な症状である場合には感度が低い。
・2)MCIであっても言語症状がある場合には低得点となる場合があるため、得点だけでなく項目に注目する必要がある。
・「3単語即時再生」にかかわっている認知機能は, 聴覚認知, 「物品呼称」では視覚認知・長期記憶からの想起,「県」では聴覚認知・長期記憶,쓕3段階命令」では長期記憶の想起 (手続き記憶) と聴覚認知であると考えられる. このことは認知症では刺激の入力様式である視覚認知, 聴覚認知は障害されにくく, 記憶として定着している長期記憶も障害されにくいことを示している.
・MMSEの項目を時間の見当識,場所の見当識という観点から見ると,
時間でも「日」は障害されやすく,「月」は障害されにくい.
場所では「市」は障害されやすく,「県」は障害されにくい.
これは認知症において障害されやすさを決めるものは, 時間・場所というカテゴリーによるのではなく, その項目に関係する認知機能, つまり「日」は毎日更新され短期記憶に入り,「月」は 30日続くので長期記憶に入る.
同様に「市」は検査する場所が必ずしも今自分が住んでいる「市」で行われるとは限らないので長期記憶に入りにくく,受診範囲が「県」を超えることは殆どなかったのでこれは長期記憶に入っていることを示している

【参考文献】


1)脳損傷者の認知機能評価に関する psychometricsの再考(10)―Modified Mini Mental Test(3MS)とMMSE,HDS-Rとの比較― 富永 大介
2)Evidence Basedで考える認知症リハビリテーションー田平隆行、田中寛之
3)新たに修正した認知症のための簡便な認知機能テストとMini Mental State Examination(MMSE)との比較-福島 和子

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