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【心得帖SS】「ウタゲ」のあとは?

宴は中盤から終盤に差し掛かっていた。
「うわっ、京田辺課長全然変わってないですね」
誰かが持ち出してきた昔の写真を眺めて、住道タツヤが笑った。

「いやいや、昔の方が肌ツヤ良いし、髪の毛もシャキッとしているだろう」
「ベースの話ですよ。課長」
弁明する京田辺一登を面白そうに眺めている四条畷紗季。
彼女の隣に居た大住有希が写真の右側を指差した。
「あのー、京田辺課長の横に映っている超絶イケメン男子はどなたですか?」


「ああ、これは慎司だよ」


「エエエエエエエエエエ!」

「嘘っ、あの豚まん課長が⁈」

「当社比2.5倍どころじゃないですよ」


「君たちなかなか失礼だな!あと大住君は後で校舎裏なっ」
普通に座っていた寝屋川慎司がこめかみをピキピキ言わせながら若手メンバーを睨み付ける。

「えっ、私告白されちゃうんですか?ごめんなさい心に決めた人が居るので」
お酒が入るとノリが良くなる有希は、胸の前に手を合わせて言葉を返した。
「くっ、説教しようとしたら秒で見に覚えのない失恋をしてしまった。全く上司の顔を見てみたいよ」
「いやお前だよお前」
ここに来て京田辺と寝屋川の同期漫才が炸裂したので、それまで笑いを堪えていた若手社員達はドッと爆笑の渦に巻き込まれた。

こうして、●●支店の大花見大会は大盛り上がりのうちに終了。
中締めのあと、片付け班以外のメンバーは二次会へと向かって行った。

「終わってみると、なんだか寂しいですね」
空き缶をゴミ袋に入れながら、紗季が呟いた。
「センチメンタルモードですか、姉さん」
すかさずタツヤがまぜっ返す。
「姉さんって言うな。私だって感傷に浸りたいときもあるのよ」
「スンマセン。特にどの辺りが刺さってるのですか?」
素直に謝ったタツヤは、興味を惹かれた部分について尋ねる。
「一番思うのは、このメンバーでいつまで一緒に仕事ができるのかなぁってことかな」
「ああ、分かります。紗季さんも俺も異動の時期っちゃあ時期ですもんね」
現部署に丸4年在籍している2人は、ジョブローテーションの仕組みに則ると異動してもおかしくないタイミングであった。

「オレはもう暫く居そうですけど、先輩はそろそろ本社に行きそうですね」
「うっ」
後輩から謎のプレッシャーを掛けられてたじろぐ紗季。そんな様子を見て、タツヤはフッと優しい表情を浮かべた。
「いまの紗季先輩だったら大丈夫ですよ。本社でもバリバリいい仕事している姿が浮かびます」
「…タツヤ君」
「まあこれ位にしましょう。湿っぽいのはあまり好きじゃないんで」
それに先輩の異動が決まったワケではないですからね、と言いながらタツヤは段ボールを抱えながらひらひら手を振って歩いていった。

残された紗季は、小さく息を吐くと、改めて自らに問い掛けた。

(私自身がどうしたいのか、そろそろ決めないとね…)

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