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【心得帖SS】コンビニスイーツパーティー

「紗季先輩、今からお帰りですか?」
机を整理して立ち上がった四条畷紗季に、隣課の大住有希が声を掛けた。
「うん、そうだけれど何かあった?」
ショートカットにくりんとした瞳が可愛らしい彼女を見ながら尋ねる。
「あ、仕事じゃないのですが、これから綾音ちゃんと私の家でおしゃべり会しようと思っているので、先輩も如何かなと」
「なにその楽しそうなイベント、私も混ぜて」
即答した紗季は、言葉を続ける。
「あ、一度自宅に帰ってから伺っても良いかな?」
「勿論です。ただし1つお願いが」
「ん?」


自宅に戻って身支度を整えた紗季は、駅の方に向かって歩き始めた。
有希の家とは最寄駅は同じだが、ちょうど反対側に位置している。
駅前の商店街を進んでいくと、途中に立ち寄りたい目的地に到着した。
「有希ちゃんからのミッションは、いま最推しのコンビニスイーツを3品持ってくることだったわね」
買い物カゴを手に取った紗季は、チルドデザートコーナーに足を向ける。
(昨年はシュークリームにハマってたのよねーさてどうしようかしら…)

それから30分ほど後に、彼女は有希が住んでいるマンションに到着した。
「いらっしゃい、紗季先輩」
玄関のドアを開けて出迎えた有希は、紗季が下げていた袋を受け取って手招きした。
「どうぞリビングまでお進みください。もうすぐ料理も揃いますので」
「有難う、お任せしちゃってごめんね」
「いえいえ、綾音ちゃんもお手伝いしてくれましたので」
「うっ、ウチの後輩が皆んな女子力高くて眩しい」
「あはは、私は体育会系料理派なので切って焼いてがメインですよ。綾音ちゃんは本格派ですけど」
食器棚からグラスを3つ取り出した有希は、キッチンで鍋から何かを味見している藤阪綾音を指差して言った。
「お嫁さんに欲しい」
「メイドさんでもいいですね」
「や、やめてくださいよぉ」
少し顔を赤くした綾音は、ローテーブルの上に鍋を置いて言った。
「お待たせしました。これで完成です」
「では、おウチ女子会始めましょうか」
シャンパンを取り出した有希は、ニヤリとした表情を浮かべた。


「何これ、凄く美味しい!」
和風パエリアを口にした紗季は目を見張った。
「SNSで見かけたレシピが良かったので自己流でマネしてみました。良かったら今度共有しますね」
「本当?ありがとう」
「この海鮮チヂミもピリ辛でお酒が進むわね」
凄いペースで飲酒を進めている有希は、早くも別の酒瓶を引っ張り出して来ていた。
「それにしても有希ちゃん、こんなにお酒のストック持っていたのね」
半ば呆れている紗季に、有希は慌てて弁解する。
「ち、違いますよ。これはタツヤ先輩が勝手に置いていったもので…」
「そっちの方が衝撃的だわっ!」


「わ、女子会あるあるの恋バナ開始ですか?」
目をキラキラ輝かせる綾音に、有希がビシッと言った。
「じゃあまず言い出しっぺの綾音ちゃんからスタートしましょうか」
「はーい、私は学生時代から付き合っている彼氏と遠恋中でーす」
「くっ、このイマドキ女子めっ」
「綾音ちゃん…寂しくないの?」
心配そうに尋ねる紗季に、綾音は「紗季先輩優しい…ママみたい」と呟きながら応えた。
「毎日電話してますし、週末は結構会えているので大丈夫です。それに婚約もしていますし」
「ここここここここ婚約ぅ⁈」
「紗季先輩、興奮しすぎてニワトリ出てますよ」
思いもよらないワードがぶっ込まれたため、思考がスパークした彼女を有希が介抱する。
その腕をガシッと掴んで紗季が言った。
「そう言えばさっきの話が放置されていた。タツヤ君と有希ちゃんはどうなっているの?」
「べ、別に何もありませんよ」
否定しながらも微妙な反応を見せる有希。その時彼女のスマホがブブっと震えた。
L●NEの画面には『明日早いからあまり遅くまでハメを外さないように』とのメッセージが映っていた。
「…」
「こっ、これはサッカーの試合を見に行く約束をしていまして、深い意味は無いんです」
顔を真っ赤にして弁明している有希を見て、現在ゆっくりと関係を築いているところだと察した紗季は、はあと溜め息を吐いた。
「2人とも幸せそうね。いじいじ」
「あのォ、前から聞きたかったのですが」
意を決したように綾音は口を開いた。
「紗季先輩は、京田辺課長のどこが好きなんですか?」
「ん?全部だけど」
「早っ、そして重っ!」
「…有希ちゃん?」
「ナンデモゴザイマセン」

そして、宴は進んでゆき…。
「本日のメインイベント、背徳の深夜スイーツターイム!」
「いえーい!」
「パフパフパフパフ」
良い感じに酔っ払った女子3名がそこに居た。
「さてさて、紗季先輩は何を買って来てくれたのかな?」
「うわっ、これ今まさにCMでやってる有名パティシエコラボスイーツじゃないですかっ!」
点けっぱなしのテレビから流れている某コンビニのCMを指差して綾音は喜びの声を上げた。


「あれいいなーって思ったときに手元にあるのって、素敵ですね」


その言葉を聞いて、紗季と有希の顔色が変わった。
「綾音ちゃん、今なんて?」
「えっ、有名パティシエとのコラボスイーツ」
「違う、そのあと」
「え、あ、いいなと思ったときに手元にある…ですか?」
「何だろう…凄いヒントだけれど浮かびそうで浮かばない」
「紗季さん、これは朝までパターンですかね」
チェイサーの水を一気に煽った有希は、立ち上がって給湯器のスイッチを入れた。
「綾音ちゃん、これから朝まで新しいプロモーションのアイデア会議するから順番にお風呂入ろうね」
「えっ今日泊まりですか?私何も準備してませんが」
「大丈夫、まるっと貸してあげるから」
「ひえーっ」


23時から始まったアイデアミーティングは、途中オンラインで住道タツヤも強制参加させられて明け方まで続いたのだった。

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