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基軸通貨の意味と人民元の挑戦

国際決済はすべて米ドルを介して行われる。それが「基軸通貨は米ドル」の意味だ。その仕組みは画像の通りだが、一通り説明する。

日本企業とイギリスの企業の間で貿易する場合を考える。日本企業がイギリス企業からモノを買い、その代金を支払う場合だ。

日本企業が保有している通貨は日本円で、それを日本の取引のある銀行に振り込む。日本の銀行は直接イギリスとやり取りするかというと、これがそうではない。

日本円を受け取った日本の銀行は、これをまず、自行のアメリカにある支店に送金する。そしてアメリカの支店で米ドルに換金し、イギリスの相手企業の取引銀行の、アメリカにある支店に送金する。

イギリスの銀行では、受け取った米ドルをイギリスの通貨であるポンドに換金し、それをイギリス国内の自行に送金する。そのポンドが、イギリスの企業に支払われる。

なぜ日本の銀行がイギリスの銀行と直接やり取りしないかというと、取引量がバランスしていないといけないからだ。

日本の銀行とイギリスの銀行が直接やり取りする場合、日本の銀行がポンドを保有している必要がある。ポンドを保有するということは、イギリスで日本円の需要がないといけない。

例えば日本企業が1億円の支払いをポンドでするなら、日本の銀行は1億円に相当するポンドを保有している必要がある。そのためには、この取引とは別のところでイギリス企業から日本へ1億円分の支払いが発生していないといけない。ポンドを円に換える需要があれば日本の銀行は円を売り、ポンドを買うことでポンドを保有できる。しかしその需要がないとポンドを保有することができず、ポンドでの支払いもできないことになる。

これがイギリスのポンドならよい。それなりに貿易額があるから、ポンドをも保有できるし、しておいてもいいだろう。が、世界には百数十の通貨がある。中には日本との貿易などほとんどないような国もある。そのすべての通貨を一定額以上保有することはできないし、無理にやるとしたら銀行の負担が大きくなりすぎる。

これに比べ、すべて米ドルを介することとすれば、各銀行はどこの通貨で決済するにしても、自国通貨と米ドルだけを持っていればよい。この方が遥かに便利だし、実務上はこの方法でないと世界との貿易は無理だろう。

このような仕組みの下では、すべての国際決済がアメリカ国内で行われる。ということはアメリカ政府はその気になればすべての国際決済を監視できる。決済を止めようと思えば、自国にある銀行支店に制限を課すだけで可能なのである。アメリカの国内で、つまりアメリカの国内法で世界中の貿易を止められるのだ。だからこそ、アメリカの金融制裁が効く。これこそが「基軸通貨は米ドル」という意味なのである。

その基軸通貨の地位を、中国が狙っている。人民元を基軸通貨にしようという挑戦だ。しかし、以上のような国際決済の仕組みを知れば、人民元が基軸通貨など悪夢としか言いようがないことが分かると思う。

人民元が基軸通貨になってしまえば、即ちすべての国際決済を中国共産党政府が監視し実効的な制裁対象にできるとすれば、中国に毅然とした対応をとることができなくなる。中国に気に入られなければ、制裁を受けて貿易などできなくなってしまうからだ。中国の国内法で世界貿易が止められる危険が常に付きまとうのである。

アメリカならばよい、という訳ではない。が、中国と比較すれば遥かにマシであろう。何と言っても、アメリカは自由や民主主義といった理念を日本と共有している同盟国なのである。尖閣諸島その他を巡って対立している中国共産党政府とは決定的に違う。

中国はデジタル人民元をはじめ基軸通貨への挑戦を続けるだろうが、単に「便利だから」などという呑気な理由でその戦略に乗ることは出来ないのである。

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