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読書記録:屍鬼(四)

読んだ本

屍鬼(四)

感想文

村に住む人間と屍鬼の比率が逆転する。屍鬼側の心理描写(死んでいるが感情はあるようだ)も増え、一枚岩ではない彼らの状況が明らかになる。
わたしが心情的に肩入れをするのは医者の尾崎だ。彼の研究心や正義感は物語上表面的に出していないけれども、読み手によく伝わる。
彼の手から患者が手から少しずつ溢れていき、焦る行動に出るのだが、もう1人の主人公である「寺」には伝わらない。いや、伝わってはいるが理解するのが難しいというところだ。
途中まで2人は手を取り合って問題を解決に結びつけるのだろうと思っていたが、どうやらそうではないらしいことが察せられる。
根本的な考え方が違うのだ。

経験上、異なる考え方を持つ友人は自分にはない視点や意見を持っているため、とても面白苦感じる。それは良い作用を生むことが多いが、このような場面に(通常はそんなことはないが)遭遇した場合は違うのだなと感じた。
良い作用を持ちながら、おそらく2人が待つ終わりはそれぞれ異なるのだ。
そんなことを思いながら読み切った。

さて、屍鬼側の心情が出てきたと言ったが、怖いのは屍鬼ではなく人間の奥に潜んでいる感情だ。
屍鬼になることで、奥に潜んだ感情が全面に出てきているような気がしてた。友人に恨みを持っていた女子高生は、その親を羊として扱い挙げ句の果てに暴言を言い残して去る。
家族から蔑ろに扱われていると思い込んでいる息子は、祖母を殺しそれを悲しみもせずに次のターゲットを探すのを楽しんでいる。
おそらくこのまま人間だったら何も起きなかった閉ざされた、奥底にしまっているような感情が屍鬼になることで全面に出てきているのだろう。
普段の生活の中で、一番奥底にある感情というのはあまり気づかないことが多い。それが表に出た時、人間はどのように変わるのか、わたしだったらどうなるのだろうか、そんなことを思った。

次がどうやら最後の巻のようだ。
どちらに転んだとしても、すっきりしない最後だろうなと思っている。ホラーだし。人間泥臭い最後になることを楽しみにしている。

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