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君の物語 36 不在

部屋のドアを完全には閉めない癖が抜けない。ちょうど猫の頭が入る分だけ開けておくのだ。
夜に雨戸のシャッターを閉める時も、外が見えるように猫の背丈の分だけ開けておく。

もう必要ないことはわかっている。わかっているけど、閉め切ってしまうことができずにいる。


猫のヒゲはお守りになるときいた。
普段からヒゲを取っておけばよかったのにと後悔した。
見つかったのは2本だけ。
あんなに抜け落ちていたのに。
「猫のヒゲってしなやかで強くてきれいだね。捨てるの勿体ないね。」と言い合っていたのに。
とりあえず、この2本でお守りを2つ作った。ご利益を期待したわけじゃなく、何か形にして持っていたかった。
不器用だから、不細工なお守りができあがった。不恰好だけど愛情はたっぷり注いだ。

ひとつはコハクへ、
もう一つはムギへ。

それから少しして、もう1本ヒゲが見つかった。もう一つお守りを作った。
続いてもう1本。4つ目のお守りもできあがった。私と夫の分。
それ以降は見つからなかった。
ちょうど4本だけ。
ちょうど、私たちのお守りが作れるだけ。

ルゥ、
みんなのお守りを作らせてくれて
ありがとう。


ルゥが使っていたトイレには、きれいに掃除した猫砂が平らに敷いたままになっていた。

わかってる。
片付けなきゃならないことは、
わかっている。
だけど、どうしても手をつけられずにいた。


猫砂にぱっと見でわかるほど埃が積もってきた頃、見かねた夫が

「もう、いいだろ?」

と口にした。
「俺がやるから大丈夫だよ」と。


手伝うこともできなかった。

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