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君の物語 26 それぞれの攻防

コハクはよくルゥに椅子を取られる。少し寄ってもらったり、どいてくれるまで待ってみたり。
時には強制移動させることもある。
しかし猫は身のこなしが圧倒的に俊敏だ。椅子から降ろしてもコハクが座る前にすっと椅子に登ってしまう。
涼しい顔でくつろぐルゥを前に、コハクは疲れた顔で苦笑している。


ムギはトイレについてくるルゥをかわすのに苦労している。当然のように一緒にトイレに入ってしまうから。
ドアが開いてムギの手で押し出されるルゥを、よく見かける。何度押し出されてもくるりと踵を返し、ドアが閉まるとほぼ同時に中に滑り込む。
そのうち根負けしたムギが一緒に入ることを許すのだった。 

ムギにきいてみた。
「一緒に入ったルゥはどうしてるの?」
「ドアの方を見て座ってる。」
もしかしたらトイレ中に無防備になるムギを、守ってるのかもしれない。

夫は猫と触れ合いたい。
仕事から帰ってきてルゥに遭遇すると、スーツも脱がずにかまい始める。
一方ルゥは逃げの一手。
捕まって抱き上げられてしまうこともあるが、結局は身をよじって飛び降りる。

私は広げた新聞に乗られる。
猫あるあるだ。
触ると逃げてしまうので、手を出すのは我慢。ちょうど読んでいる記事の上に座るので、どこを読んでいるのかわかるみたいだ。
でも大丈夫。ルゥが乗っていない箇所を読めばいいだけ。
新聞をめくった拍子に、めくりかけの上にぐしゃりと乗っかることがある。
あれはわざとだな。
そんなことされるとつい〈可愛いなあ〉と滑らかな毛に手を伸ばしてしまう。
すると触るか触らないかのところで、
ふいっといなくなる。
残されるのは浮いたままの手とグシャグシャな新聞。

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