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君の物語 31 笑ってはいけない

その日、何かの工事らしきものがあって電気屋さんが来ていた。

こういう客人が来ると落ち着かないのはみんな同じ。同じだけど、ルゥは特に落ち着かない。極度のビビり屋さんだから。
普段から、客人があるとベッドの下に潜り込んで出てこないのが常だ。

この日の工事はルゥの部屋(子ども部屋ともいう)のすぐ隣に電気屋さんが入った。
知らない人+工事の音+知らない男の人の声。これはもう、ルゥにとっては恐怖の極み。
コハクとムギがそばについていたけど、それでもいたたまれなかったみたいだ。
工事の人が一旦外へ出た隙に、ダッシュで階下へ。転げ落ちたのかと心配になるほどの勢いで駆け降りて行った。

戻ってきた客人と鉢合わせたらまずいと思い、私たちもすぐに追う。
キッチンに行ったかと探したが、見つからない。
もしやと思って洗面所へ行ったらー

ーいた。

洗面所の隅っこに籐椅子が置いてあって、その奥。籐椅子と壁の間に挟まるように縮こまっていた。
きっと隠れているつもりなんだろう。

丸見えだけど


必死で隠れているんだ。
体をギュッと丸めている。

丸見えだけど


全然!隠れてないけど。
おもしろ可愛い。
けど、笑ってはいけない。

ルゥはきっと、心臓が破裂しそうなほどの緊張下でパニックに陥っているんだ。
絶対に笑ってはいけない。
ここで笑ったらルゥを傷つける。
なのに、ツボにハマってしまった。
込み上げる笑いを、必死で押し殺す。

工事の人が戻ってくる前に、なんとしても一番安全な部屋へ連れて行かなくては。
だって、これじゃ〈丸見え〉だもの。

あまりの必死な様子と可愛らしさにコハクとムギも笑いがこぼれる。しかしルゥの自尊心を傷つけてはいけない。こらえて捕獲を決行。
ムギが「大丈夫だよ」と声を掛けて抱き上げる。カチコチに固まっているルゥは、

形を崩さずに丸いまま

ムギの腕の中に収まった。

もう、〈置物〉だった。

笑ってはいけない。

3人でお互いの顔を見て頷き合い、笑わないことを再度、無言で誓い合う。

ルゥはそのままの形を保って部屋に運ばれた。
私は笑いを押し殺して腹筋が痛くなってしまった。


絶対ルゥは気づいてたはず。
私の笑いを。
本当に申し訳ないことをしたと思っている。

ルゥ、おつかれさまでした。
そして、ごめんなさい。
爪出して猫パンチしても良いです。
     (されなかったけど)

不謹慎と思いつつ、
写真を撮ってしまいました。


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