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ルワンダコーヒー風土記 - アロマに隠された紛争と復興の物語

Kurasuはこの春、ルワンダのコーヒー〈Ruli Honey〉をリリースしました。先日は、ヘッドロースター・Takuyaさんとルワンダのコーヒーにまつわる思い出話をブログにてご紹介しましたが、今回は「ルワンダの風土」に焦点を当てて記事を書いてみようと思います。

産地の風土を見るほど、知るほどに、コーヒーはより一層美味しくなります。コーヒーの香りや味を越えて、その背景にある物語に耳を傾けてみませんか。

Kurasu Coffee Knowledge
Kurasu編集部が、コーヒーをより深く楽しむためのナレッジをお届けするシリーズ。意外と知らない産地の話、焙煎士やバリスタだけが知っている現場の知恵、あまり知られていないコーヒー器具の話まで、一杯のカップの背景にある広い世界をご紹介します。

復興と希望の象徴、コーヒーチェリー

東アフリカの内陸に位置する小さな国、ルワンダ。スペシャルティコーヒーの生産において2000年以降、顕著な成長を遂げた国です。政府主導の下で品質にこだわったコーヒー生産が行われ、今やみかんのような優しい果実感と甘さのある特徴的なテロワールで、コーヒー好きの心を掴んでいます。

植民地統治とコーヒー栽培

ルワンダのコーヒー栽培の歴史は20世紀に遡ります。1930年、ベルギーは今のルワンダとウガンダの一部を「ルアンダ=ウルンディ」という名の植民地として統治していました。当時、多くの農家に義務付けられたコーヒーの栽培。その名残りでルワンダのコーヒー栽培は今も小規模農家ごとに行われています。

険しい道をトラックの荷台に乗って移動することもある。

その後、1990年代までコーヒーはルワンダで最も価値のある輸出品として成長します。しかし1994年国内で起きた大規模な大虐殺(ジェノサイド)により、100万人近くが犠牲になり、コーヒー産業は大打撃を受けます。

内戦を乗り越えて、高い品質を追究

内戦終結後、外国からの援助と関心を受け、ルワンダ政府はコーヒー産業の開発に取り組みました。政府管轄のウォッシングステーションが建設され、高品質なコーヒー生産の中長期的な目標を定めます。のちに多くのバイヤーがルワンダに興味を持ち、現地を訪れるようになりました。実はコーヒー品評会、カップ・オブ・エクセレンスのアフリカ初の開催国もルワンダなのです。

高い標高で引き締まるブルボンの甘さ

主な品種はブルボン、精製方法はウォッシュドが主流も多様化が進む

ルワンダのコーヒー生産においては、ブルボン種が主に用いられます。この品種は、凝縮した甘みとフルーティーな風味を持ち合わせ、ルワンダのコーヒー独自の味わいを形成しています。

また、政府はウォッシュド精製方法を推奨しています。しかし、近年はハニーやナチュラルなどの新しい精製方法も取り入れられるようになり、多様なフレーバープロファイルが生まれています。

赤く熟したブルボン種

例えば、今年Kurasuで取り扱っている〈Ruli Honey〉も、ルワンダではまだ珍しいハニープロセスのコーヒー。リンゴのような甘みと柔らかなジューシーさを楽しめます。

パルピング(果肉除去)後、乾燥しているRuli Honey。パーチメント(内果皮)を脱皮させる前に約3日ほど乾燥させている。 (写真提供:Green Pastures

恵まれた自然環境

さらに恵まれた栽培環境も、ルワンダのコーヒーが特別な理由の一つです。「A country of thousand hills(千の丘を持つ国)」と称されるほど、ルワンダには標高の高い土地が広がっています。

コーヒーからポテトの臭いがする?

東アフリカ特有の、原因不明の欠点豆

最後に、ルワンダのコーヒーについて語る上で欠かせないテーマ、「ポテト臭」について触れておきましょう。

「Potato taste defect (以下、PTD)」は、ルワンダのほか、東アフリカのブルンジ、コンゴ、ウガンダで確認されるコーヒーの欠陥です。挽いた粉や淹れたコーヒーから顕著な「生じゃがいも」の香りがし、味わいに悪影響を与えます。

これは「Antestiopsis」と呼ばれるカメムシの一種がコーヒーチェリーに穴を開けることで生じるバクテリアに起因していると言われていますが、その正確なメカニズムは未だに解明されていません。

PTDが混合しているときは

PTDのややこしさは、豆の見た目でそれを判別できないことです。虫食い、未成熟、過発酵豆、欠け割れといったほかの欠点豆とは異なり、PTDは豆を挽いて香りをテストするまで発見できないのです。

ただし、PTDが混合している場合、抽出した一杯のカップから明らかに「生じゃがいも」をむいた際の臭いがします。人体には無害なのですが、明らかに「不味い」と感じます。

したがってKurasuでルワンダの豆を販売する際には、通常よりも少し多めに豆を量ってお渡ししています。万が一、カップからポテトのような臭いがした場合は、新たにコーヒーを淹れなおしてください。

こういった知識をあらかじめ持っていれば、PTDに出会ったときに「ちょっと珍しい体験ができた」とポジティブに捉えられるかもしれません。

コーヒーで触れる知らない土地

植民地統治、紛争、そして復興。ルワンダのコーヒーは、それを育んできた土地の歴史と深く結びついています。

こういった少しの背景知識が、一杯のアロマに新たな意味をもたらし、コーヒーの楽しみ方を豊かにすると信じて、今回の記事を書いてみました。

多くの人々の手を経て日本に届けられる生豆。さらにロースターが丁寧に焙煎して、お客様のお手元に届く美味しいコーヒーに仕上げます。

暮らしの中でちょっと遠くに想いを馳せる、そして毎日のコーヒーが少し特別になる。そんなきっかけになっていたら、嬉しく思います。

おいしいコーヒーと共に、今日も良い一日をお過ごしください。

(カバー画像提供:Green Pastures)

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