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みちくさかびん

私が小学生だった頃の春の想い出。

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学校の帰り道、近くの公園では桜の花が満開を迎えていた。
ちょっといいことを思いついた私は、散り落ちた桜の花びらを拾い集めて、手の平いっぱいにして大切に持ち帰った。
わくわくしながら家路を辿り、母が玄関のドアを開ける瞬間に”今だ!”と両手を広げ、花吹雪のように散らしてみせた。


それは当時の私なりのサプライズプレゼントだった。満開の桜を見た嬉しさを届けたかった。
目の前にいる母のくしゃっとした幸せそうな顔は、今でもときどき思い出す。

あの日から、帰り道に木の実や小花を見つけては、ときどきおみやげに持ち帰ると、可愛い豆皿やガラスのコップに生けて飾ってくれていた。

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大学4年生のとき、久しぶりに母とこの話をした。
手に取るとまだほのかに温かい道草の”おみやげ”は、子どもが帰り道にどんなものを見て、どんなことを考えてきたのかが、なんとなく伝わってくるもの。
そんな道草のおみやげを、「大切に飾っておきたい」と思う家族の気持ちに、あらためて気付かせてくれた。

こうして生まれたのが、『みちくさかびん』という小さな長靴のかたちをした花瓶だ。
みちくさかびんは、その頃通っていた美術大学での卒業制作にも取り上げ、作品として、新たな一歩を踏み出すこととなった。


淡い桜色に染まる花瓶には、母と幼い頃の私が一緒に喜び合った、いくつもの想い出が詰まっている。



くらしのなかの手紙 -暮らしの雑貨と読みもの-
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