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船乗りは船を忘れて


船乗りは船を忘れて

もうずいぶん前から
この言葉だけが浮かんだままだった


でもそこから
次の言葉がなかなか出てこない

この絵にはどんな物語があるんだろう

そんなことを思いながら
 
ずっと探していた


無理に引き出すことはせず

いつまでも待っていたら

船乗りは船を忘れて旗を振る

言葉が生まれ

絵の物語が聞こえてきた



船乗りは船を忘れて

船乗りは 船を忘れて 旗を振る

遠い昔 船乗りは 大きな海を渡った

でも今は 毛のはえた記憶の中で
眠ったまま  旗を振っている

タンポポの綿毛が ゆらゆらと
船乗りの頭を かすめてゆくけれど

舵を握った船のことは 忘れてしまった

水平線 すいへいせん スイヘイセン

沈む太陽と 昇る月に
船乗りは あの日書けなかった
いつかの 手紙を書く

あの日私は
何に揺られ 何を 目指したのか

そして今 私は 何を忘れて 
旗を振っているのだろう

 
古びた万年筆から引かれた線が
いつかの便せんの海を

どこまでも どこまでも 渡っていった


そして今も、その線はどこまでも続いている


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