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選書イベント雑感 ~本に熱を乗せて。

先週開催した「しまねの秋の、お楽しみ」。イベント的要素も多々ありつつも、私たちが今後「この場所で、こんなことをやりたいのです」というのを表現する場として、皆さんに見ていただきました。

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その中のひとつが「山の図書室」。

今日の「時々、コラム」はこの図書室のこと、とりわけ今回初の試みとして企画した「あなたのための1冊選書」について、綴ってみたいと思います。

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「あなたのための1冊選書」とは …以前このコラムにも書きましたが、「誰かに本を選んでもらうことの面白さ」を体感してもらうための企画で、図書スタッフが1冊、ご自身で1冊をそれぞれ選んで貸し出します、という試みです。

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詳細はこちらの記事からどうぞ。

1日限定、予約制、人数も最小限で、という感じで開催したこちらの企画。

最初は「誰も予約してくれなかったらどうしよう」と思っていたのですが、ふたを開けてみれば、当初の予定よりも早い段階で定員に達し、予約を締め切らせていただくことになりました。

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「本を選んでほしい」と思っている方が、私たちが思うよりもたくさんいらっしゃったことがまず嬉しく、平日の、さして便利でもない場所で開催する催しに、わざわざ足を運んでくださる(しかも、本は返却しなければならないので、もう一度足をお運びいただくことになるのです)ことが本当にありがたく、しみじみと感動していました。

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読書のお供には、おいしいお菓子とコーヒーを。寒い中でしたが、お時間のある方は皆さん、マグカップ片手に読書を楽しまれたようです。

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会場のある出雲市斐川町の「焼き菓子工房徒歩」さんのスコーン(使用された地粉は同じ斐川のながせファームさんのもの)とコーヒー(こちらは松江市の「カフェクベル」さんの読書ブレンド)を楽しみながら、お話に花を咲かせたりしている様子も。

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地元のおいしいものを本のお供に、という思いでセットにさせていただきました。

そして、参加された方の反応などを図書館司書のキシノさんからうかがうと、皆さん選ばせていただいた本に対して前向きで、「読んでみます!」と受け入れてくださったとのこと。

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選書してもらいたい、という思いを持っていらっしゃった方はきっと、新たな出会いを求めて申し込んでくださったので、どんな本でも「楽しそう」とポジティブに考えてくださるのかもしれません。

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いまごろ、読んでくださっているかなあ…どんな感想を抱かれるだろうか。イベントは終わってもドキドキは続いています。


終わってみての感想として…「誰かのために本を選ぶ」というのは、思った以上に難しい作業でした。早い方では10月の上旬にお申し込みをいただいていましたので、1か月以上かかって1冊を選んだことになります。主担当のキシノさんも、相当大変だったのでは…と推察します。打ち合わせの際、ノートにいろいろと書き連ねておられましたが、苦悩の跡が見てとれました。

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面識のない方の、ヒアリングシートだけを頼りに1冊を決めていく、という方法を今回はとっていたのですが、その回答の「どこに」焦点を当てて方向性を見定めていくのか、というのが一番重要で、一番苦労した点でした。好きなジャンルなのか、いつも読んでいる作家なのか、ストーリーの展開なのか。好きなものに寄せるのか、まだ読んだことのないものに挑戦してもらうのか、などなど。

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(反省会の際、オープンスペース.美南のオーナーさんから差し入れで頂いた焼き芋!おいしいものがあると、話し合いもほっこりします。)

見ず知らずの人だから「気に入られなかったらどうしよう」という不安が先に立ち、ついつい安全策をとってしまいがちになります。

例えば「これからの人生を考えるような」という要望に対して、「老後の趣味」がテーマの本を提案する、というような。

もちろん、それがどストライクで喜ばれる方もいらっしゃるかもしれないけれど、何かもう一歩深く踏み込んで、遠回りであっても結果的に未来が楽しみになるような、そんな本の方が心に残るのでは?と、何度も打ち合わせで意見を交わしていきました。

なので、当初候補に挙がった本と最終的に決まった本が違う、という方もたくさんいらっしゃいます。

キシノさんが迷っておられる際にお願いしたのは、「Amazonのレコメンド機能みたいに、この作家が好きだったらこの作家も好きでしょ?っていうやり方じゃなくて、キシノさんが自分で思う、ヒアリングシートの言葉から拾いあげたその人の思いに、ご自身の本への熱を当てはめてほしい」というようなことでした。

もちろん図書館司書として「おすすめの本」の提案の仕方はあるのでしょうけど、今回はもっと個人的な熱を注ぎ入れてもらいたい、と。

それはある意味賭けでもあり、もしかしたら全然気に入ってもらえないということもあるかもしれませんが、それでも、この企画で、私たちに本を選ぶという権利を委ねてくださっているのだから、大いに自分の個人的な嗜好や考えを持ち寄って、より良い1冊を提案したほうがいい。

結果としてヒアリングシートに書かれていることとは一見すると真逆になることだってあるかもしれないけれど、おひとりおひとりに「なぜ、あなたにこれを選んだのか」を説明すれば、きっと分かってくださると思う。そんな話を繰り返し、直前まで迷いながらも1冊を選んでいきました。

選書イベント当日、他のスタッフから「キシノさん、すごーく丁寧にひとりひとりに対応しておられたよ」と聞きました。

きっと、「あなたのために、じっくり考えて選びました」というその時間と熱量が、相手に伝わったのではないでしょうか。何日もかけてぐるぐる迷いながら最終的に手に取った1冊、というその熱が、届いているといいなあ、と思います。

「あなたのために」という熱を、直接やり取りするのではなく、「本」というかたちに変えてお渡しする。

受け取った人はその本に書かれていることから、また違う「熱」を受け取る。

その循環で、わくわくする場所が生まれる。

このことが自分たちが選書イベントを通してやりたかったことなのかなあ、という気がしています。

何より、本に囲まれ、本の話をお客さまとするのは楽しい!なるべく垣根を低くして、いろんな方が抵抗なく入っていけるような空間になったらいいなあ…と、来年以降の図書室のあり方に向けて、少しビジョンが見えてきたようにも思いました。

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イベント会期中や終了後、何人かの方に「選書してもらいたかったです」「気づいたときには予約が終わっていて…」とお声がけをいただきました。

今回選書させていただいた方も含め、「一度やってもらいたいと思っていた」という方が多いことにも驚きました。

今回はイベントとして設営した図書室ですが、来年の春から定期的なオープンを予定しています。

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反省会の際、スタッフとキシノさんで、「月に1度は”選書の日”みたいにできたらいいね」と話をしました。それぞれの活動ペースや体調のようすを見ながら、実現に向けて模索を続けているところです。

「私も選んでもらいたい」「子どもに選んでほしい」など、ご希望のある方はどうぞ楽しみにお待ちください。キシノさんと私たちくらしアトリエスタッフが、「これ読んでほしいんです!」という熱い思いを本にのせてお届けできるよう、企画を進めていきたいと思います。



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