見出し画像

大相撲とシビックプライド。

今週の「時々、コラム。」は、シビックプライドの表現のひとつとしての「大相撲」について。

何を隠そう、大の大相撲ファンの私。
小学校の頃からテレビで相撲を観ていて、「巡業の時におじいちゃんちに栃乃和歌が泊まった」というのが思い出としてめちゃくちゃ強烈に残っています。

同年代の女性とはあまり話が合わないけれど、年上の、特に年配の方とは相撲の話で盛り上げることができるというのは一種の特技のようなもので、祖父の家に行けばいつもテレビを観ながらああでもないこうでもないと相撲談義をしたり、「はたひよどり」を拠点にしていた時にはお隣のおじさんと「今回はつまらんねえ」なんて話をするのも、楽しかった記憶があります。

そして、地元で相撲の話をする時に欠かせなかったのが、元関脇「隠岐の海」さんのことでした。
島根県隠岐の島町出身の隠岐の海関は、私たち島根の大相撲ファンにとって、まさに「郷土の星」でした。

「今場所は調子がいいね」とか「勝ち越しまであと1つだけどなかなかねえ」とか、そんな話をするのが島根の相撲ファンの恒例で、場所が始まるたびにワクワクして、勝ち越せば喜び、番付が上がったり下がったりするたびに一喜一憂して過ごしていたのです。

そんな隠岐の海関が今年の1月で引退を発表し、つい先日、9月30日に引退相撲と断髪式が行われました。長い現役生活に幕を閉じた、その引退相撲のようすが、とても話題になったのを皆さまご存じでしょうか?

こちらは、日本相撲協会公式のX(旧Twitter)の投稿。動画でご覧ください。

最後の取り組みの相手は、同じ隠岐の島町出身の「隠岐の富士」関。

ふたりとも、隠岐の島町に古くから伝わる「隠岐古典相撲」の経験があり、引退相撲はこの「隠岐古典相撲」の形式で行いたい、とのリクエストで、上の映像のような、国技館ではお目にかかれない取り組みが行われた、というわけです。

隠岐古典相撲とは…
隠岐古典相撲大会(おきこてんずもうたいかい)は、島根県の隠岐郡で行われる相撲大会のこと。一般的な相撲大会と違い、島内で祝い事があったときにのみ開催され、島を挙げて夜通し取り組みが行われるのが特徴である。

Wikipediaより

動画を見ると分かるように、対戦する力士に大量の塩を投げるのが特徴のひとつで、引退相撲では両者ともに塩まみれになっていて、隠岐の海関も思わず笑ってしまっていました。

また、大きな特徴が「人情相撲」と呼ばれるもので、取組は2番行われ、最初に勝った力士は次の1番は相手に勝ちを譲って、わざと負けるのが習わし、とのこと。狭い島の中で遺恨を残さないように、という配慮から生まれたルールのようです。

土俵の周りで塩を投げるのは、地元・隠岐の島町からチャーター機で両国へやってきた町民の皆さん。
行司もいつもとは違って裃姿だったりと、いろいろと驚きがあったのではないでしょうか。

「隠岐古典相撲」は、以前島根の映画監督が映画化したこともあり、その豪快さや地域あげての「祭り!」感がすごく印象的だったのですが、今回、引退相撲でそのようすが一部とはいえ再現されたことで、隠岐・ひいては島根の文化に興味を持ってくださった方が増えたんじゃないかなあ、と、嬉しくなりました。

聞くところによると、この日の国技館はさながら「島根物産展」の様相だったそうで、知事もPRに繰り出したとか。
こういう、地域との結びつきも、相撲とは切っても切り離せない重要な要素なのです。

隠岐に向かうフェリー

テレビで大相撲中継をご覧になると分かりますが、力士が土俵に上がると必ず「出身地」が読み上げられます。
隠岐の海関なら「隠岐の海 島根県隠岐郡隠岐の島町出身 八角部屋」というように、きちんと出身地を毎日、アナウンスする。これも、力士が地域とつながっている、という表れのひとつだろうなと思います。

地元には後援会があり、サポートをする。力士は場所が終われば帰郷して、応援してくださった方々に挨拶をする。一緒に写真を撮ったり、手形を送ったりして、ファンの皆さんを大切にする。

そういうつながりがあるから、地元の力士を応援しよう!という気持ちになるし、活躍してくれたらわが事のように嬉しくなるのです。

だから、私はいつも大相撲中継を見ると「ああ、シビックプライドだなあ」と思うのです。ふるさとの力士を応援したり、好きな力士の地元に思いを馳せたりすることって、めちゃくちゃ強力な「地元への誇りを育てる手段」になり得る、と思うのです。

大相撲が皆さんにどういう視点で見られているのか、ファンなので客観的に見ることがなかなか難しいのですが、仕事帰りに私が車の小さなナビ画面で
相撲中継を観ていたりすると、「人の区別がつかない」「勝ち負けがよく分からない」と同乗したスタッフはいつも言うので、一般的な印象ってそんな感じなのかなあ、と思います。でも、一度でいいから、じっくりと中継を観てもらいたい!「地域」という側面からも、「日本文化」という面からも、興味深いことがたくさんあります!

ちなみに、神話からも島根と相撲はとても縁がある、ということが伝えられています。日本における相撲の最古の記録は『古事記』の国譲り神話にあり、出雲の稲佐の浜で、オオクニヌシとタケミカヅチが国譲りの交渉を行ない、タケミカヅチが出雲のタケミナカタと力比べを行なったという描写なのだそう。

また、『日本書紀』には大和国當麻の當麻蹴速(たいまのけはや)と出雲国の野見宿禰(のみのすくね)が力比べを行った、という伝承が記されているそうです。どちらも出雲に関連することから、出雲を相撲発祥の地、という方も多いとか。

そう言えば出雲大社の近くに「野見宿禰神社」があり、そこには土俵があったなあ、と思い出しました。

今回、隠岐の海関が引退したことで、大相撲の幕の内の中継を観るのが少し寂しくなりました。

でも、私の出身地は鳥取県。先場所は休場してしまいましたが、若手の最有力である宮城野部屋の「伯桜鵬(はくおうほう)」関の回復と活躍を、祈りたいと思います!

そして、隠岐古典相撲は大相撲などとは異なり、島の中で祝い事があったときにのみ開催されるものなのですが、コロナ禍で延期されていた「隠岐の島町新庁舎竣工祝賀奉納 第15回隠岐古典相撲大会」は、合併20周年記念に併せて令和6年度に開催する方向で調整されているそうです!楽しみですね。

サポートありがとうございます。とてもとても励みになります。 島根を中心としたNPO活動に活用させていただきます。島根での暮らしが、楽しく豊かなものになりますように。