見出し画像

成羽に行ってきました 今村光彦・作品展

成羽町は、高梁川の支流・成羽川沿いに拓けた町で、洋画家・児島虎次郎の出身地として知られています。今は合併により、岡山県高梁市になっています。成羽町では、児島虎次郎の画業を表彰するために、1953年に独自の美術館を開館しました。1994年には、建築家・安藤忠雄氏の設計による新美術館が竣工し、現在は、「高梁市成羽美術館」として地域振興のための様々な催し物を行っています。

今回は、写真家・切り絵作家、今森光彦氏の作品展「今森光彦 自然と暮らす切り紙の世界」が、2019年7月13日〜9月1日まで開催されるため、開会初日に成羽に向かいました。梅雨空の中、倉敷から国道180号線を高梁川沿いに北に向かいます。高梁市の市街が見えてきたところで高梁川を西に渡って、成羽川沿いの町並みを進むと美術館に着きました。約1時間半ほどの行程でした。

7月13日は開会初日だったので、オープニング・セレモニーの後、今森光彦氏本人によるギャラリー・トークと著書の展示販売が行われました。通常、切り絵作家は、カッター・ナイフで紙を切り抜くのだそうですが、今森氏は、一丁のはさみだけで最初から最後まで仕上げるのだそうです。小学生のときに、日本在来の蝶200種余りをすべて、はさみで切り抜いて作り上げることで培われた能力だとか。

氏の作品には、紙の切断線に波打つ揺らぎが見られます。はさみで紙を切ると言うことは、紙を宙に浮かせて切ることになるので、指先のみならず身体全体の揺らぎが紙の切断線に影響するはずです。リハビリテーション家からみると、作品にはそのようにして、氏の四肢・体幹・頭頸部全体の生きたゆらぎが、切断線の軌跡に表されていると読み取れました。

画像1

(今森光彦氏の作品には、身体全体の生きた揺らぎが、紙の切断線の軌跡に表れている。特に、葉や花びらの外縁が判りやすい。今村光彦・著:Aurelian, 株式会社クレヴィス, 2015. p84より引用))

会場では、切り絵(切り紙)以外にも、今森氏のアトリエ周辺の写真が展示されていました。アトリエがある滋賀県大津市仰木(おおぎ)は、筆者の生まれ故郷です。氏は、1984年より拠点を仰木に移し、日本の里山の自然を世界に発信し、また、失われゆく里山の自然の再興に力を尽くしておられます。

つい先頃、NHKのドキュメント番組「オーレリアン*の庭 里山の四季を楽しむ」では、アトリエの四季が、そこで暮らす生き物の生態と共に、美しい映像で放映されました。筆者は、1979年、18歳の時に仰木を発って以来、故郷で生活する機会はありませんでしたが、代わって、他所から来た人が故郷を大事に育んでくださっているわけです。わたしも倉敷のために、力を尽くさねばなりません。著書のサイン会の折に、仰木の出身であることを名乗り、生まれ故郷を盛り立ててもらっていることに、お礼を述べることができました。

画像2

今森氏と筆者(著書のサイン会で)

復路も梅雨空でしたが、心は歓喜に満たされて晴れやかでした。さらには、成羽川と高梁川の合流地点で、戦国武将・山中鹿之介の墓所を示す標識が偶然目に入り、途中停車して、参拝することができました。

画像4

戦国武将・山中鹿之介の墓

(出雲・尼子氏再興のために生涯を尽くし、志半ばでこの地に散った。「我に七難八苦を与え給え」と三日月に祈ったという故事は有名)

山中鹿之介とは、1984年、学生時代に南条範夫・著「出雲の鷹」を読んで以来、35年ぶりの再会でした。1984年は、今森光彦氏が仰木に移ったのと同じ年です!。時空が裂け開いて、歴史が入り交じったような、不思議な味わいの一日でした。

(2019年7月13日)

*オーレリアンAurelianとは蝶を愛する人たちのこと

画像4

今森光彦氏の最新の作品集と写真集

(Aurelian. 株式会社クレヴィス.  2015 /Aurelian Garden. 株式会社クレヴィス. 2019 )

追伸
滋賀県立美術館で企画展「今村光彦 里山 水の匂いのするところ」(2023.7.8ー9.18)が開催されましたので、出かけて来ました。

美術館は、森に包まれた平屋の建築です。

滋賀県立美術館

展示会場は、別世界を思わせる静謐で広くゆったりとした空間でした。

企画展展示会場

そこには、人間の視覚を越えた高精細画像により、琵琶湖西岸の穏やかな自然が記録・再現されていました。人間の知覚を超えた高精細の世界を前にして、身体の浮遊感を覚えます。現実を超越した体験をしたときの身体感覚なのでしょう。

会場を進むと、筆者の故郷・仰木の棚田のを鳥瞰した高精細画像が、四曲一隻の屏風に見た立てて展示されていました。

仰木の棚田(1989年)**

画像は格子窓越しに見た異界のように見えます。そこは、かつて筆者が生きた場所でした。じっと眺めていると急降下して吸い込まれてしまいそうです。いつか魂が還る場所なのだろうな・・という予感がしました。
(2023年9月8日)

**今村光彦・他著:今村光彦 里山 水の匂いのするところ. 株式会社クレヴィス, 2023, P60-61


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?