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2人のギタリスト、大賀好修と森丘直樹のサウンドの違いについての脳科学的考察

2021年2月10日は、ZARDがデビューして30周年の記念日でした。感染禍のなか、故・坂井泉水をサポートしていたミュージシャンが集まり、東京国際フォーラムにおいて、無観客の配信ライブが開催されました 1)。

バンドには、2人のギタリストが参加していました。大賀好修(おおが・よしのぶ)と森丘直樹です。

森丘直樹の演奏は、石清水のように濾過されて濁りのない、透明で引き締まったサウンドです。

森丘直樹

一方、大賀好修は、多様で複雑な色むらを含んだ、膨らんだサウンドです。

大賀好修

どちらも一流の演奏ですが、2人の個性を生み出している要因は何なのか?脳科学的に仮説を立てて考察してみました。

楽器の演奏は、運動学習によって習得されます。

運動学習のサイクル

高次運動野でプログラムされた演奏のパフォーマンスは、一次運動野を通じて筋で実行されます。その結果は、体性感覚(触覚・圧覚・振動覚・筋感覚・関節位置覚)として体性感覚野で感受されます。感受された情報は、評価され、高次運動野における運動プログラムが修正されます。このサイクルが繰り返されることで、演奏が上達すると共に、体性感覚野も高次運動野も神経細胞のネットワークが精緻に組織化されます。

長時間の練習によって体性感覚野は、太い結合でネットワーク化され、それが複雑に広い範囲に及びます。それは、さながら複雑に枝葉が茂った巨木のようです。

運動学習による体性感覚野の発達

そのようなネットワークは、繊細で安定したパフォーマンスを実現します。それは、伝統工芸の工芸家や古典芸能の演者といった熟練技能者の匠の技です。森丘直樹の超絶技巧もそのようにして実現されているのに違いありません。

脳には、覚える仕組みと共に、忘れる仕組みも備わっています2)。忘れる仕組みは、庭木の枝を剪定をするように、記憶を司る神経ネットワークの結合を弱めたり遮断したりして、記憶の細部を刈り込みます。それによって、蓄えられた情報が軽くなったり、記憶に緩みができて、新しい結合が出来やすくなります2)。つまり記憶が変容したり、融合したり、連想が生まれたり、抽象化・一般化されたりします。

記憶の刈り込みと海馬による結合

脳の深部にある海馬は、記憶のハブの役割を果たします。海馬で異なった感覚野や、言語野の記憶が結合されることで、さらに多様な記憶へと発展します。それは、さながら、よく手入れされた庭園のようであり、芸術的創造の基盤となります。

大賀好修の演奏スタイルは、自由で大らかで、時にイレギュラーです。

独特の方法で演奏する大賀好修

彼の脳では、体性感覚野の記憶のみならず、視覚野、聴覚野、言語野の記憶が融合し、創造的パフォーマンスを生んでいるのに違いありません。

ライブでは、2人が同じ旋律を協奏する場面がありました。

ライブで協奏する大賀好修と森丘直樹

それは、芸術家と匠の技が融合した至高の贈り物でした。

文献
1)ZARD Streaming LIVE“What a beautiful memory~30th Anniversary~" [Blu-ray]ビーグラムレコーズ 2021年12月15日発売
2)スコット・A・スモール・著, 寺町朋子・訳:忘却の効用. 白揚社, 2024. P17-53


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