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ナホさん2

金工作家、ナホさんによる真鍮製のスプーンを使っていて、最近気付かされたことがあります。

冷凍庫からアイスクリームを取り出して食べようとしたとき、掬おうとすると柄が曲がってしまいました。真鍮が柔らかいためで、ステンレスのスプーンを使っていたときは、あり得なかったことでした。

曲がった柄を元に戻し、しばらく待ってから、カップの縁のアイスが溶けてきたのを見計らって掬うと、ちょうど食べ頃になったアイスをおいしくいただくことができました。

真鍮のスプーンでアイスクリームを食す

今から振り返ってみると、ステンレスのスプーンを使っていたときは、力ずくでアイスを崩していた感じでした。つまり、相手側であるアイスのことを思いやっていなかったのでした。真鍮のスプーンだとそんなことはできませんから、アイスの声を聞いて、アイスに寄り添って、やさしく丁寧に向き合うことになります。

ほんのささやかな体験だったのですが、筆者の世界観をひっくり返されてしまいました。

画像は、先日購入した、ナホさんによる真鍮のキーホルダーです。

nahorohan・作 キーホルダー 筆者蔵

二重リングの部分は、変形してキーが外れてはいけないので、通常は、硬性と弾力性に優れたステンレスが用いられます。真鍮は変形しやすく、復元性が乏しいので、二重リングの材料には不適当ですが、それでも、あえて真鍮で作ってしまうのが、ナホさんのアート的なところです。

人は、身近に弱い(フラジャイルな)ものがあると、それを気にかけ、いたわるようになります。そうして、赤ちゃんや幼子に対するように、慈しみが湧いてきます。筆者もこのキーホルダーが気にかかり、しばしば見たり触ったりするようになり、愛着が湧いてきました。

キーホルダーの本体の部分は、ワイルドな素材感が出るように仕上げられていて、触ったときのざらつきが、クセになる感じです。黄金色に磨き上げられた二重リングとのコントラストにも面白みがあります。

ナホさんの生まれ育った、岩手県内陸部は自然が厳しく、かの宮沢賢治の時代には、しばしば冷害に見回られ、なかなか自然は人にやさしく寄り添ってくれませんでした。
また、かつてナホさんが移り住んだ沖縄は、自然が人を圧倒してきます。夏の日差しは厳しく、地元の人達は昼間、ビーチには出ませんし、家の周りに虫が大量に発生して殺虫剤散布に追われます。年に何度も台風による暴風雨にさらされます。生活するには、力ずくで身を守らなければなりません。

いろいろあって、ナホさんが辿り着いた岡山県南部は、穏やかな内海である瀬戸内海に面した温暖な土地で、自然がゆるく、人にやさしく寄り添ってくれます。

民話の里、岩手県遠野出身のナホさんは、子供の頃よく、異界の住人と出会い、会話したそうです。
そんな感受性豊かなナホさんが、岡山で暮らして、アート材料として真鍮を選んだのは必然だったんだろうな・・と想像します。

*前作「ナホさん」はこちら

追伸
ナホさんは、今、クレド岡山1Fのセレクトショップdoucreで個展を開催中です(2022.12.12〜12.26)。新作のアクセサリーが数多く展示されていて、筆者も今回紹介したキーホルダーをゲットしました。

個展会場で展示されているナホさんの作品

会場には、作者のナホさんご本人が在廊されていますので、この機会にぜひお立ち寄り下さい。

「お待ちしています!」



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