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小説「常設展示室」を読んだ話

昨年12月に原田ひ香さんの「古本食堂」といっしょに購入した本も読み終わったので、思ったことを書いてみたいと思う。

今回の本は、原田マハさんの「常設展示室」である。

美術館とか博物館とかが結構好きな私は、常設展示をテーマにして書いているというのがふと目に止まった。
帯紹介も好きな女優・上白石萌音さんだし、これはちょっと読んでみたい!と思い、手に取った。

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この本は、6つの短編集で構成されており、それぞれに実在する絵が登場する。
そして、その絵は全て特別企画展とかではなく、各美術館にいつでも展示されている「常設展示」の絵である。

絵画にまつわる様々な仕事をしている各ストーリーの主人公たちは、病気や、両親の介護、仕事、人間関係など、人生において様々な運命に悩む。考える。
そんなときに、先述した通り、常設展示の絵が登場するのだけど、時には小さい頃の記憶を呼び覚まし、時には大事な約束を思い出させ、時には決断する勇気を後押ししてくれる。
そして主人公たちは、また人生を1日1日進めていく…。
簡単に説明させていただくとこのような本である。

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読み終わったあと、とりあえずまず中に出てくる絵を見てみたくなる。元々知っている絵もあるのだけど、知らない絵は本を読んで想像してみたりできるのも面白い。

私が特に印象に残ったのは、最初の「群青」と最後の「道」である。
話のあらすじとそれぞれ感じたことを書かせていただく。
※ちょっとネタバレしちゃっているかも…あらすじって難しい。

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この本の始まりを担う「群青 The Color of Life 」では、メトロポリタン美術館で働く美青(みさお)が、ある朝突然視界が狭まる「緑内障」を発症してしまうところからストーリーが始まる。
そんな中訪れた病院で、かじりつくように美術絵本に見入っている、弱視の女の子と出会う。母娘に声をかけて障害を持つ子供向けのワークショップに誘ってみるが、母親に名刺を突き返され、とあることに気付かされる。

美青はそれまでにだのような決断をしたのか、そしてワークショップ当日どのような時間となるのかは、ぜひ本編を読んでいただきたい。

いつか視力を失う病気を患っている美青と女の子。
純粋に絵画をただただ見ることに没頭してしまうくらい絵画が好きな2人の様子はリンクしまくりである。
好きな作品や心奪われた作品は、ただひたすらに「見る」に全集中するのは気持ちが分かる。
でも、それができなくなる運命を受け入れて、今見れるものを精一杯見つめる光景を思い浮かべると、人間の本能を見ているような感覚だった。

どうか彼女たちには見れる限り、美しい大きな色を目に焼き付けてほしいと祈りたくなる話だった。

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最後の話となる「道 La Strada」は、芸術大学の教授として働いている翠が主人公。
彼女は、オックスフォード大学院で博士号を取得し、美術評論家として著作を出版しまくったり、イタリアにある大学の客員教授をやったり、世界で最も権威のある現代美術のフェスティバルで審査員をしたりしたこともある、まさにスーパーキャリアウーマンである。(しかも美人)

彼女は「新表現芸術大賞」の審査をすることになるのだが、次々と作品は運ばれてくるがいまいち心に刺さらない。
そんな中で、1枚の絵に目を奪われる。郊外の風景の中に一本の「道」が描かれている絵だった。

その絵をきっかけに、翠は幼い頃のこと、20歳でイタリアから逆留学してきたときに路上で絵を売っていた男性・鈴木のことを思い出す。

芸術大賞で見た「道」の作者は誰なのか。
なぜ、翠はあの絵に心を奪われたのか。
そして、作者はなぜあの絵を描けたのか。

1枚の「道」の絵をきっかけに、翠の中の記憶のパズルが合わさっていくのを読者としてドキドキしながら見守っていた。緻密に張り巡らされた伏線を一瞬で回収するストーリー展開、あとそれを強烈に促すような言葉運び。分かった瞬間、泣きそうになった。
そして、最後まで読んで、うっかり涙がぽろりと出た。
本を読んで泣いたのはずいぶん久しぶりだと思う。

この話までに5つの話を見てきているが、この話だけは有名画家の作品ではなく、名も無きに近い一般の人の作品もメインに置かれているというのもポイントだなと感じた。
個人的には、絵とか芸術は有名だから素晴らしいかと言われるとそうではなく、技術や感性が刺さるから素晴らしいのだということを裏メッセージとして教えてくれているのかなと勝手に想像したりもする。

時代やネームバリューは関係なく、見る人それぞれの感性で素晴らしいと思う作品には、いつの時代もみんな目や心を奪われてしまう。
わたしも、この絵が好き!この絵、なんかすごい心に刺さる。とか直感で感じる、そういうものに出会ってみたいと思った。

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原田マハさんの本は初めて読んだが、彼女は美術館でのキュレーター経験もあるということで、御本人が美術にとても詳しい方である…。というのを、読み終わったあとの上白石萌音さんの解説で知ることになった。

※キュレーターは、博物館とか美術館、いわゆる「ミュージアム」と呼ばれる公共文化施設で作品を集めたり研究・調査したり管理する仕事

実際に美術の仕事をしていた方が描くから、絵を描く人だけではなく美術館の仕事、絵を販売する仕事など、1枚の絵やひとつの美術館に携わっているたくさんの人たちを克明に書けるんだな…と納得できる1冊である。

美術館が好きな人も、普段あんまり行かない人も、気になった方はぜひ読んでみてほしい。

2024年、ブクログで本の記録をはじめております。



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