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【レポート】初めて本屋さんでトークイベントに出て、ブックマーケットに出店した話

20年も本を読まなかった私が、本を収納できる家に引っ越すほど、急に本を読み始め、本屋さんに通うようになったのは、出版事業の立ち上げに誘われたことがきっかけではあるが、実は本質的な理由はそこではない。

大阪・堺という独特な歴史のある商人のまちで生まれ育ったこともあるのか、かなり大人になってから、かの有名な二宮尊徳の名言「道徳なき経済は犯罪であり、経済なき道徳は寝言である」という言葉を聞いた時も、「まあ、そういうお店も会社もすぐ潰れるし、当たり前すぎて、わざわざ言う話でもなくない?」くらいに思っていた。

私の人生のターニングポイントは、学生時代にバイトしていた個人経営の飲食店が潰れたことだったこともあり、いくら志が高かろうと行動が伴っていなかったり、そもそも需要がなければやらないので、この誘いは断る可能性も大いにあった。

とはいえ、受けるかを判断するには材料がなさすぎたので、他の仕事と同様にリサーチを始めたのだが、初めに出会ったのは、書店員さんが編者の『本屋という仕事』で、私が認識していた本屋さんとは違った。その頃は、「本はamazonで買うもの」という認識だったのだが、その本に紹介されていた出版社の本が欲しくて、取扱い店舗を調べ、訪れたのが、今回のトークイベントの会場となった本屋B&Bだった。

本を探して棚を見ていると、自分の引き出しにはないものが目に入り、気付けば小一時間経っていた。残念ながら探していた本はなかったのだが、スタッフの方に尋ねたところ、発行元の出版社さんについて、装丁のことまで詳しく教えていただき、同じ出版社の別の本を買ったら、誰に何を言われても頑なに本を読まなかったのに、一気に読み終えてしまった。
(余談だが、探していた本は絶版と聞き諦めていたのだが、今年の4月にフラヌ―ル書店で発見した。噂どおりの名著だった。)

そこで思ったのは、「早く情報を得ること」より、「得た情報を扱うこと」、「求めなくても勝手に入ってくるようになった情報を一時的に止め、自分で考える時間を確保すること」、「自分の検索ワードから外れるものに触れる機会を得ること」のほうが難しくなっているのではないか、ということ。
私が衝動的に本や本屋さんに惹かれたのは、多分そこだった。 

また、初めて訪れたある本屋さんと話していた時に、「偏ることを恐れているんですね(意訳)」と言われて、ハッとしたことがあった。
その後、ある人からも、「一つの業界で活動していれば偏っていても誰を傷つけることもないのに、なぜそんなに多様性を求めるんですか(意訳)」と言われ、自分にとっては当たり前に思っていたことを改めて考えてみる良い機会になった。

まず、「同じ属性の人たちとだけ接するなら支障はない」ということであれば異論はなく、私の主業である経営支援において、採用や育成、組織編成の支援をする際は、対象会社の文化や規模を見て、属性を統一した方がユニークで強い、と判断することもある。
実際、立ち上げフェイズなどは、職種が違う人でもできるだけ近い属性で固めたりするし、極論1人で立ち上げた方が良いと思う。

ただ、ある程度、事業規模を大きくしていこう、自分とは違う属性の別の業界にサービスを提供していこう、などとなると人材も慣習も多様であった方がいい。
世の中のあらゆる課題は、属性が違うものの融合によりユニークな解決方法が見つかる可能性が高いし、私はもう、多様な人たちとチームを組む面白さを体験してしまっているので戻れない。
そのためには、自分自身を、人でも慣習でも多様性を理解し受け入れる状態にしておかなければならないのだ。

そして、行動に制限なく、人として生活している限り、「同じ属性の人たちとだけ接する」ことは不可能だと思っている。知らずに誰かを傷つけることはないとは言えない。
だからこそ、誰しもに偏りがあると自覚し、恐れておきたいのだと思う。 

といった問いを立て、その対策の一つにもなる本と本屋さんは、今の時代にこそ、必要とされているのではないか、と考え、本質的な自分の興味の範囲とは外れるが、出版事業に関わることにしたのだ。

幸い、大ベテランの編集者で出版社も経営されている方に教えを請うことができたため、取次、印刷会社、製本、校正、装丁に至るまで、第一線で活躍されている方々とご一緒することができた。また、業界に精通されている方々ともお話できるようになり、ますます興味は深まった。

本の内容については、これまで身近ではなかったノンフィクションや人文といった分野のものに、「〇〇が良い」と誘導されることなく、うまく問いを立ててもらえることに気付いたため、そうした本をつくられている出版社の本づくりや販売などについても教わっている。

 ここでいったん補足しておくと、私はamazon否定派ではない。
長年、人材、保育、介護という業界から生活を支援してきた経験があり、身体的・精神的に外出できる状態でなかったり、書店のない地域に暮らしている方々にとっては、なくてはならないサービスだからだ。
欲しい本が決まっているのであれば、新刊の発売点数が増える中、書店のスペースの問題もあり店頭に置かれる期間は短いので、少し前の本で、どのタイプの書店でも見つけることが難しく、かつ、出版社の手も回っていなさそうな場合は、私もamazonで購入する。
現在の購入時のチャネルの優先順位は、本屋さん(ECサイトを含む)、出版社のECサイト、amazonだが、身体・精神の状況やライフスタイルが変われば変える。
そのため、販売チャネルは多様な方が良いと思っている。

前夜祭のトークイベント前の様子

 長くなったが、自分がこうした経緯で出版事業の立ち上げに関わり、収支まで全て見ているので、出版だけでなくブックマーケットの開催や書店員さんの選書企画などまでされているサイボウズ式ブックスさん、出版より先行投資もランニングコストもかかる本屋さんまでされているfreeeさんのお話は、ぜひともお伺いしてみたかった。

倉貫書房立ち上げ実務裏話第3話で触れた『これからの本屋読本』の著者で業界に精通されている内沼晋太郎さんにモデレーターをしていただき、話を引き出していただけたのも、とんでもなく嬉しいことだった。
登壇しながら、自分が一番楽しんでしまったのだが、未経験者だと絶対参入できない特殊な技術と慣習があるイメージの出版は、意外と始められること、つくり方にも流通の仕方にもいろんな選択肢があること、各社の本業に対する本・書店の位置づけなどが伝わっていると嬉しい。

 「良い本をつくれば営業しなくても売れる」というのは、出版業界に関わるようになって、よく耳にする言葉なのだが、「では、良い本とは?」というのは、永遠の課題な気もする。

ご質問で出てきたワードなのだが、この後、いろんな出版社の方と、このテーマについてお話できたので、やはり、本屋さんとは、良い問いが生まれる場だと思う。

※本トークイベント開催に至るまでの経緯は、メルマガ会員様向けのニュースレターで少し触れており、期間限定で公開中です。

 翌日は、サイボウズ式ブックスさんが下北沢BONUS TRACKを運営する散歩社さんと共催するブックマーケット「BOOK LOVER'S HOLIDAY はたらくの現在地 by サイボウズ式ブックス」に出店の機会をいただいた。

 主催のサイボウズ式ブックスさんを含め、豪華な出店者で、正直、1冊しか刊行実績のない我々が、ここに肩を並べてしまってよいのだろうかと思った。

 ※以下、五十音順
青山ブックセンター本店 
英治出版 
汽水空港 
タバブックス 
toi books 
透明書店 
夏葉社 
NewsPicksパブリッシング 
藤原印刷 
BOOTLEG(ブートレグ) 
ミシマ社 
ライツ社 

設営直後の様子

開催日の前週まで台風などで天候が不安だったのだが、当日は快晴。10時に会場入りするも、すでに暑かった。

本屋さん巡りが日常化しており、本屋さんで開催されるイベントにもよく参加するので、半分くらいは面識のある方々だったのだが、前日のトークイベントのおかげもあるのか、設営時も終了後の懇親会でもお声かけいただき、一人でいてもアウェー感を感じることはなかった。

 販売実績についても、暑すぎて、前半はお客様の入りが多くなかったところから一転、後半からは持って行った21冊がすべて完売するほど、たくさんのお客様に見ていただけた。
さすが、BONUS TRACKである。
(何を隠そう、私はプライベートでのBONUS TRACKのヘビーユーザー。) 

「これほど豪華出店者ばかりだと、我々のブースなんて見ていただけないだろう、せめて、来場されるお子様連れの本好きの方のお役に立とう」と、ぬりえとクレヨンを用意したのだが、それどころではなかったのが嬉しい悲鳴だった。

ぬりえ
お手製の試し読みセット

完売後にブースを見てくださっていた方に、「感想で『森博嗣ファンなので買いました』と『パンを食べたくなりました』が両立している本ってどんなの?」と聞いていただけたのも、そのとおりとしか言えないので面白かった。

いわくの感想コメントボード

そんな状況だったので、全てのブースをゆっくり見て回ることができず、急いで、都内では珍しい出店者様優先で購入した。

購入した本たち

 ライツ社さんは、「この人が選ぶ本は面白い!」と思う書店員さん(「kagi books」「TSUTAYA中万々店の山中さん」「美鶴堂」「休学舎」)が選ばれた本も持って来られており、それを見られたのもとても嬉しかった。また行ってみたいお店が増えた。

大阪に行ったら必ず行くtoi booksさん、鳥取に行ったら必ず行く汽水空港さん。
あとは、いつか買おうと思っていた夏葉社さんの「さよならのあとで」。

 一人で店番をする予定が、内沼晋太郎さんのYouTubeチャンネル「本チャンネル」の公開収録のために来たメンバーが完売まで残ってくれたので、ランチに「ADDA」のカレーにありつけ、熱中症になりかけたところを「お粥とお酒ANDON」のかき氷で凌げた。遊びに来てくれた友人から飲料の差し入れがあったのだが、それがなければ危なかった。夏の屋外出店の良い教訓になった。

ADDAのカレーとラッシー
お粥とお酒ANDONのかき氷。おしぼりまでキンキンに冷やして出してくれた。

このブックマーケットの日、「はたらく」に関するトークイベントも開催されていた。
「これを無料でしちゃうの!?」という豪華ゲスト陣で、私も聞きに行きたかったのだが、残念ながら前述のとおり時間はなく、聞けた方々が羨ましい。 

本屋B&Bでは、8月20日(火)から9月19日(木)までの間、出店者選書による「私の『はたらく』を問い直してくれる本」フェアも開催されていた。
倉貫書房から選書した『ザッソウ 結果を出すチームの習慣 ホウレンソウに代わる「雑談+相談」』もよく売れていて嬉しかった。

「私の『はたらく』を問い直してくれる本」フェア@本屋B&B

私個人としては、イベント当日はあまりに余裕がなかったので、事前に、藤原印刷さんの『WE WORK HERE東京のあたらしい働き方100』を買っておけたのは、ファインプレーだった。

イベントより前に購入していた本

今回、本屋さんでトークイベントに出て、ブックマーケットに出店できたことは、とても良い経験になった。
こうして出版社さん、本屋さん、印刷会社さんと出版業界に関わるいろんな方々が一同に会する機会は貴重で、とても嬉しい。
サイボウズ式ブックスさん、freeeさん、内沼晋太郎さん、本屋B&B及び散歩社の皆様、トークイベントにご参加いただいた皆様、ブースに立ち寄ってくださった皆様、出店者の皆様、本当にありがとうございました。

今回は、サイボウズ式ブックスさんのご好意で参加できたのだが、もし参加させていただける出店イベントがあれば、これからもどんどん参加していきたい。

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