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第2話:師匠との出会い

自分の知っているものに置き換えて考える準備は整ったのだが、いかんせん出版業界を知らな過ぎて、全体像が全く見えなかった。
ドラクエで言うなら、全体のマップと、ラスボスの手掛かりが早く欲しい。何のために戦えばいいかはなんとなくわかったが、何を倒せばいいのだろう。とにかく、ヒントをくれる村人に出会いたい。
 
そういったことを伝えようとすると、「もういるんですよ」と倉貫さんから紹介されたのは、村人どころか、パーティに入れなければ次のステージに進めないレベルの重要キャラクターであった。ある特定のステージにおいて一時的にパーティに参加する、メインキャラクターを押しのけて人気投票トップ5に入るアレである。
 
その方は、大手出版社の編集者を経て、中小出版社で経験を積んだのち、独立して出版社を立ち上げられたのだが、何と言ったらいいのか、兎にも角にも想像を超えていた。
ベンチャー叩き上げの私は、いわゆる履歴書上の経歴は同じような記載でも、知見は人によって全然違うので話を聞いてみないとわからない、と思っているのだが、恐れ多いほど、はっきりくっきりガチの人だった。
出版事業は先行投資が発生する事業がゆえ、独立した時の資金繰りが必要なのだが、その考え方が柔軟で、かつ、その経験が編集の仕事にも活きた、と話されており、とてもじゃないけど敵わないと思った。
今のスタートアップ・ベンチャー界隈で、ここまで本気でできる人はどのくらいいるだろう。ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家からの資金調達だけが手段ではないのだ。
こういう人の話を書籍や映画化してほしい。 
 
こうして私は、全体マップとラスボスの手掛かりを得た。
 
突然だが、恥ずかしながら、私には、かつて「東証1部(現・東証プライム)最年少女性取締役」と言われていた時代があった。当時関わっていた事業も、女性もLGBTQの人も当たり前に一緒に働いていたので、自分はダイバーシティ&インクルージョンの最先端だと思っていた。
 
前回、「すでに初稿的なものもできている」と書いたのだが、その打ち合わせ時に、編集者としての姿にも度肝を抜かれた。
 
当時の原稿には、ある女性キャラクターが存在したのだが、唐突に質問されたことに驚愕したのだ。
 
「『~なのかしら』という言い回しを使ったことある?周りに使う人がいる?」
 
大阪南部出身ということもあると思うが、自分で使うことはないし、周りで使う人もいない。それなのに、私は全く違和感なく読んでいたので、その表現があったことすら覚えていなかったのだ。これが、アンコンシャス・バイアスというやつか!
 
「極めたと思った時こそ、アウェイの環境に身を置き、固定観念を壊すことを心がけています。」というようなことを話していた自分が、たまらなく恥ずかしかった。
 
そして次に上がってきた原稿は、登場するキャラクターや構成まで一変し、内容は変わらないのに圧倒的に面白いものになっていた。
 
私は、勝手に、この人に師事することにし、出版業界の方々には「〇〇さんの弟子です。」と自己紹介することにした。

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