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組織のあり方に正解はない 『武井浩三 自然経営「ティールを超える」』

「ティール組織」という本が日本でも出版されて久しい。ますます変化の激しくなる経済環境や日本の高齢化や働き方の問題の時流もあり、多くの人に読まれ注目された本でした。

私の経営するソニックガーデンも「ティール組織」の日本における事例の一つとして挙げていただくことも多い。とてもありがたいのですが、私たちの取り組みは10年以上前からやってきたことの結果であって、ティール組織を意識してやってきたわけではありません。

私たちと同じように日本におけるティール組織の事例として挙がるのが、本著「自然経営」を出された武井浩三さんの経営するダイヤモンドメディアです。彼らもホラクラシー やティール組織の事例として挙がりますが、そうしたラベル付けされる何年も前から取り組んできた結果だという。そうした点で私たちは互いに共感しあっているのです。

そんな武井さんが、元ソニーで経営者向けの書籍など多く出されている天外伺朗さんの運営する経営者向けセミナー「天外塾」で講演された内容を元に出版されたのが本書となります。

ログミーの書籍版のようなスタイル

読んでみるとわかりますが書籍のスタイルとして面白いのは、その3回行われた講演で話した内容を口語体でそのまま書き下ろされていること。言ってみれば、ログミーの書籍版という形です。

対談形式は、本人を知っている人が読むと、その話す言葉が当人の声で脳内再生されるのが不思議ですね。(私もこのスタイルで本を出したいなぁ)

講義の様子を記録されたもののため、受講生からの質問と、それに対する回答も掲載されています。これが本書の大きな価値のように思えました。

本書のタイトルになっている「自然経営」は、ティール組織の実践者である武井さんが自分たちの経営を改めて名付けるとしたらということで付けられた名前です。ティール組織を、どう実践してきたかという話です。

ともすればティール組織の話は、アカデミックだったり、抽象度が高くなりすぎて、べき論や理想だけを語ることになりがちで、「では一体どうしたらいいのか」みたいな気持ちになる人も多いでしょう。

スッキリしない回答こそがリアリティ

本書では、そうした人たちの声が質疑応答の形で出てきます。生々しい塾生からの質問があり、それに対する武井さんや講師陣の回答がある形。まるでセミナーに参加して聴講している気分になれます。

ただし、ほとんどの塾生からの質問に対する回答が、どれもスッキリしない。そうスッキリしないのです。塾生の求める答えはまったく得られないまま講義は進んでいきます。最後まで、その調子なのです。

しかし、それこそが真実だと言えます。経営や組織に正解などないのだから、どうしたらいいのかなど答えられるはずがないのです。このことは今回の講義録のスタイルだからこそ伝えられることだと感じました。

そのことについて、本書の中で武井さんは語っています。

最初に申し上げておきますと、答えのない世界の話を我々はしているわけです。人間の幸せとは何か、みたいなものと一緒だと思っています。答えがないので、僕に答えを求めて、武井の答えは間違っている、合っているとかいう議論自体が意味がない。僕の話というのは、あくまでも僕の考えであったり、僕らが実際にやってきたこと、それで何が起こったかという、ただそれだけの話です。ただそれだけというふうにとらえていただくのがいいと思います。(p127)

つまり、そういうことなのです。このスタンスには大いに共感します。私自身も外で話す機会が多いですが、まさしく同じスタンスです。

経営や組織については、そこにいる立場の人が誰もが自分自身で考えないといけないことなのです。そうして考え続けることだけが、自分たちのなりたい理想に近づく道筋になるのではないでしょうか。

そして、本書を最後まで読むと武井さん自身の個人的な次のアクションが書かれています。ある意味で衝撃の展開。そこに到るまでの葛藤、それも合わせて読むと味わい深いものになると思います。

以下、宣伝です。

本書の中で、合理性だけでは割り切れない人間関係をどう構築していくかという文脈で、ダイヤモンドメディアでも1on1を導入しているという話があります。一般的な1on1とは違って、行われているのは雑談だと言ってます。

決まったフレームワークとか質問とかでやるというのは、一切ありません。ただ単に雑談なんです。1対1でコミュニケーションをすると、たいていの場合、感情交換ができるんですよね。(p238)

まさしく、合理性を追求する組織の中で、チームを成立させるための人間関係の土台を作る、合理で抜け落ちる感情の部分をつなぎ合わせるものが「雑談」なのだと、私も考えています。

雑談があるから相談できる。雑に相談することでチーム本来の生産性を出すことができる。そうしたコンセプトが「雑談+相談」でザッソウです。そのザッソウをうまく進める方法をまとめたのが拙著です。

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