こたつのコードで認知症
バリアフリーというと、階段の段差のような、かなりの段差を想像されることが多いと思いますが、実は高齢者の転倒で一番危ないのは数ミリから数センチ、それも屋外よりは家の中の事故が多いので、実例紹介です
実家を片づけないとどうなるのか、まずは実際の事例を紹介しましょう。
たとえば、床にものをおいたまま放置するとどうなるのでしょうか。
「老前整理」をテーマにした、あるセミナーでの出来事です。
私が「きちんと片づけをしないと、高齢になったときにつまずいて本当に危険だ」とい う話をしていると、参加をしていた女性が突然「もう少し早く、この話を知っていればよかった…」と涙ぐんだのです。50代ぐらいでしょうか、お一人で来ていらっしゃいました。
中略
さて、先ほどの涙ぐんだ女性はこんな話をしてくれました。
「昨年の冬に80代の父がこたつのコードにつまずいて転び、骨折して入院しました。入院後は環境が変わったからか、次第に認知症の症状が出てきまして、点滴の注射の管を外して動こうとします。そのことがあってからは、父はひもでベッドにしばりつけられるようになりましたその姿を見るたびに、情けなく、悔しい気持ちになります。
父は完全看護が必要でしたが、親せきなどほかの誰かに付き添いを頼むこともできません。かといって、私も仕事があり24時間ずっとそばについていることができませんでした。だから、入院したほうがいいという病院からの申し出を渋々了承しました。
その後も、父は入退院を繰り返しながら、半年後に別の病院で静かに息を引き取りました。もとはといえば、散らかった部屋に埋もれていた、こたつのコードが始まりだったのです。もし、私が転倒の危険性や片づけの大切さを知っていれば、父が転ぶこともなかったかもしれない。そう思うと残念でなりません」
この女性はご自分をしきりに責めておられました。
「もし、あのとき、こたつのコードに注意していれば…」というのは、いわば結果論です。あとからならば、いくらでも言うことができます。
こたつのコードがなかったとしても、積み上がった新聞や雑誌につまずいて転んだかもしれない。しかし、床になにもなかったのなら、もしかして今でも父は元気だったかもしれない。これらは、あくまで「かもしれない」の仮定の話です。
なにかが起こってからでは本当に手遅れです。このように実際の体験談を聞くと、その危険性を感じることができます。
『老前整理のセオリー』 2015年 NHK出版新書 より
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?