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家業も自分色に染める【小千谷市片貝・松井祐介さん】

新潟県小千谷(おぢや)市片貝町。「花火と職人のまち」という看板付きの街頭が数メートル間隔で立ち並ぶ通りに、綺麗な藍色の暖簾がかかる伝統的な建物「紺仁染物工房」がある。1751年に創業、藍染織物・着物・はんてんの製造・販売を行っている。伝統的な製品の他、時代に合ったお洒落でユニークな製品も数多く生み出す老舗工房だ。

松井祐介さんプロフィール
小千谷市片貝町で創業270年以上の歴史をもつ「紺仁染物工房」の12代目。1979年に片貝で生まれ育つ。3人兄弟の長男だったこともあり、家業を継ぐことは小さい頃から頭にあったそう。趣味は釣りとバイクと音楽と…たくさんあるけど全部真剣に向き合って楽しんでいる。(ちなみに奥さんとは保育園から一緒の幼馴染。14歳から付き合い初めて25歳で結婚されたそう!)

※※※
以下、私→松井さんへの質問形式で進みます。最後に私の感想を書きますが、参考までに。
正直、家業を継いだ職人さんの進路のえらび方ってまっすぐで潔いものなのかなと思っていましたが、いい意味で予想を裏切られました!
松井さんの言葉をあなた自身に置き換えて、松井さんのアンサーを読み進めてください。
進路えらび、生き方のヒントがたくさん詰まっているはずです。

好きなことにとことん熱中した学生時代

今やたくさんの仕事や働き方が選べる時代。そんな中で家業を継ぐことを選んだ松井さん。くらすはたらく拠点が最初からだいたい決まっているってどんな気持ちなんだろう?
歴史ある職人技を引き継ぎ、伝承していくことって大変そうだな…そんなことを思いながら取材をはじめた。

私)職人の家に生まれた子って進路も自ずと家業に寄るイメージがあるのですが、どんな学生時代を過ごしていましたか?

松井さん)
「中学までは片貝にいて、高校はどこに行きたいとかあまり考えていなかったので、親に進められて染色科のある学校に進みました。当時の友達とのつながりは今でも続いています。当時気に食わないなあと思っていた相手でも、今になるとお互い助け合っています。たまたまクラスが同じだった人とか共通点があってちょっと関わりを持った人との自然の縁って大事にした方がいいですよ。」

私)なるほど、そうだったんですね!高校卒業後はどんな進路を歩まれたのですか?

「高校卒業後は東京の服飾系(テキスタイル系)の専門学校に進みました。自分の進路についてぼんやりとしか考えていなかったから自分の意志は半分でしたね。」

私)やはり家業に関係する進路に進んだのですね!
その頃には家業を継ぐことを決意していたのですか?

「いや…実はこの頃からファッションや音楽に興味が湧いて、無理して家業を継ぐより、好きなことを仕事にしたいなあという憧れが大きくなっていきました。」

工房の見学

私)家業を忘れるほど夢中になったんですか!?

「そうですね、学校より趣味を優先していました(笑)。レコード屋さんでアルバイトをしたりバンド組んだりクラブに行ったりと、好きなことにとことん熱中していましたね。
当時アルバイト先で、外国のバイヤーとやり取りをしている中で、お客さんはどういうものを求めていて、どういうものが売れるのか、徐々に分かってきました。」

私)なんと!興味深い学生生活を送っていたのですね。その後、新潟に戻るきっかけは何だったのですか?

「新潟の先輩に、DJの場を新潟に用意してもらったことがきっかけです。音楽が好きすぎて、楽しい方に流れていったら、20歳で新潟に戻っていました。」

私)好きな気持ちに忠実に行動されていたのですね!家業を継ぎに新潟に戻ったわけじゃないんですか!?

「家業はチラついていたけど、関心は薄かったですね。親に家業を継がず自分の好きなことをしたいと言ったこともあったんですが、「やってみろ、おまえにはできない。」と言われました。(笑)ああたしかにそうだよな~と受け入れて、親が用意してくれた職能学校で染色等の技術を学び直すことにしました。」

趣味と仕事を掛け合わせ、職人技に自分色を

趣味を楽しみつつ、家業に活きる修業をする日々。
そして24歳、ついに家業に就き始める。

私)修業中や家業に就きはじめた頃、「はたらくこと」に楽しさを感じていましたか?

「うーん…最初は学びが主なので、楽しいという感覚は少なかったですね。でも徐々に自由が利くようになってから、(自分の作りたいものを作れるようになって)楽しさを感じるようになりました。」
(当時松井さんが作ったデニム生地の着物はロングラン商品!)

私)プライベート(くらし)と仕事(はたらき)を楽しむために大切なことって何だと思いますか?

「趣味も仕事もなんでもテッペンを目指すことですかね。何事も突き止めていくうちに、まわりの人たちが目を付けてくれるようになる、気が付けば人との出会いや活躍の場が広がっていくんですよね。仕事も趣味も真剣に向き合っていると、もっと楽しくなっていきます。家業を継ぐまでにいろんな寄り道はしていたけど、その都度真剣に向き合っていたからか、当時から好きでやっていることが今の仕事に活きているなと感じることが結構ありますね。」

私)好きと仕事が結びついたエピソードを教えてください!

「コロナ禍でお祭りが無く、看板商品だったはんてんの注文が減り、経営が大変になったんです。それでもはんてんを作り続けたいという気持ちが強かったんですよ。好きが原動力になったんですね。InstagramやHPに力を入れ始めたのと同時期に、趣味のバイク用にはんてんを作ってみたんです。それをInstagramにあげたところじわじわと火が付き始めて、その後東京のバイクチームのはんてんづくりの注文を受けました。それからというもの、バイクチームのファンから受注が絶えず、忙しい日々を送っています(笑)ダメな時はダメになるから、とりあえず今できることをやろうと思って遊びを真剣にやっていたからできたことですね。」

松井さんのインスタグラム→https://www.instagram.com/konni_matsui/?hl=ja

片貝地域といっしょに

新潟県小千谷市片貝町は「正三尺玉発祥の地」として知られる、人口3.5万人ほどの小さな田舎町。江戸時代後期から続く歴史ある片貝まつり、片貝木綿と呼ばれる和服用の木綿記事が有名である。静かな町並みだが、浅原神社(別名花火神社)や煙火筒(花火打ち上げに使う機械)のモニュメントから、地域の伝統や昔からの生業を大事にしている地であることが感じられる。

片貝まつりについてもっと知りたい方はこちらの記事をご覧ください!
佐藤瑞穂さんの記事→https://gurutabi.gnavi.co.jp/a/a_2049/

私)昔から地域とのつながりや地域への愛情は強い方だったのですか?

「そうですね。片貝祭りのはんてんはうちで作っていることもあり、小さい頃から祭りは身近な存在でした。中学の頃から片貝祭りのおはやし演奏に参加したことで、地域一丸となって地域を良くすることが大事だなと気が付きました。」

私)伝統を大事にする片貝地域でくらし、はたらく上で大切なことはなんですか?

「ここで一生やっていくぞという覚悟と、自分のところだけでなく地域全体を良くしていこうという気持ちが大切です。人に良くしないと自分も良くされないのだから、自分だけ良いとこ取りするのではなく、地域とのつながりを意識しながら仕事をするようにしています。」

取材を終えて

松井さんは、家業に自分の好きを掛け合わせることで、仕事に楽しさを作り出しているように感じた。家業と松井さんエッセンスが掛け合わさったことで、伝統品や職人技が時代に寄り添うようにアップデートされていているように思った。好きが言動力となり、仕事も遊びも突き止めるからできることなのだろう。取材を通して、特に私の心に突き刺さった2つのポイントをしたためたい。

「寄り道は結果的に武器になる」
松井さんのこれまでを伺って、家業を継ぐまで趣味に没頭したり自分の好きに忠実になる時間があったけど、それらは有意義な寄り道で、現在の松井さんにとっての唯一無二の武器・強みになっているなと感じた。
特に大学生って自由な時間がたくさんあって、だらだら遊んでいるように見られがちだけど、当人が各々やりたいことを全力で突き止めているならそれでいいじゃん!って思えた。なんなら今やってる趣味・好きなことを今後の武器にしてやろう!みたいな気概を持って取り組んでもいいのかもしれない。
自分の好きなことが分からないなら、それを知るためたくさんいろんな寄り道するといいんだろうな、気になったものはとりあえずやってみて自分の好きな方向性を行動しながら知っていくのが楽しそうだと思った!

「ここで生きていく覚悟」
新潟でくらしはたらいていく上で、地域の人とのつながりやここで生きていくぞという覚悟が必要だと学んだ。でもそれって正直、今の私にはまだ無いし、少し重く感じる。
だから手始めに今の私にできることを2つ考えてみる。①松井さんが言う通り、自分の周りに既にある自然の縁、今いる友達とのつながりを大切にしようと思う。②私はこれからも新潟がくらすはたらく拠点になるから、新潟の楽しみ方を開拓してみようと思う。
(最近①と②を実践してみた:中高の友達と久々に再開して、新潟の自然を楽しむためにキャンプや登山、スキーをはじめてみた…新潟って自然遊びしやすくていい感じ…)

最後に…
今やたくさんの仕事や働き方が選べる時代。そんな中で家業を継ぐことを選んだ松井さん。くらすはたらく拠点は最初から決まっていたようなものだけど、そこに辿り着くまでいろんな寄り道をしたからこそ自分なりの覚悟が生まれたのかもしれない。くらしの中の楽しみ(趣味や遊び)やはたらき(仕事)を突き止めていくと楽しくなる、突き止めるのは大変だけど大変だから人一倍楽しく感じられる、そう信じて私もこれから進んでいきたい。

この記事がみなさんの進路えらびの役に立てたら幸いです。

【書いた人:発酵みならい】
発酵食品が好きな大学4年生。
生まれも育ちも学びの場もすべて新潟、これからも新潟でくらしはたらいていく予定。新潟の四季をポジティブに受け止めたくて、アウトドアな趣味に挑戦中(?)染物の染料も発酵由来と知ってもっと興味が湧いた。

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