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教師ガチャ大外れを引いた話


昔の話をしていきたいと思います。


小学5年生の時に新しく学校に来た先生が担任になりました。その先生は男性でした。少し小太りで肌は浅黒く、申し訳程度に生えている毛を全力で中央に掻き集めていた、そんな先生でした。

初めて挨拶した時先生は言いました。
「僕って何歳に見えますか?」と。
「52歳!」
と私は手を挙げて元気に答えました。

ですがなんということでしょう。


彼は28歳だったのです。


子どもは正直です。私は取り返しのつかないことを言ってしまったのでしょうか?

それが原因なのかどうなのか、その後に起こる数多の惨事にこの時私はまだ気づいていなかったのです。

先生はスポーツが好きでした。得意だったのだと思います。初っ端生徒の心を掴もうとしたのでしょうか、突然目の前で倒立をしました。初対面のその日です。


掻き集めたはずの先生の頭の宝物がパラパラと落ちていきました。


窓の外を見れば入学式を終えたばかりの4月の空にひらりひらりと桜の花弁が舞い散る。そして視線を戻せば先生の髪の毛が舞い散る。
「結構ロン毛なんだね」と私は思いました。今度は口には出しませんでした。


ひとつ大人になった、そんな瞬間でした。

そして先生は立ち上がり、何事もなかったかのように手馴れた手つきで左から右へ長い毛を掻き集めました。


これで先生の出来上がりです。

この先生、スポーツが好きなだけあり、生徒は早速皆校庭に集められました。そして突如始まった
「大縄跳び、1000回飛べるまで帰れません♪」
飛べるわけないです。誰かが突っかかるんです。最初はいいんです。「大丈夫大丈夫!」なんて笑顔で言っているんですが、しだいに「今つっかかったの誰?」なんて殺伐とした空気になってくるんです。

そしてその縄跳びが終わることはありませんでした。放課後まで飛ぶ羽目になりました。基本的にこれが始まると授業はしません。
定期的にこんなことばかりして私たちは勉強というものをする時間がなくなりました。

そう、大縄跳びは授業を潰して行われます。

ヘトヘトになり帰る、私たちに残ったものは仲良かったはずの友人との間に出来る少しの歪み。

こんな感じで始まった小学校高学年生活。
『時代が時代だからね――』
結局これなんですよね、時代がね、時代だったころのちょっとしたお話です。


その教師は躊躇することなく「依怙贔屓《えこひいき》」をしました。依怙贔屓をする基準は好みかどうか。可愛い子が好き。実にわかりやすい。

例えば私が間違えて左右別々の靴下を履いてしまったら……

殴られます。はい。

何故でしょうか?
私が一筆書きでギリ描ける顔だからでしょうか?

まぁいいです。私が一筆書きフェイスであっても「あらこの子トマトに似てるねー♡」なんて女子高生に言われたことも何も気にしていません。何十年と根に持ったりしていません。鏡を見る度にトマトを思い出すこともありません。そう、だって気にしていないのですから。

そんな事はどうでもいいんです。それよりもこの教師の話に戻ります。

子どもにランクをつけたがり(主に見た目)子どもを婚活女子のように扱う。

そもそも小5女児に「彼氏に乗ってほしい車は?」
と聞くような人です。

まるで

24歳OL、最近彼氏と別れちゃって(><)
手取りも少ないし税金たくさん引かれててマジ萎え߹ᯅ߹
早く素敵な出会いをして30歳までには結婚して子どもはふたり欲しいな♪

な女に話すような事を小5女児に平気でよく話していました。

合コンにでも行けばいいのにと思いました。
合コンに行って「52歳ですか?」と聞かれればいいのにと思いました。
合コンに行ってなにかはらりと舞い落ちましたよと言われればいいのにと思いました。

他にもまだまだありますよ。
集団無視って言葉がありますよね。結構嫌な言葉ですよね。私は嫌いです。

私の小学校ではそういうのはありませんでした。
「んー、もう! ちょっと男子~掃除ちゃんとして~!!」
とかいうのはありましたが、基本的には男女とも仲が良かったと思います。

そんな中、突然先生が名札のようなものを作りました。それはマグネットタイプになっていて机のサイドにピタッと貼り付けられるものです。そこに生徒の名前が書いてありました。

クラスは半分に分けられました。

頭のいい人は前へ
そうでない人は後ろへと机を下げられました。

そして後ろの人の名札は取られました。
そうするとどうも透明人間になるらしく手を挙げても無視、質問しても無視、何をしても無視されます。

もちろん生徒にではありません。教師にです。

ボーナスタイムみたいな時間があり、その時に答えることができると名札は返ってきました。

……おかしくないですか?

結局授業中には大縄跳びや教師のギター弾き語りショーとかが始まって授業をしないがために私たちは夏休みにごっそりと宿題を持って帰るんです。授業で出来なかったことを全部個人的にさせるんですね。そして全て隅から隅までやらないと殴られます。

夏休みの友っていう宿題冊子があるんですが(今もあるか分かりませんが昔はありました)それを隅から隅まで、ちょっとしたおまけページみたいなところも飛ばすことは許されませんでした。

でも私はそんな中でもあまり宿題はしませんでした。
親に怒られ教師に殴られるだけだしなーなんて思っていました。
最終日に案の定、親に怒られ、親から私のことを手伝うようにと言われた姉に蹴り飛ばされ、泣きながらただテレビを観ながら横になっていただけの日々を豪華に脚色した日記を書きました。

勉強というものをしない、しようと思わない、焦りもない、しなきゃいけないと思わない、この当時私はこんな感覚でした。

余談ですが私はこのころ見かねた親に塾にぶち込まれました。

今から思えばそんなにお金もなかったのに頑張ってくれたと思います。だけど私は上記の通り自分の学力のなさに微塵も焦りを感じていなかったために、塾に行く振りをして1時間公園でサボっていました。まるでリストラされたサラリーマンのようにそこで日が暮れるまでブランコに揺られ時間を潰し、休んだりするとさすがに連絡が行くだろうから2時間目から行っていました。頭は悪い癖に頭は回る、そんな子どもだったんですね。

その塾では頭がいいクラスとそうじゃないクラスで分けられていました。私は言わずもがな後者でした。そんな私の周りにはいかに楽しく塾生活を送れるかを考える同士が集まっていました。

先生が来る前に電気を消し隣の部屋で息を潜め、先生が到着して電気をつけ「あれ?」と思った瞬間に「テッテレー♪」と出て驚かせたり、定番の黒板消しをドアに挟んだり(成功したためしがない)そんなことばかりしていたら頭のいいクラスの人たちがわざと学力を下げこちらに来たがったことから我々は少し前に話題になった“解散命令請求”を命じられたのでありました。

時代の先取りをした過去の思い出でした。

そして舞台は学校に戻り、最後にいちばん思い出深いエピソードをお話します。

皆さんはご存じでしょうか、昔やっていたテレビ番組を。一般素人の男女の合コン番組といったところでしょう。男性女性が一列に並び、くるりと振り返る。するとお互いの顔が見えます。そこから第一印象、誰が良かったか聞き、暫しの自由時間を経て、結果誰が好きかを決め、男性が告白します。同じ女性がいいなと思った男性は「ちょっと待った!」と割り込むことが出来ます。人気の女性には何人もの男性が目の前で手を出していて、その中から気に入った人の手を取る、もしくは「ごめんなさい」と頭を下げお断りする。そんな昔のテレビ番組、恋愛とは無縁の小学生ですが、小学生なりに結構楽しく観ていました。

だけどそれが我が身に降りかかるとは……。

気がつくと私たちは教室に男女二手に分かれて並ばされていました。

男性一列、女性一列
「ごたいめ~ん!」と振り返る。
ご対面も何もない、毎日顔を合わせている知っている男たちです。

そう、私たちはこの合コンごっこをさせられていたのです。

遠足、林間学校、修学旅行のバスの席決めの時、決まってこれが開催されます。それはそれは苦痛でした。A子ちゃんの好きな男子が別の子に告白したり、誰からも選ばれなかったり、それは阿鼻叫喚の地獄絵図……が想像されるかと思いますが私達は恐怖政治下にいたため、全員魂の抜けた顔でこのイベントは強制的に行われました。

一度、ひとりだけノリノリだった教師が「逆バージョンしよう!」と言い出し女子からの告白バージョンを提案されたのですが、それは女子全員がひきつり笑顔で俯き嫌がったために頓挫しました。この時私たちは心の底から安堵しました。

さて、司会だけが楽しんでいるこのイベント、続々とマッチングしていく友人たち。残される者。

テレビの方でも最後まで誰からも告白されない女性がいました。
「えー、誰からも告白されないなんて可哀想!」なんて言っていましたが、その女性も恋愛経験皆無の小学生如きに同情されたくもなかったでしょう。
オマケに「やっぱり積極的すぎるのが悪かったんだよ」なんてダメ出しまでされていたなんて、本人が知ったら腸が煮えくり返る気持ちでしょう。
テレビに出てマッチングしないどころかどこぞの田舎の女児にそんな事を言われているなんて思いもしなかったでしょう。

そしてその上から目線で同情していた女児の結末ですが、目の前に結界が張られているかのように人は寄ってこず、誰彼構わず片っ端から「ちょっと待った」をかけまくり3回程振られ続けたもはや出がらし状態の男か、バスの中往復4時間隣にいるのはどう考えてもしんどいであろう男のどちらかの選択肢しかなく、それでもこのどちらかとはマッチングしなければならなく、あの日のあの女性は誰ともマッチングしなくてもいいなんて、もはや羨ましいと今自分が置かれている状況にきつく唇を噛み締めるしかありませんでした。


         終わり



#創作大賞2024 #エッセイ部門

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