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読書記録:万城目学『鹿男あをによし』

ものすごく後悔しているわけではないけれど、小さな心残りとして頭のスミに置いてあって、ふとしたときに思い出す。そのひとつが『鹿男あをによし』のドラマが見たかったなぁということだった。玉木宏が鹿に驚くシーン、それだけでそそられるのになぜ見なかったかと言えば、まさに大学受験の真っ只中に放送されていたのだ。あの冬、私は娯楽の一切を締め出していたのだけれど、CMで見た断片的な映像をずっと覚えていたのだった。

先日、Kindle本のセール一覧を見ていてその原作小説が目に止まり、15年前の記憶が呼び覚まされた。万城目学『鹿男あをによし』(幻冬舎文庫)。


「さあ、神無月だ――出番だよ、先生」。二学期限定で奈良の女子高に赴任した「おれ」。ちょっぴり神経質な彼に下された、空前絶後の救国指令!?

Amazonの作品説明より

思ったよりファンタジーが強くて、好きな題材のお話だった。ドラマも第1話くらいは見たつもりでいたのだけど、全く見ていなかった。なんてこと。著者も初めましてだったので最初は読み辛く感じたのだけれど、物語が進み始めてからはぐいぐい読んでしまった。他の著作も読んでみたい。

舞台は奈良とちょっぴり京都。関西に住んでいたときに何度か足を運んでいるので土地勘があり、思い描くのにも苦労はなかった。しかし奈良に最後に行ったのはいつだろう。もう10年以上行ってないかも。寺社仏閣に変わりはなくても、街の様子は変わっているのだろうか。


そうだ、あの冬。私は国立大学の前期日程で決めることができず、後期日程でも同じ大学を受験するという賭けに出たので(多くのひとは偏差値が少し下の大学に変えるのだけれども)浪人することは半ば覚悟していた。

後期試験は小論文3時間のみで午前中に終わった。まっすぐ帰れば関西から栃木の自宅まで、夕方には着けるだろう。しかしきっと、しばらくは関西に来ることもない。私は付き添いで来てくれていた母に思いつきで、奈良を観光してから帰ろうと提案したのだった。

どこをどう巡ったのか、正確には記憶していない。修学旅行やその後に観光した記憶とごちゃ混ぜになっている。なぜ奈良に行きたかったのかもわからない。スマホをまだ持っていなかった時代、写真も残っていないし。おそらくは奈良公園周辺の東大寺や興福寺、春日大社に行ったのだろうと思う。試験がすべて終わったという開放感を噛みしめるために、もしくは将来への不安を忘れるために必要な時間だった。その何とも言えぬ気分は覚えているのだから不思議だ。

合格の二文字が自分の目に飛び込んできたときの興奮は忘れることがないだろう。それからは慌ただしく引っ越しの準備をして(と言っても大学の寮に持ち込んだのは布団一式と数枚の服くらいだったけれど)、晴れて大学生になった。

奈良を思うときはいつも、その冬を思い出す。奇しくも今は受験シーズン真っ只中。今年の共通テストの難易度はどうだったのでしょうか。15年前の受験生からアドバイスできることは皆無だけど、後期試験のついでに旅行することは提案したい。きっと何かの糧になる。


書いていたら奈良に行きたくなってきた。鹿せんべいを鹿に振る舞いたい。しかし夫に次の旅行はどこがいいかと尋ねたら、箱根に行きたいという。箱根か。以前に行ったときは豪雨被害のすぐあとで登山鉄道に乗れなかったし、大涌谷も立入禁止だった。心残りがたくさんある。

いいな、箱根。


*ちなみにヘッダーの写真は宮島の鹿ですのであしからず。

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