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【バリ島一人旅の足跡_#4】トランジットの恐怖。

まあ、ヤバい気はしてたんだ…。

この人っ子一人いない空港ロビーで泣き叫んだら、あのマレーシア女性スタッフ、助けてくれるかな。。。

真夜中のクアラルンプール国際空港で、まったく意味が読み解けない案内版を見ながら、僕はびっちょりと脂汗をかいていた。

早朝4時のクアラルンプール国際空港

「英語なんか分からなくても、どうにでもなるわい!」とタカをくくっていたが、英語表記よりも大きく表示されたマレーシア語を見るだけで、面白いように冷静さが失われていく。見て?人生初のマレーシア語よ!「1mmも分からない」という美しい比喩は、この日のためにあったのね!


もう一度、バリ島へ行こう。それも一人で。

そんな決心をしたのが、約10カ月ほど前のことだった。前の旅行で偶然知り合った花売りの女性・ニョマンに会いに行くという目的のもと、人生で初めての「海外一人旅」をしてみたかったのだ。

旅行は、もっともコスパの高い買い物の一つと言われる。その大きな理由の一つが「旅先での思い出は一生もの」であること。もう一つが「旅が始まる前から、すでにワクワクが始まっている」という点だ。わが家でも子どもと旅行に行く際には、できるだけ早く、そのことを子どもたちに伝えるようにしていた。楽しいことが待ち構えているだけで、それまでダラダラと進んでいた時計の針は、驚くほどスピードを増す。

実際、バリ島に行くことを決めてからの数カ月は、矢のように過ぎていった。

ちょっと想像してみてほしい。

もし自分が、一人っきりで外国を10日間旅するとなったら?どうやって行くのか。現地での移動はどうするのか。どこに泊まるのか。何を食べるのか。旅の記録を動画に残す場合、どんな機材が必要になるのか。ビザは?保険は?お金の両替は?

こういった問題を一気に解決する方法は、ある。

そう。旅行代理店に行けばよろしい。そして、現地で困ったことがあっても、添乗員さんにすがりつけばよろしい。

だが、そもそもアラフィフを迎える僕が一人旅をしてみたいと思った最大の理由は「全部、自分でやってみたい」ということだった。1年前に男4人で初めてのバリ島旅行に行った時は、事前の予約や現地の案内を、現地に詳しいカメラマンのIさんが全部やってくれた。

ウブドのネカ美術館
美術館前のスペアリブ有名店で食事

導かれるままに空港で手続きをし、食事をとり、有名な観光地を巡る。これはこれで楽しかったのだが、どこか消化不良な感じがした。それを決定づけたのが、旅行3日目の自由時間。一つ前の記事でも書いたが、ここで出会った花売りの女性との、時間にして10分程度のやりとりが、僕にとっての旅行のハイライトだったと言える。

言葉が通じない異国の人とふれあう。聞いただけで「え?めんどくさそう」と思う人が多いことは承知している。でも僕の中では、自分自身を覆っているカサブタのようなものが少し剥がれ、表出した新たな皮膚が呼吸をし始めたような感覚に陥ったのだ。

また、以前の旅行では、空港に迎えに来た現地ガイドから「ワルン(ローカル食堂)での食事は控えた方がいい。お腹を壊す人が多いから」と聞き、食事はすべて観光客用のレストランで済ませた。

今回の一人旅で僕が体験したかったのは、現地の文化や暮らしにふれること。彼女との奇跡のような出会いが、僕にそんな考えを起こさせた。今回の一人旅でもワルンで食事をしてみたかったし、けたたましいクラクションが鳴り響くバイクだらけの道路を、僕もバイクで走ってみたかった。きっとそれが、バリ島の「本当の風景」のような気がしたから。

ニョマンから買ったチャナン(花のお供え物)

というわけで、僕は旅行代理店に頼るという選択肢を早々に捨て、自分の力でバリ島までの旅程を計画。旅慣れた人にはなんてことない段取りも、いざ初めて海外を一人で歩くとなったら、想像以上の事前学習と準備が必要になる。それがまた楽しいのだ。

当時、関西国際空港から、バリ島のデンパサール国際空港までの直行便に掛かる費用は片道約8万円(往復16万円)。しかーし。乗り継ぎを前提とした格安航空を使えば、航空代金は往復で約3万6千円。すげえ!12万円以上安いじゃん!この浮いたお金でホテルや食事代も余裕でまかなえるじゃん!はははははは!

で、私は今、その乗り継ぎ(トランジット)空港となるクアラルンプール国際空港にいる。

マレーシアに入国する人に交じって歩く
ほとんど誰もいない空港をさまよう

ココハドコ?バリトウハドッチ?

2019年5月23日(火)22:00に関西国際空港を飛び立ってから約6時間。一緒に飛行機を降りた中華系の人々は、いっせいにマレーシアの入国審査ゲートへと向かう。一緒についていきたくなる衝動をなんとか抑え、天井の案内版を見ながらバリ島の乗り継ぎゲートを探す。うん。まったく、わからねえ。事前にあれほど乗り継ぎゲートへの動線を確認したのに、現地に降り立ってみると、まったく頭が働かない。

「俺たち、もう終わっちゃったのかなぁ」
「バカヤロウ、まだ始まっちゃいねえよ」

映画「キッズ・リターン」配給:オフィス北野(1996)

映画「キッズ・リターン」のラストシーンを飾る、主演2人の名台詞が頭を駆け巡る。

早朝の4時のクアラルンプール国際空港に人けはなく、見るからに機嫌の悪そうな清掃員が、けだるそうにモップをかけている。

幸か不幸か、バリ島行きの出発時刻は午前9時。時間だけは、たっぷりある。

はてさて、どうするか。

#5へ続く


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