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【連載小説】犬と猫⑦

心愛も車を持っているが無頓着で、色々と車のことを知らない。それなのに乗ってる車はクラシックのフィアット500だ。そうあのルパンと同じ車だ。クラシックカーしか乗ったことがない心愛は左ハンドルしか知らない。今の車を知らない心愛は調整できるだけで驚いていた。車を走らせてると心愛は窓から景色を眺めていた。だんだん暗くなる空や徐々に光を増す街頭に目を輝かせていた。

「どうした?」
「久しぶりで、こんなに遅くまで家にいないことがね。子ども産んでからは仕事以外で出かけること出来なかったからさ。新鮮でね。」
「そっか……」

 と軽く返事をした。確かにそりゃそうだよな。22歳から子育てをしているのだから当然だ。今日みたいに自分の為に出かけることもあまり出来なかったのだろう。これからは少しでも連れ出してあげたいと思った。

「雪那のこと、ゆきくんって読んでいい?」
「え?いいけど、どうした?」
「何となく呼びやすいかな?って」
「じゃあ、僕は姫って呼ぶかな?」
「え?なんで?え~!!!」って照れてしまった。
「心愛は僕にとって姫のような人だしな。僕ファン1号ですしね。」
「もう。仕方ないなぁ……好きに呼んでいいよ。」

 照れながらも了承してくれる心愛が愛おしくてたまらない。こんな素敵な女性が今日から僕の彼女なんだと思うと口元がにやけてしまう。
 二人で話しながら車を走らせてると、あっという間にサービスエリアに着いてしまった。心愛と車を降りると心愛の手を引いてサービスエリアのラーメン屋に入って僕のお気に入りの塩ラーメンとエビ餃子を頼んだ。席に着くとすぐに心愛は水を取りに行った。気の利くところもいいなと思ってしまう。頼んだ料理が届くと心愛は小さなポシェットからシュシュを出して肩に着くほどの髪を縛った。また雰囲気が変わる。僕が苦手な具を心愛に了承を得て心愛の器に入れた。するとクスクスっと笑って。

「雪くん。子どもみたいだね。」
「仕方ないじゃん。好き嫌い多いんだよ」
「そうなんだ」

 クスクスと笑いながら食べ終えた。外に出ると日も落ちて気温がだいぶ下がっていた。暖かい缶コーヒーを買って車に戻った。ふと時計を見ると、そろそろ心愛を家に送る時間だった。住所を聞きナビを入れる。すると明日も会えるのに心寂しくなった。こんな気持ちは初めてだった。

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