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「とろけさせて!スイーツ男子」第4話 肩がはずれていても会いたい。



関係性

「……それって結局さ、咲紀ちゃんが嫌だってよく言ってる体のいい『セフレ』にされちゃってるだけなんじゃない?」
グサリ。
その言葉は私の心臓に突き刺さった。そうだなとわたしも感じていたことだから。電話越しに女友達は更に続けた。
「その人は、きちんと奥さんと家庭を大事にしているクリエイティブな仕事しているお洒落な自分、が好きなのであって。それでも女の影があるという男でいたいんだと思う。
その女、の役割っていうだけなんじゃない?
咲紀ちゃんのこと好きで付き合ってるわけじゃないと思う」
言葉がグサグサと胸に刺さる…多分そのとおりだ。いや、それは自分でも分かっている。
ちゃんと付き合っているわけでもないし到底好きになってももらえない。
そんなことにこだわる必要もないのかもしれないし、セフレ関係が悪いという訳でもない。
高身長イケメンハイスペック男子と付き合っているとマウントめいたことを話そうとしたわけではなく、割り切った付き合いをしている男性がいるという話しをしたけれど、友人にはわたしの寂しさや不満が透けて見えているようだ。
わたしも結婚している立場でありいわゆるダブル不倫な訳だからなんの不満も言えないのだけれど、それなりに恋愛的なこともしたいというのはわたしの欲張りだった。
 
男性の立場からしたらそれなりにおいしい付き合い方なのではないかと思う。
重くならない、愛情を強要しない、むやみにラインの速やかで頻繁な返信などのコミュニケーションを求めない、それでいて自分には好意を向けてくれて最高に気持ちのいい数時間を無料で月に一度提供する。
便利で都合がいいんじゃないか。
そこからは面倒くさい恋愛ごっこ的なやりとりは排除されている。
わたしは、ほんとうはそういう恋愛ごっこがしたいのだけれど、忙しい彼にとっては煩わしいだけなのだろう。
でもわたしは、自分のルックス等の外見が彼と釣り合っていないと感じている引け目があるため、何一つ文句など言えないのだった。会ってもらえているだけで嬉しいから。
彼にはそんな風な態度をとってはいないけれども。
 
逢瀬の日。
わたしは渋谷で2時間半も時間をつぶしてじりじりとしながら、彼との待ち合わせ時間である8時に備えていた。結局、見たかった写真展はコロナ感染拡大防止対策で最終入場時間が早すぎて行けなかったし、予定外のタイレストランでひとり食事をしたが孤独感が際立って感じた。仕事が忙しい彼とは、当たり前だけれど仕事以下の価値しかないわたしは今や食事すら彼と一緒にできなかった。
感染拡大防止対策以降、終電が早まっている今、彼の仕事終わりまで待つとホテルで過ごす時間しか取れないのが現状である。
彼は、予定より少し早く着けそうだと直前に連絡をよこした。
そうと知っていたら、わたしも早めに新宿にいたのに。
早く会いたいからこそ、そう憤りの気持ちが湧いて、わたしはいつもの待ち合わせ場所で待ってくれていた彼に言った。
「早めに教えてくれたら、わたしももっと早く来たのに!」
彼を待っている筈だったのに、彼がいつもわたしを待っている体なのは何故。
 
そんなわたしの気持ちを知ってか知らずか、あまり表情を変えずに彼は
「じゃ、行きましょう」と足早に歩き始めた。
スイーツ男子の執筆って進んでいますか?
と聞かれて、もう書くことは考えてません、などと答えてしまった。
(結局書いているけれど)
本当は関係性を書くほどに考えてしまって悲しくなってくるから。
でも、関係が悲しいと言ったら彼は消えてしまう気がして口にはできない。
 
彼は職場の近くにあるおいしいケーキ屋さんのタルトやケーキをいくつも買ってきてくれていた。
真っ赤な苺の乗った、カスタードクリームたっぷりのタルト。
チョコレートクリームのパイ。レモンのムース。ベイクドチーズケーキ。
どれも艶々と光っていておいしそうだった。
紅茶を淹れて一緒に食べる。甘くて幸せで、彼と会えること自体が嬉しくて、彼の顔を見て甘いものを食べたら途端に悲しみなど消え失せてしまうのだった。自分の感情が単純すぎて呆れるほどである。
 

リスペクト


年度末でもあり忙しそうだった彼を労わって、最近の話などをした。
そういえばと、聞きたかった事を聞いてみた。
NHKのデザイン「あ」で子どもがデザイナーさんにインタビューで聞くあれである。
一回リアルで聞いてみたかった。
~デザインをする上で心賭けていることはなんですか?
「そのデザインを通して伝えたいことを明確にする、という事です」
彼は続ける。
「具体的に言うと、例えばその伝えたいことは3つ以内に絞る、という事です。
この商品にはこんなに素晴らしいことがいくつもあります。でもそれは敢えて3つ以内しか書かない。人間の脳は、視覚で見たときに3つしか情報を得ることができないと言われています。それ以上に情報量を盛り込むと、『たくさんある』という認識しか人間の記憶には残らない。
だから、伝えたい事があるならば上位3つに絞るべきなんです。」
 
画像から得る情報と人間の記憶の関連性を、きちんと明確な根拠を添えて理論的に説明できる彼のことを凄いと思った。
そしてやはり、自分の思考を具体的に言語化できる人がわたしは好きなんだなと改めて思った。
比べるまでもないけれど、怒りを言語化できないあまりに暴力に出る男性や、気持ちが説明できなくて黙る男性などもいた。今までわたしの前にいた男性よりはるかに言語能力にたけている人だった。
「僕に分かることであれば、これからもなんでも聞いてください。
あなたの創作に役立てるなら、できることをしますので」
そう真顔で言ってくれる彼はとても頼もしかった。ほぼ同じ年齢なのになんと大人なのだろう。その道のプロの人がそういった極意を門外漢に教えてくれるのってその仕事に携わる人のプライドなのかな。それともわたしへの優しさなのかな。
 
ケーキは食べきれないほどの量だった。
わたし達は今まで通りに手順を踏んで抱き合うために席を立った。
 
二人並んで歯を磨く。お風呂とか、歯磨きとか、こういう事ってなんだかとても日常と隣合わせの行為だな、と思う。セックスが自身の日常から切り離されてしまっているだけにそれらの日常的な行為と地続きと感じられないのだった。

彼へのリクエスト


今日のために新しくおろした千鳥チェックのワンピースの、背中のファスナーをおろして欲しいと彼にお願いした。あまり表情が変わらない(変えない?)彼だけれど、いつも唐突に初めてのお願いをするので、少し驚いたときに眉毛がちょっとだけ上にあがるその表情が好きだ。
途中まで脱がされた状態で彼の前に回り込んで、もうひとつお願いをする。
「着衣で立ったままキスがしたいです」
今日のひとつめのクエスト。わたしはいつも彼と会うときに課題を自らに課している。
 
彼とは明らかに20センチ以上の身長差があるので、かなり屈み込んで彼はキスをしてくれる。そうされるだけで嬉しかった。
彼の手が背中に回る。力が込められ抱きしめられる。
この瞬間のときめきをなんと言葉にしたらいいのだろう。まるで幸せの渦の中に巻き込まれるようだった。
彼の手が空いたファスナーの隙間から背中に入り皮膚に直接触れる。感じてしまいぞくぞくする。
彼の唇がわたしの首筋をなぞる。わたしは小さく声を漏らす。
このままこうして居たい……
けれども唇を離す。続きはベッドの上で。
 
今日二つ目のクエストは
『彼と一緒にお風呂に入って体を洗ってあげること』
できればソープ嬢のようになりきって彼の体の隅々までを洗ってあげたい。
しかしやはり彼は足の指に触れられることには抵抗があるようで、わたしの満足がいくまでは洗ってあげられなかった。くすぐったいのかな……
それでも、ボディソープを豊かに泡立てて彼の胸や背中に広げて、体を密着させて丁寧に洗ってあげた。抱きしめて彼にキスしながら腕や背中を指先で愛撫するように洗った。
なんだかとても照れてしまう。どうして彼に関してはこんなに照れ臭いのだろうか……
 
ベッドに移動して、今度は彼のやってみたいことをやってみようという事に。
今日三つ目の挑戦は『行為を動画で撮る』
彼が持ってきた撮影用のスマホスタンドが仕事用のそれみたいに立派でちょっとびっくり。……これは本気だ。
思わず聞いてしまった「それ仕事のですか……?」
「いえ、違います」
わざわざ買ったのだろうか。それとも既に持っていたのだろうか。
ベッドに入るときに既に録画ボタンが押されていたことにわたしが気づいていなかったためとても無防備なわたしのしゃべる声と姿が録画されていた。
録画されてしまうと、本来の自分のだらしない体型が際立って映っていて、とてもとても美しい代物ではなかった。
なぜ男性ははめ撮りが好きなのだろう。画像に卑猥さを感じるからだろうか。
男性は視覚によって興奮するというから、そこからなのかな。
それでも、彼がやりたいことをやってみるというのは楽しいことだった。
わたしのやりたいことばかりではなくて、彼のやりたいことにもどんどん挑戦したい。
 
セックスを画像で記録するというのは、言葉で思い出すと美しい思い出であるのに対して、惨くも真実を突きつけられてしまうことだった。
でも、逆に言えばもっと痩せて体型を引き締めなければならないというモチベーションには繋がるかもしれない。
録音もまだ想像の余地があって好きだ。
自分の地声はあまり好きではないがセックスで感じている声だけは好きだった。
前回わたしのスマホで録音させてもらった音声は、オナニーするときの演出に使わせてもらっている。自分の声のほうが大きくて沢山録音されているけれど、時折、彼の感じている声が少しだけ入っているのがすごく興奮するのだった。
 

おじさんの定義


録画した画像を見ると、彼の背中とわたしの局部が映っていた。
「主におじさんの背中が映っている画像です」
と彼が自虐的に言うので、あなたはおじさんではありませんと言い返してしまった。
おじさんの概念とは……なんのだろう。年齢なのだろうか。ビジュアル的にイケていて老けたところは見受けられなく性的な事に探求心と情熱がある彼を、わたしはおじさんと捉えることはできなかったから。
おじさんってなんだろう?おじさんの概念とは?
頭が禿げていたり、頭皮や体がギトギトしていて臭かったり、中年太りしていたり、現実に妥協したりして何かを常に諦めている状態の男性のこと?
それを言ったら自分はどうなんだろう。しっかりおばさんカテゴリに属しているのではないだろうか。醜く太ってストレスで薄毛気味だし、慢性的に仕事に不満はあるけれどもう諦めている。しかし性的な探求心と異性へのときめきは忘れないようにしている。それはわたしが単にそうしたいからだけだけれど……
 
そして動画は後日のやり取りで、アングルをもう少し変えたほうがいいかもしれません、などと話し合う材料となった。
これもトライ&エラーである、挑戦して失敗して工夫してやり直すのである。
やはりわたしたちは研究所の所長と研究員の関係に近い。研究と探求は毎回続いていく。
 

舌で味わう、そして指でも


結局この日は録画していることを2人とも意識し過ぎてプレイを堪能したとは言い難かった。長尺になってしまったが一旦録画は終了した。
少し時間があったのでわたしは射精後の彼のペニスを沢山舐めさせてもらった。
放った精がまとわりついていて最初は苦いのだけれど、だんだんと甘くなってくるのが不思議だった。飽きずにしばらくキャンディを舐めるように味合わせてもらった。
放出後なのでふんにゃりと柔らかいペニスをいつまでも舐めさせてもらうのは、それはそれで楽しかった。彼のペニスを好きにさせてもらう状態が楽しくて嬉しくて、ふふと笑いながら舐め続けた。時折少し硬くなったりまた柔らかくなったりする感触を口の中で楽しんだ。
放出した後に触られたり刺激を与えられるのは不快ではないかな、と思って途中聞いてみたが、「いや、気持ちいいですよ」と言われたのでそのまま続行した。
激しくしごきながら先端を唇で挟んで唾液水分多めで深く咥え込んだり離したり、また吸い込んだりを繰り返すと、硬度が増してきた。わたしはとても欲しくなってしまい、彼のペニスが陰部に当たるように彼の上に馬乗りに跨った。
まだヌルヌルしているあそこを擦りつけるように腰を前後に動かす。
少し突き上げるような動きを彼もしてくれたけれど、挿入に至るまでの硬度までには達しなかった。欲しいものがもらえなくてもどかしく、わたしは逝きたくなってしまい、
「指で……お願いできますか?」
と聞いてみた。
彼は無言ではあったけれど任せとけと言わんばかりにすぐに対応してくれて(!)
わたしのあそこに指を差し入れると絶妙なタッチで刺激してくれた、
先ほどの焦らされるくらいのプレイで逝く寸前になっていたわたしはすぐに気持ちよくなってきてしまい、大きな声が出てしまう。
彼の指を締め付けるわたしの内側の収縮で逝きそうになっていることが彼に伝わったようで、更に激しく指を抜き差しされて、
「あああ、いく……!!」
迸る潮を噴き出しながらわたしは絶頂に達した。
 
「あーあ、咲紀さんの一番いいところ録画できませんでしたね?」
そう彼が悪戯っぽく聞くものだから、わたしは恥ずかしくなって
「録画していたら、多分潮噴きながらいきません……」
 
股の間がべちょべちょに濡れてしまったのでそれを流すためにわたしは慌ててバスタオルを掴んでシャワー室に向かった。
このスイーツ会での情事は書かないと彼に言っていた、でも今回も初めての事がたくさんあって面白かったので帰路に着くころには既に書きたくなってきてしまっていた。
多分、また書いてしまうのだろう。そう思っていた。
 
こうしてわたしが記憶をさかのぼってもスムーズに文章にできるのは、
彼とのことを何回も何回も反芻するように記憶を脳裏によみがえらせて思い出して味わっているからであり、文章に記録して更に記憶を強固にしておきたいという気持ちがあるから。ひどい創作動機だと自分でも思う。
 
一か月に一回の逢瀬を、脳内の甘い記憶だけで待ちわびる。
それを思うと彼に会えない間の多少の辛い日常のいざこざも乗り越えられる気がした。
3月に会った時にはもうひとつお願いしたことがあった。
「彼が煙草を吸っているところを間近で見せてもらう」
だった。
待合室にある喫煙所で吸ってきていたり、食事中は控えてくれてわたしが入浴している間に吸っていたりするのであまり見たことがなかった。
「どうぞ。煙草吸ってください」
「いいんですか?」
「はい、むしろ見たいんです」
 
煙草の煙はあまり好きではなかった、むしろ嫌いだった。
でも好きな人の煙草の匂いだけは、好きだ。滅茶苦茶な論理である。
わたしに煙が当たらないように横を向いて煙草を吸う彼の横顔を見て、やっぱり恰好いいなと思った。
正面を向いて自分の顔に煙草の煙を吹き付けられても構わない、と思った。
眼鏡の奥の瞳は冷たいままで、見下げるようにわたしを軽蔑してほしいとすら思った。
醜い肉の塊のくせに、はしたなくて貪欲で、なのに対照的にこんなに素敵なあなたに愛されたいと無謀にも思っているわたしを冷たくなじって欲しい。
そんな風に思ってしまうわたしは被虐欲が強い女なのだ。
 
彼は知らない。
無自覚にわたしを支配していることに。
会える時間も短くできることも限られている、限定したお付き合いにわたしは満足しているわけではなくて、それでもいいから彼に会いたいと、既に降伏しているということに。
 

どうでもよくないことと、肩の怪我


4月。
新年度を迎え、職場内ではあるがわたしは新しい仕事に移った。新しく覚える事が多く気忙しい日々が続いていた。
彼は3月の株主総会や年度末進行の納期を乗り越えて少しは落ち着いたのだろうかとわたしは懸案していたのだけれど、ラインの文面から察するにあまり落ち着いてはいないようだった。
案の定、月に一回のスイーツ会の予定はなかなか立たずわたしはやきもきしてしまい、既にわたしがスケジュール的に開けられる日をいくつか提示して一週間ほど経ったときにこう書いてしまった。
「あなたにはどうでもいい事かもしれませんね」
すると
「どうでもよくないですよ。」
とスイーツ会の開催日を確定してくれた。どうでもよくないと言われたのは嬉しい事だったが、脅迫して早く決定させたようで少し心苦しかった。
あんまり急かしたり、多くを相手に望まないほうがうまくいくということを頭ではわかっているのに、最近のわたしはあまり冷静になれないのだった。
 
待望のスイーツ会開催日。
わたしは、最近池袋にオープンしたばかりのレトロな固めプリンのテイクアウト専門店でプリンを買ってから新宿に戻るつもりでいた。
しかし、まだ慣れない仕事に一時間以上残業になり、待ち合わせ場所に移動するだけで精一杯な時間となってしまった。
今回はプリンは見送ろう。
その代わり、新宿伊勢丹で思い切り美味しそうなスイーツを買って彼に持っていこう。
デパ地下に入ると、蔓延防止措置が出ているにも関わらず多くの人で食品売り場は混雑していてわたしは戦慄した。わたしも買いに来ているひとりなので文句は言えない立場であるが、ケガで肩を脱臼している状態の自分は人とぶつかるのが今は直接的に怖かったのである。
そう、わたしは肩を痛めていた。全治3週間、2週間は三角巾で腕を固定し安静を医師から言い渡されていた。しかも生理も始まりそうな気配で下腹部も肩も痛かった。
そんな悪状況であるのにわたしは彼にそれを伝えずに会いに来た。
こんな状況で性行為していいのか自分でも自問自答してどうなんだろうと思った。
卑怯にも強行突破である。わたしが体調不良だと彼に伝えたら、わたしを気遣ってだろうけれども、すぐさまスイーツ会は中止になってしまう気がしていた。
ただただ、彼に会いたかった。
体も痛いけど、自分の存在も痛いヤツだなって、思った。
 

甘い甘いもの


部屋に入ってテーブルの上でケーキの箱を開けると彼から感嘆の声があがった。
「めっちゃおいしそうですね、これ!」
ふっふっふ。伊勢丹の地下を歩き回って美味しそうなケーキを選びましたもの!
Le Detailというガラスケースの中にケーキが宝石のように輝いていたお店。
エッグタルトみたいに黄身が濃そうなカスタードたっぷりのガトーフロマージュ、ピスタチオのグリーン色が綺麗なクリームが小さなパイシューの中に入っているサントノーレピスターシュ、フランボワーズの酸味のあるゼリーとホワイトチョコレートのクリームの味が対照的なムース。
次は彼がタカノフルーツパーラーの箱を開ける。
「わー!綺麗!おいしそう」
今度はわたしが喜びの声をあげる。
つやつやにコーティングされたオレンジ色した枇杷のパフェ、新鮮なメロンがたっぷり乗ったメロンケーキ。うきうきするほどこちらも美しくおいしそうだった。
やっぱりスイーツは幸せな気持ちになる。
 
わたしはこれのほかに、しょっぱいものも必要かな、と中華ちまきとエビシュウマイ、黒豚焼売も買ってきた。ちまきは小ぶりながらも焼き豚の味がしみていて、もち米もモッチリしていて美味しかった。おいしいですねって頬張る彼を見て嬉しくなった。                            
しかし、それらを食べたらお腹が満たされてしまい、またもケーキは食べきれなくなってしまった。
「咲紀さん……今度からは、これ量は半分でいいかも。」
確かに。次からそうします。
彼は甘いものだけでも大丈夫みたい……
 
食べている間に、打撲したと話していた事が整形外科を受診したら実は脱臼だったこと等を打ち明けたが、彼はさして驚かなかった。
わたしの配偶者の実父が亡くなり本来なら告別式に列席しなくてはならないような事態のときに会いに行った時もそうだったけれど、彼はこの異常な状況にもそんなに驚かない。そのことに却って救われる。
そこまでして会いに来たのかと引かれるのも嫌だし、軽蔑されてしまうことも嫌だから会うまで言わないのだけれど……
これは到底一人で1個食べられるものではありませんと彼に言わしめたガトーフロマージュ2個のうちひとつとメロンのケーキは自宅に持ち帰ることにして、冷蔵庫に入れ、わたし達は洗面所に移動した。
今回も並んで歯を磨く。鏡に映る彼の背はやはりわたしに比べてすごく高い。
旦那さんとも並んで歯を磨いたりしないのに、この状況はなんだか不思議な感じがした。
今迄の男性たちとはどう歯を磨いていた?わたしはひとりで浴室で歯を磨いていたのだろうか。もう、あまり鮮明には記憶になかった。
交代で洗面ボウルで口をすすぐ、着ていたシャツを脱いで手に持ちベッドルームに移動しようとしているところの彼の腕を取り引き留めて、彼の胸元に額を付けた。
手に持っていた衣類を鏡の前の椅子に置いて彼は両手を空けて、わたしの怪我をしていない方、左の肩にだけ力を入れて抱きしめてくれた。
顔を思い切り上にあげてキスをねだる。彼の背中に回った手に力が入る。
左横目に見える大きな鏡に、自分のいかにも幸せそうに感じている横顔が映っている。
それが恥ずかしかった。これからもっと、恥ずかしい事を沢山するのは分かっているのに。ここから数十分だけは。彼の視線も情熱もわたしだけのもの。そう思うと嬉しいような狂おしいような気持になった。
陶酔する。
抱き合ってしまうと何も考える事ができないのだけれど、キスをしている時はまだその瞬間の気持ちに浸ることができるから。
柔らかいキスを繰り返して、こんなに優しくて気持ちいいキスを交わして好きにならずにいられようかと思う。今わたしが感じている愛情と錯覚してしまうこの何かしらの感情、もしこれが嘘なら、これが演技であるのなら、かなり残酷だ。
シャワーを浴びてベッドルームに戻る。以前より躊躇なくベッドには入れるようになったかも。
今日の下着はミモザみたいな黄色から薄いオレンジ色にグラデーションのレースのキャミソールに、やはり黄色ベースのレースに白やすみれ色、ピンクなどの小花の様な柄のブラとショーツのセットアップ。
「春らしい色合いでとても可愛らしいです」
かわいらしい!って言ってもらった!
下着に向けられた感想でもすごくすごく嬉しい……
毎回彼の感想が楽しみで下着を選んでいると言っても過言ではない。
胸元に口づけられたただけで体温が上がるのが自分でも分かる。
部屋が少し寒い気がして空調は付けないでいたけれど、すぐさま汗ばんでくる。
 

脱臼セックス


わたしは脱臼している肩がまた抜けてしまわないように気をつけながら(!)、
自分でキャミソールの肩紐をゆっくりと外した。
キスしているだけで鼓動が早くなってどきどきする。下半身がジンジン充血して痺れるみたいに濡れてくるのが分かる。彼の下半身もカチカチに硬くなっていてわたしはわくわくとして俄然嬉しくなる。
この日は生理前だから分泌液が更に濃くてぬるぬるしているみたい。
彼に指を入れられたらいつもよりねっとりしているような気がした。
舐めてもらうのは、やはり生理前だから匂いが気になった。けれど、匂いがしたら嫌だから舐めないでとも言えなかった。とにかく彼には何か言うにしてもするにしても恥ずかし過ぎるのだ。その割に色々と大胆な事を試しているけれども。
 
充分な前戯のあとに彼がわたしの中に入ってくる、やはりいつもより粘度が高くてぬるりとしていて、なんだか格別に気持ち良い感じがした。
「は……ぁんんん……」
気持ちいいからというよりはそのいつもと違う快感に驚くというような意味で声が出る。
今回は録音も録画もしなかった。わたし達はお互いに与えあう快感に没頭した。
右腕が不自由な状態なので左の腕しか力が入れられないのだけれど、それすら途中から忘れるくらいだった。最初は恐る恐るという感じだった彼も、むしろいつも通り、というかいつもより激しいくらいだった。
彼としている間は全く怪我している肩の痛みなんて感じなかった。興奮すると痛みすら感じないというのは本当らしい。
「痛いからバックは無理?」
と聞く彼に、「だいじょうぶ」とだけ答えてわたしはお尻を高く突き出した。
痛くてもそう答えてしまっただろう。でもこの時のわたしは痛みも感じていなかった。
腕を付く状態ではなく頭を枕に伏せる形で彼にお尻を掴まれる。ベッドに対して斜めの態勢になり右腕はベッドからだらりと垂らした。
彼のペニスが後ろから深く突き刺さる。硬い……気持ちいい。
もうそれしか頭に浮かばない。
配偶者がいる者同士でセックスしていること自体には罪悪感を感じないのに、体を怪我しているのに欲望を抑えられずに求めあって、ましてや更なる快感を追ってしまうことは、愚かでかつ背徳感を少し感じる事だった。
 
しばらくそうしてバックで繰り返していると突然パンっと右の臀部に衝撃が走った。
痛みというよりはやはり驚き。
彼がスパンキングをしてくれたのだった。これはわたしのリクエスト一覧の最上部に来ていたものだった。もう、忘れかけていた。
何回か打ってくれる。その都度わたしの内側は強く収縮した。
彼が望むことをされるのがいいのだと言いながらもわたしが望むことをしてもらっている、という事が、矛盾を孕みながらも嬉しいのだった。
細く泣き叫ぶみたいに声が出てしまう。
打たれる瞬間にきゅ、っと中が締まると同時に少し潮も噴いていた。恥ずかしかった。
何回か目に打たれた時に感じすぎた衝撃でわたしはベッドに倒れ込んだ。
わたしの呼吸は荒い。そのまま寝バックの状態で少し交わり続けた。
ベッドから落ちそうになってる。
くるんと前を向いて再び正常位になる。最後はこの体勢がいい。
両手首を彼に掴まれたまま、動きは激しいまま。
いつの間にか二人とも汗だくで、彼の額から滴った汗が鼻先を伝ってわたしの目に入る。そこまで激しく動いてくれるのが嬉しいのと気持ちいいのと、汗が目に染みて少しだけ痛くてそして何故か悲しくて、わたしは泣きそうになる。叫び声に紛れてちょっと泣いたと思う。
唇をつきだして彼にキスをねだる。与えられたキスは汗と涙とで少ししょっぱかった。
汗だくでセックスしていて喉が渇いていた、水が飲みたかった。
先ほど冷蔵庫から出したお水、キャップをひねろうとしたら脱臼しているので腕が地味に痛くて開けられなかったことを思い出した。彼にお願いする。
「お水、ちょうだい……」
彼が枕元からミネラルウォーターのペットボトルを取った、瞬間に続けた、
「口で。」
躊躇なくわたしに覆いかぶさって彼は口に含んだ水を口移しに飲ませてくれた。
おいしかった。そのままキスをしてから、もう一度、こぼれないようにゆっくり水を飲ませてくれた。下半身を繋げたまま、舌も唇も絡ませ合って、溶けそうになる。蕩けそうになる。逝きそう。逝く……
彼とほぼ同時に達する。
エクスタシーは感情とリンクしている。頂点はなにか全ての高密度な感情をごちゃまぜにしてぶつけ合うような気持になる。
セックスって本能的に凄く惹かれてとても素敵だけれど少し滑稽で少し悲しい。
美しい格好いいだけではない、醜さとか汚いものもさらけ出さないとここまで感じられない。
彼と並列に静かにベッドに横たわっている。
彼が放出した白濁とした精子がとっぷりと陰毛に絡んでいる。
わたしは彼のペニスを口に含んだ。最初はわたしの内側の味、膣粘膜と愛液の塩辛さが来る、そのあとに彼の体液の苦さが来る。人間の出した液体がここまで複雑な味わいであることにわたしは不思議な気持ちになる。激情が終わった後はこんなことをしていてもとても平静な感情になることにも驚く。
 

終わった後の空虚なきもち。


シャワーを浴びるとあっという間にチェックアウトの時間である。
3時間なんて、ほんの瞬間に過ぎてしまう。
わたしは、彼との濃密な時間が本当にすぐに過ぎ去ってしまう事を悲しく思う。
彼は、さあ終電がなくなるまえに速やかに帰りましょうというように、そして先ほどまでの獣みたいに絡み合っていた状態が嘘みたいに、迅速に元の颯爽とした装いに戻っていた。
彼は全く悪くないのにわたしはなぜか嫌味でも言いたくなって、
「すっきりしましたか?」と聞いてみた。
「なぜですか?」と聞き返されて、「一杯出したから。」
とわたしが答えると、「そう言われたら、そういう意味ではそうですね」
と少し怪訝そうに彼は言った。
わたしは……冷静になるとやはり肩が痛かった。
当たり前だ。脱臼していて鎖骨が浮いているんだから。そしてなんだか胸も痛かった。
生理前で下腹部に鈍痛が来ていた。痛くて気怠くて、このままここに蹲って帰りたくないと子供のように泣きたいような気持になる。でももう大人なんだからそんなことできる訳がなかった。
わたしは鏡に向かって口紅を引いた。マスクをするから化粧直しをしても意味がないような気がするし、帰宅したら家族はきっともう寝ているだろうから顔を見られることもない。それでも部屋に入る前の自分の姿に戻らなければならない気がした。
この日は、特にその復旧がしんどかった。生理前で気持ちが不安定だったのだろうか。
下着を着けて、ストッキングを履き、着てきたモーブピンクの綿レースのワンピースに袖を通した。来たときは敢えて外していた三角巾を付けると、わたしは正真正銘の怪我人に見えた。
「それ付けると、痛々しいですね……」
急に、なんだかほんとに自分の事をみっともなくみすぼらしいと感じた。
仕事中に間抜けにも肩を脱臼するくらい運動神経がなくて、業務に支障を及ぼすほどなんにも作業ができない状態なのが今のわたしだった。そんな状態に戻ってしまった。
シンデレラじゃないけれど、魔法みたいな時間はもう終わりが近づいていた。
急がないと、カボチャの馬車ならぬ、前倒しの終電が行ってしまうよ、早く。
ほんとに零時で終わってしまうんだ。帰れなくなっちゃうんだ。
 
ホテルを出て、いつものように新宿の街に出て、彼と違う駅に向かう。
直進した道の角でいつものように別れようとする。でも腕を吊っていて、もう片方の手には荷物のわたしはいつもみたいに手が振れない。
彼が、また、って言うと同時にわたしの吊っている方の手のひらに触れた。
またね。
なんでこんなに寂しいんだろう。なんでこんなに辛いんだろう。
物理的な痛みはメンタルにも影響する。
これはきっと腕が痛いから。
生理の前でお腹が痛いから。体が痛いから悲しい?
違った。……彼に抱かれたのが気持ち良すぎて幸せだったから。
別れ難くて体を引き離すだけで悲しいのだった。こんな気持ちは理解され難いだろう。
感情に飲み込まれてしまいそうになる。新宿三丁目の駅に降りるエレベーターのボタンを押しながら、わたしは一筋涙を流した。この日も結局、最寄り駅行きの終電で帰ることになった。負の感情に押しつぶされそうでなんだかこの日のわたしは駄目だった。
 
地下鉄に乗り回想する。
ホテルから出る時のフロントにて、テーブルの上に差し出されたスタンプカード満了の宿泊券に三角巾の腕でわたしはぎこちなく自分の名前をサインした。
そもそも不倫の関係で泊りとか難しいよね……
分かっているのになんだか意地悪な気持ちになってわたしは彼に泊りのデートができるのか聞いてみたがやっぱり無理だった。当たり前だなと思うが悲しくなる。
彼が配偶者に対して後ろめたさや背徳感を感じない、と言っていたことが自分と同じであることに価値観や考え方が近い人だと感じていたが、それと、家族に対して誠実であろうという態度をきちんと彼が取ること、とは全く別なのだった。
わたしはそれを別の事と理解していなかった。
今迄も既婚者同志で付き合ったりしていた人もいたけれど、家族から放置されているのに近い状態の人だったから、旅行に一緒に行ったり都内のホテルに泊まりこんだりしていた。
そんな状態が普通じゃなかったんだ。わたしは不倫の一般常識をよく分かっていなかった。
わたしが彼に会いたいと思うように、彼はわたしに会いたいとはそんなに切実には思っていない、そんな風にこの時は痛いほど感じた。
 

勝手に自爆。「お金のかからない風俗嬢」とは


そう、ゆっくり彼に会いたかったから。金曜日の3時間じゃ物足りないと思ってしまったから。もう少し長く彼と一緒に居たいと願ってしまった。
そんな事、願える立場じゃないってこと、忘れかけていた。
……さっきの激しい時間は夢だったのかな。
下半身には少し痺れるくらいの快感の余韻が残っていた。
念願のリゾートホテルの宿泊券ももらった。なのに、なんだか全然嬉しくなかった。むしろとても悲しい気持ちだった。わたしは欲張りになり過ぎていた。
わたしが彼と自由にできる時間は、あのキスからの数十分だって、自分でも分かっていたじゃない。
なのに、わたしは更に追い打ちを掛けるように、
「月に一回呼ぶお金のかからない風俗嬢みたいですね」
なんて自虐極まりない事までLINEに書いて送ってしまった……
余剰のない時間で行う感情の込もらない肉体関係だけで悲しいなと感じてしまった……
でも彼に敢えてそれを言う必要はなかった。
恐るべし生理前不安症候群。いや、PMSだけのせいにしてはいけない。
わたしは、彼を、意図的に傷つけたかったのだった。
自分はひとりで勝手に傷ついた癖に。
彼を傷つけて、本音を引き出したいという狡い打算があった。
でも結果的に、わたしの言動が雰囲気を悪くしただけであり彼が本当のところどう考えているかなんて全然分からなかった。
今迄も感じていたけれど、彼は心の奥にある気持ちを言葉に乗せることはないのだった。
「咲紀さんに悲しい思いをさせているなら会うのをやめましょうか」
と彼に言わせるくらい自爆してしまった。
そんなに簡単に会うのやめますかになってしまうのね。ああ、少し面倒になると切り捨てられるくらいの存在なのだな、わたしは。
これが本当に小説ならば、残念ながらこれは『そろそろ終焉』のフラグです。
違うの。わたしは終わりにしたい訳ではなかった。
語尾が疑問形だったことをいいことに、
「それは嫌です」と即答した。
面倒くさい女。一番なりたくなかったものに、この時のわたしはなっていた。
本当に感情の込められていない肉体関係なのか。
言葉だけで推し量ろうとしているからそう感じてしまうのか。
行為の最中に確かに愛のようなものをわたしは感じている。
彼の視線や抱きしめる力や、あのわたしを求める情熱みたいなもの、わたしが望むものを与えてくれる優しさの中にそれを感じている。それは愛ではないのかもしれない、でもそれだけで充分な筈だった。
言葉による確証をわたしは欲しかっただけだった。それは愚かな事だった。
 
自暴自棄になっているのに近かった。
彼との関係性は何も変わっていないのに勝手に落ち込んでいる。
前日のTwitterに書いた自虐メールにリプがついていた。
スイーツ男子を書き初めのころから読んでくれている男性官能小説家さんでからある。
「男性の立場からの発言ですが、咲紀さんのことがどうでもいいから
『会うのやめましょう』ではないのではないですか。
咲紀さんの事が大切だから、大切な人が傷つくくらいなら自分が身を引いて関係をやめて楽にしてあげようという優しい配慮なのではないですか?」
ふぁっ???
どういうこと?わたしの事、面倒になったらすぐ別れますよってスタンスを誇示してるんじゃないの?ますます分からなくなってきた。
 
「ありがとうございます。そうだったらいいなと思います」とわたしは返事を返した。
数時間後。別の友人からもリプライが付く。
 
「先ほどのリプにわたしも同感です。
ぶっちゃけ、スイーツ男子さんくらい良いビジュアルとスペックの男子だったらいくらでも女は選べるしどんな人とも遊べるはずなんです。
それを、失礼を承知で言いますが、咲紀さんみたいに明らかに面倒そうなメンタルの女とわざわざ会うメリットありますか?
恐らく彼は純粋に咲紀さんと一緒にいるのが楽しいんだと思います。だから咲紀さんが楽しい女性でいなきゃダメですよ~
あっ、あと彼は咲紀さんのこと、体だけ好きなわけではないようにわたしは思います」
へ??そうなの???
 
「普通の不倫関係は土日祝日とか会わないし、咲紀さんが今までお付き合いしてきた人みたいに連休に旅行とか行きません。咲紀さんの今までの経験が特殊過ぎるんです。お休みの日の既婚者は家族のものなんです。会いたい気持ちと会えている時間は比例するものじゃないです。そこ理解しないと」
はっ、はい…そうですよね……
 
「あ、それと文章に書いてあったようにあんなに気持ちよくしてもらっておいて風俗嬢だなんて彼に失礼ってもんです。風俗嬢は男性を気持ちよくするんだから逆に風俗嬢に対して男性はマグロだと思いますよ。違いますか?
お互いに割り切って楽しんでいた筈なのにいきなり相手に自分の価値観押し付けちゃダメです。」
確かに……正論過ぎる。
 
「彼と会える時間短いって嘆いてますけれど、彼は仕事が相当忙しんじゃないですか?
そこを約束通り月に一回会う時間やりくりして作ってくれるの、すごく誠実だと思いますよ。その努力と気持ちを大切にしないと。
今、わたし全部厳しめに言ってますが、外野から見ていても今の咲紀さんが彼を失うのはきっと勿体ない事だと思うんです。咲紀さんの文化的なところ、芸術に対する姿勢とか理解してくれたのってスイーツ男子さんが初めてじゃないですか?
今まで、ご飯とか車とか色々咲紀さんにお金と時間をかけてくれる男は沢山いたと思うんです。
でも、そういう事を分かってくれる相手を失うのは辛いと思うんです。
だからきつめに言っています。自分が悲しくなることばかり考えちゃダメです。
分かってくれたら嬉しいです」
ううう……こんなにわたしの事を考えて応援してくれる人がいるなんて。
ほんとにありがとうございます。
 
「あと、これ思うんですけど、
彼にとって咲紀さんは中身も外見も貴重な好みのタイプのはず。
前述しましたが、彼にとって女性はどんな人でも選べる立場だと思うんです。
そこを、咲紀さんを選ぶ意味を考えてみてください。
好みじゃなかったら繰り返し会おうとしないはずです。
自分は好かれているって自信持っていいと思います。」
もう、彼女は恋愛カウンセラーかな…それとも占い師?
でも、この時彼女の最後の言葉をわたしは全く理解していなかった。
咲紀さんの小説を読む分には絶対彼は咲紀さんの事好きな筈、と言われて、
単にわたし目線で都合よく書いているだけかな……
とも思ったし、これを書いているわたしはそうは感じられなかったからだ。
そしてみなさんとてもスイーツ男子推しなのだなあ。
 
しかしこの直後にわたしにはとても嬉しい予想外の急展開が訪れたのだった。
 
第4話終わり

 

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