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【インタビュー】「君の人生が、芸術です」

こんにちは!視覚障がいのライター、榎戸 篤(えのきど あつし)です。

漫画『くにゅと見えない世界』が、連載スタートしましたね。
今回は、その原作者きっちょもさんへのインタビューをしてきました。
ぜひご覧ください!

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■見えない夫婦、見える娘の、ズレを描きたい。

―――この漫画ってどんな内容ですか?
「目が見えないボクと妻(ましろ)、見える娘(くにゅ)、家族の日常のズレを中心に描いた作品です。
ノリでいうと『ちびまる子ちゃん』や『あたしンち』みたいな、ほのぼのとした感じになればと思ってます」

―――「日常のズレ」って、見える/見えないことでのズレですか?
「そうそう。
たとえば、第3話に描かれているように、ある日、娘が「あそこにいるよ~」ってボクたちに言ったんです。
で、こっちが「なにが~?」って聞いたら、「何か小さい黒いのが」って。「はやいよ。動いてるよ~」って(笑)
「それって、もしかして・・・」ってゴキブリの存在にボクと妻(ましろ)が気付いて。

見えない夫婦だけだったら、ゴキブリの存在に気付かない。
だけど、見える娘がいることで、ボクらはあたふたするんですね。
我が家には、そういうズレがある」

―――そういうズレを描きたい?
「はい、それってすごく笑えると思うんです。
だから、別に福祉とか視覚障がいを知ってもらいたくて描くわけじゃない。
我が家のことだから、視覚障がい全員に当てはまることでもない。
ただただそのズレを、おもしろく描きたいんです」

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■「きっちょもさんの人生が、芸術です。」

~~きっかけは、小泉明郎さんの言葉だった~~

―――どうして漫画をつくろうと思ったんですか?
「じつは、現代アートの小泉明郎さんと作品を共同制作させていただいたことがあるんです。
その時、小泉さんが『誤解を恐れずに言うと、きっちょもさんの人生、そのものが芸術なんです』って話をしてくださって。

最初は何をおっしゃってるのかわからなかったんです。
でも、ボクが普通に街を歩いているだけで、周りは何かを感じるじゃないですか?
ボクが普通に切符を買って改札を通るだけで、周りはそれを見て何かを思う。

―――たしかに。芸術って、「なんでこうなんだろう?」って問いかけをしたり、感情が動くものですもんね。
『そうそう。
『それが、そもそも芸術なんです』って話をしてくださったんです」

―――自分の中にすでに芸術性があるって?
「ええ。
で、自分を素直に表現していけばいいんじゃないかなって。
珍しい体験をしてるんだから、それを発信していくだけで、芸術作品になっていくんだって」

―――それで漫画を?
「はい。
友だちの鍼灸師・坂井祐太先生に何か発信したいと言ったら、漫画を勧めてくれたんです。

で、漫画と聞いて、直感的に「あ!これだ!!」って。
坂井先生は、自身の治療が漫画になったことがあって、その時お世話になった漫画家のあおいねこ先生を紹介してくれたんです」

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■見えないきっちょもさんが、どうやって漫画を?

―――そもそも、絵が見えないきっちょもさんがどうやって漫画をつくってるんですか?
「エピソードやストーリーをボクが考えて、あおいねこ先生が構成や作画をやるって形ですね。

で、伝える時に、自分の思いやこだわりも一緒に添えて、それをあおいねこ先生が具現化してくれているって感じです」

―――できあがったものは、どうやって確認するんですか?
「あおいねこ先生が、文章で絵の説明などをテキストで送ってくれて、それで確認してます。
絵を見てくれる協力者に、より詳しく説明してらうこともありますね。
だから、ボクは一度も絵を見たことないんです」

―――そうすると、テキストが大事ですね?
「いえ、ボクがこだわっているのは、自分の言おうとすることが形になっているかどうかなんです。
絵の細かい部分は、ねこ先生の表現でお願いしたいと思っています」

―――信頼関係があるんですね。
「そうですね。
逆に、これは2人の気持ちや表現が共鳴しないと成立しない。
回を重ねるごとに、それが面白いことだなって思ってるんです」

―――ひとりではできないことですもんね?
「そう、絶対にひとりではできない。
ボクは誰かを介して何かをするわけじゃないですか?
そこにまた、誰にもできない新しいことが生まれるのかなって思ってるんです」

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■できてた事ができなくなる、その積み重ねだから。

―――最後に読者にメッセージはありますか?
「今回の作品をみなさんに読んでいただいて、心の栄養にしてもらえると有り難いなと思っています。

たとえば、今回のコロナで普段できなくなってしまったことに対してすごく後ろ向きな話が多かったですよね。

今までできてたことが、できなくなってしまったという。
本当に心を病む人もいるし」

―――「コロナうつ」という言葉もありますね。
「今までできてたことができなくなった、その積み重ねだから、ボクの人生。
それを受容して受容して、楽しい人生に変えてってるのが自分の人生だから。
なんか、それをむしろ何かの形で発信していくことで、もしかしたらそういう人たちに何か響くかもしれないなっていうね」

―――響くものがあるかもと?
「社会の中で、自分の作品が、みなさんの心の栄養的な感じになっていったら、うれしいなって思ってるんです。
できてたことができなくなることは、決して不幸なことではないんだよって。
でも、じつはこれは後付けで、ただ単純に作品を面白く読んでほしいっていうだけなんですけどね 笑」

そう、きっちょもさんは照れ笑いを浮かべながらインタビューを終えたのでした。
そんなきっちょもさんが送る作品、これからぜひお楽しみください!


【写真】榎戸

ライター
榎戸 篤(えのきど あつし)
テレビ番組の制作会社で働きながら、ライターとして活動を行う。
3歳の時のケガにより弱視となった、視覚障がい当事者。
メールアドレス:uj092021@yahoo.co.jp


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