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コロナ感染拡大でも意思決定できない人たち

コロナの騒動は日に日に深刻度が増しています。大手企業はいち早くテレワークに切り替えるなどの対策を講じていましたが、行政や教育機関の動きが本格化しはじめたのは東京五輪の延期が決まってからで、なかなか思い切った手段を講じることができてきませんでした。また、東京は緊迫感が出ていても、地方は依然としてのんびりした空気が漂っています。クラスターが発生したと言うのに私の住む大分県も行政や教育機関の動きは早いとは言えません。

また、地方都市や中小企業に至ってはなにか対策を講じたのか、なかなか耳に入ってきません。大分県内だと、柳井電機工業株式会社が3月11日から原則テレワーク実施に踏み切っていますが、ほかの企業が何か特別な対策をとっているのかは不透明なところが多いです。

コロナウイルスは世界的な問題です。今や都会だろうが地方だろうが関係なく、どこに住んでいても感染のリスクが付きまといます。しかも、感染者の8割が無症状なので、誰がいつどこで誰を感染させるのかわかりません。このような状況の中で、コロナウイルスの問題が我がことではないと考えている人はほとんどいないでしょう。

しかし、コロナの危険性を分かっていながらも、組織内での意思決定となると思うようにいきません。通常業務のプロセスを変更することで生じる莫大なコスト、関係各所への周知徹底の難しさ、公平性の担保、サービス品質の維持などの多くの事象を考慮すると、なかなかコロナ第一に考えることを阻んでしまうことも多いのが現実です。結局、「コロナの感染拡大防止」から「現状を維持したまま、できる範囲でコロナ対策をする」へと目的のすり替えが起きてしまいます。


受動的リーダーシップ

なぜ、このような事態が起きてしまうのでしょうか。このような状況に関連した概念として、リーダーシップ研究で有名なニューヨーク州立大学ビンガムトン校のバーナード・バス教授とワシントン大学のブルース・アボリオ教授は「受動的リーダーシップ(Passive Leadership)」という個人特性を紹介しています。

受動的リーダーシップとは、責任を避け、本当に深刻な状況に陥るまでは意思決定や介入を躊躇してしまうようなリーダーの行動特性を言います。できるだけ自分からの介入は避け、責任を負わないようにし、時間が問題を解決してくれたら良いと考えます。

経営学では、受動的リーダーシップのことをしばしばフランス語の「レッセフェール(仏: laissez-faire)」と一言で表現します。流れに身を任せていれば、そのうち問題は過ぎ去ってくれるだろうというスタンスです。もちろん、下手に動かずにじっと静観している方が良い状況もあります。

しかし、多くの場合では、結局、問題を先延ばしにするだけで解決できない、目的のすり替えをして問題解決しようとしない考えだとして、受動的リーダーシップは否定的な文脈で使われることが多いです。例えば、いくつもの研究によって、部門長が受動的リーダーシップを示すと、部下の職務満足や職務成果が能動的にリーダーシップを発揮する場合と比べて低下することがわかっています。

そのほかにも、ミシガン大学ディアボーン校のイ・ジュンヒュンの研究によると、受動的リーダーシップの傾向が強い部門長のいる組織ではセクシャル・ハラスメントの問題が発生しやすくなるという実証結果が示されています。しかも、その傾向は男性の多い組織に少数の女性しかいないケースで顕著に表れ、ハラスメント防止の観点からも部門長の受動的リーダーシップは避けるべきと提言されています。


トップのサーバント・リーダーシップが部下の受動的リーダーシップを抑制する

さて、それではどのように受動的リーダーシップを防ぐことができるのでしょうか。ユストゥス・リービッヒ大学ギーセンのマーティン・ラクロワらの研究チームは、上長がサーバント・リーダーシップを示すと部下の受動的リーダーシップを抑制し、能動的にリーダーシップを発揮するようになるという調査結果を示しています。

サーバント・リーダーシップとは、ロバート・グリーンリーフによって提唱されたリーダーシップ・スタイルで「リーダーである人は、まず相手に奉仕し、その後相手を導く」というリーダーの在り方です。率先垂範ではなく、チームや集団のメンバーに対して、補助的な立ち位置で関わっていきます。

さて、ここで皆さんの普段の行いを振り返ってみてください。「うちの部下は信用できない」「どうせサボるので、野放しになんてできない」という発言をしていないでしょうか。もしされているのであれば、気を付けてみてください。そのような言動が、部下の能動性を奪い、受動的なリーダーシップを育む土壌を作っているかもしれないのです。

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