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山小屋滞在録です...(10)

沢山遊んで、帰ってきた! 編
[ エッセイ 『抗がん治療が夏休みなので、車で旅に出た!』の続きです ]

九州自動車道の益城熊本空港で高速を降り、阿蘇外輪山の俵山トンネルを抜け、中岳の中腹にある山小屋に到着したのは8月5日になったばかりの深夜1時過ぎだった。
倉敷からここまでは500km余り。倉敷まで運転手を買って出てくれた親友のとべちゃんと別れたのは4日夕刻の5時前のこと。
以前の私ならこの程度の夜の高速運転などお手のものだったが、流石に現状体力は激減している。
しかも台風6号が明日にも九州を直撃するという。
これ以上あまりのんびりしている余裕はない。
あまりぶっ飛ばさないように、いつもより頻繁に一服休憩を心掛け、ひたすら西を目指す…

午前中の高知観光もその前の倉敷観光も楽しかったので、いつの間にか体力に余力が残されていないのが自分でも良く分かる。
その証拠に家内は助手席でうとうとし始めている…今更運転を代わって貰うわけにはいかない…
同じ姿勢で長く座っているのと、抗がん剤のせいで足のむくみが次第に酷くなり、足先の痺れでアクセルを踏む感覚が薄れてくる…

コロナ以降、高速道路のPAやSAの売店や飲食店は夜になると早々に閉まってしまうことをご存知だろうか。
しかも長距離トラックの休憩場所不足で、一般の乗用車用駐車場にも大型トラックやトレーラーが入り込み、駐車スペースをどんどん塞いでしまう…
なので、夜間遅くの高速道路では休憩とはいっても大した気分転換などできないのが現状なのだ。

深夜のSAはしんみりしている…

どこかで停車して仮眠しようかとも考えたが、特に眠気もなく、工事渋滞もなく、走行は至って順調なので、体力に身を任せることにした。

とはいえ、山小屋到着時には流石にもうヘトヘトの状態… 取り敢えず荷解きも適当に、ベッドに横たわりそのまま深い眠りについた…


翌朝、あの懐かしい鳥たちの騒々しい鳴き声で目が覚めた。
『ああ…ここは山小屋だ… そうか、南阿蘇にたどり着いたんだ… 』
家内は雨戸を開き、コーヒーと朝食の準備に取り掛かっている… 窓の外の風景は台風の影響だろうか、山はどんよりと厚い雲に覆われているが、まだそれ程酷い影響はないようだ…

前回山小屋に来たのは5月のこと。
体調のこともあって1年半ほっぽらかしだったので、故障や凍結など、設備の復旧に大変な目に合ってしまったが、今回は全く何の問題もないし、小屋周囲の雑草以外は綺麗なものだ。

朝食を摂り、荷解きをして、小屋内をざっくり掃除…
そして、まずは数キロ先の高森の大型スーパー、ダイレックスで買い出しだ。

何でも揃うし、安いし、質もまあまあのダイレックス

今回のヒット食材はこれ!ちゃんぽんスープだ。

なんとも美味しい。これに生麺は別売りで一玉40円位…キャベツに豚肉に蒲鉾を加えても一食100円以内で超美味しいちゃんぽんの出来上がり!

台風も近づいているので、少し多めに食料を調達するも、台風のスピードは予想以上に遅いらしく、ここ南阿蘇への影響もまだ大したことはない。
それよりも問題は、次の台風7号が発生していることだ。
どうやらお盆休み最後の辺りに本州を直撃するらしい。
一方私は次の抗がん治療に間に合うように17日中には帰京しなければならない。
1泊2泊分のんびり時間を取って往路同様にドライブしながら帰ろうかと思っていたが、早めに出発するとモロに台風に鉢合わせしてしまう。
ま、なるようになるだろう…今からクヨクヨ考えても自然相手のことなので仕方がない。

今年の夏… 世の中はとにかく暑い!
山小屋は標高700m位あるので、いつもなら下界より気温は5度くらいは低く、真夏でもあまり30度を超えることはないのだが、世の中は満遍なく35度越え。流石に今年はそうもいかないのだろうと覚悟していたが、なんと、日中は26~27度。夜は21〜22度と窓を開けていると寒いくらいだ。
従って良く深く睡眠出来る。熊本市内と比べると10度は違う。
なので、5日は丸1日ほぼベッドに横たわり、徹底的に眠り惚けた。余程疲れていたのかも知れない。

6日… 体力・気力ともに復活!
まずは気になっていた本棚の整理と、オーディオ設備。
これまでレコードとプレーヤーは持ち込んでいたのだが、アンプとスピーカーは極々簡易的なちっこいパワースピーカーとプリアンプを調達していたのだが、折角のアナログ環境なのでちゃんとパワーのある音で聴きたい…
そこで車で行くこのチャンスに東京の自宅から、眠っていたスピーカー(仕事のモニター用ヤマハのNS10)と古いDENONの90Wプリメインアンプ(相当古いものでサラウンドとAVにも対応しているが、山小屋では単なるアンプとしてしか使わない)を持って来たのだ。
で… あーだこーだ、丸1日掛けて本棚を整理し、場所を作ってレコードとカセットテープ用にステレオをセットアップした。

持ち込んだプリメインアンプ
本棚も整理されて、スピーカーも収まった

結果… いやあ、やはり音の威力が違う!
何といってもここは周り近所というものがないのだから、大音量で聴いても何の支障もない!

7日… 時折雨は降るものの、ほぼ曇り天気。
丁度いいので、仮払機を用意してまずは玄関周りと私道の草刈り… 無理せず休み休み2日間… あとは台風6号が過ぎてからにすることにしよう。

玄関前だけは綺麗に刈って、愛車も収まり場所を得た

9日… 昨夜からいよいよ本格的な雨と風… ただし、台風の直撃はなく、コースも少し海側に逸れ始めたようだ。

雨で山の姿も掠れがちだが、大したことはなかった…

本棚を整理した時に気になったものがある。十数年前に他界した父親が少年の頃から大事にしていたOゲージ(HOゲージよりも古く大きい1/43・35mmゲージ)の機関車とトランス… 私が子供の頃には組み立て式のレールを走っていた記憶があるが、あれから60年もの月日が流れている。まずはトランスの分解とメンテから始めなければならないだろう… 一応埃を取り、あらためてハンダやテスターなど東京から工具を持ってきてからにする。

車両もトランスも時代物なので駆動するかどうか分からない…

もう1つある。やはり亡父の遺品、晩年身体を壊すまで専念していたメルクリンのミニクラブ(こちらは1/220・6.5mmゲージ)という極小鉄道模型。
これは十数年前に私が駆動確認をして仕舞ったものだ。

こちらは嫁ぎ先が決まったミニクラブ

駆動車や貨車、トランス、テスト用にレイアウトされたレールやパーツ… 色々と揃っていて、鉄道模型好きには価値のあるものだが、残念ながら私は余りその趣味は持ち合わせていないし、私や家内の周囲にもこれといった鉄道模型好きの心当たりもない。
と… 思い出した!友人の映像作家のご長男が無類の鉄道好きだという話を聞いたことがある。
で、早速それらを写メに収め、これらを貰ってもらえないかとのメールでお伺いを立てたところ、先方はどうやら大喜びらしく、まとめて東京に持ち帰ることとなった。

さて、そもそも南阿蘇に山小屋を持ったのは元々家内の実家が熊本市内だったから… いくら療養を兼ねてとは言え、折角ここまで来て全く連絡しないわけにもいかない。
で、連絡を取ったところ、我々がここ山小屋に到着した日に、何と家内の義理の叔母が急逝したという。
丁度11日が初七日ということなので、翌10日に市内の実家に向かい、その夜は泊めてもらい、翌朝から義母を連れて叔母の遺骨が戻っている玉名市近くの天水てんすい小天おあまという有明沿いの家を訪れた。

小天に向かう車から見た有明海
小天の亡義父の実家

今は亡き叔父が元気な頃までは、海に面した斜面一面に広がるみかん畠だったところ、家内の父親の実家にあたる風光明媚な場所。
義母への親孝行も兼ねて良いドライブとなる。

山小屋に戻った12日からの週末にはお盆休みもいよいよピークが始まる。南阿蘇にも市内や県外から続々とマイカー族やバイクツーリング族が押し寄せているので、我々はせいぜい山小屋周辺の散策と小屋周囲の草刈り… 最後の休みをのんびり楽しんでいた。
そろそろ帰京のタイミングを図らなければならない。

問題は次の台風7号だ。どうやら本州上陸は15日位になりそう… 我々は17日中に東京に到着していなければならない。

体調のこともあるので、余裕を見ても出発はギリギリの16日の朝方がいいのだろうが、どの位の帰省混雑なのか、高速道路への影響はどうなのか、全く予測がつかない。まあ、運を天に任せることにする…

この頃になると急に訪ねてくる人も増えてくる。
近所の人気手打ち蕎麦屋を目指してきた家内の友人夫妻…

田舎の手打ち蕎麦屋… 天せいろを注文したらこのボリューム!

色々と山小屋生活のお世話をしてくれる友人の情報で新たに導入した仮払機にアタッチメント装着できる新兵器・草刈りバリカン…

仮払機のブレイドカバーが長年のサビで外れず、今回は装着を見送った…

いつも一度は訪ねてくる家内の甥っ子仲良し一家…

我々を結びつけた2人共通の友人で画家のタカムラ…

そして、隣から次々と訪ねてくるワンコたちは、皆もうすっかり年寄りになってしまい、足元も危ういが、それでもせっせと顔を見せにやってきてくれた。

かつて南阿蘇一帯を牛耳っていたクロベーも居候先の隣からうちに来るのがようやっと、という感じ…
あのヤンチャだったタロコも最近は足元がおぼつかない…
ただ一匹、慎重派のジロコだけは現役で元気に毎日お散歩…

週明け… 山小屋の周囲もすっかり草刈りを終えて綺麗になった…

台風は予定通り15日朝に近畿地方に上陸… 16日には日本海側へと移動していた。

16日朝… いよいよ車で帰路につく…
当初の予定のようにのんびりあちらこちらに寄りながらという余裕はもうない。
真っ直ぐ東京を目指すのだ!

九州を出る直前の古賀までは私が運転した。そこからは家内に代わってもらった。
何故なら、家内は夜の運転がとても苦手なのだ。
そこで、今回は昼間の間になるべく私の体力を温存する作戦を取った。
ラバークッションと枕とタオルケットを後部座席に持ち込んで、家内に運転を任せている間、私はなるべく寝ていることにする。

体力温存の図…

まだお盆休み中だからだろう、大きなSAは家族づれで物凄く混んでいる。
人気のなさそうな小さなPAを狙い、山口を抜ける手前で昼食。運転を代わり、広島を抜け、岡山の吉備SAで再び家内に交代。

家内曰く… 病人のくせに結構ボリューム満点ねえ…

途中何度も渋滞があったそうだが、私はぐっすりと英気を養うことができた。
7時過ぎてそろそろ世の中が暗くなった頃、我々は京都の桂川PAで夕食。

夕食は控えめに…

そして、運転を交代。ここから東京までの約400kmちょっとは私の担当だ!
途中小さな自然渋滞や事故渋滞、台風の後遺症で時折激しく降る雨を潜り抜け、新東名の岡崎に到着したのはまだ11時前だっただろうか…
この時、静岡県内では何と大雨の為、東名でも新東名でも通行止めとなってしまっていたのだ。

しかも、雨はまだ引き続いているらしく、いつ解除されるのかも分からない…
普通順調ならならここから2時間半で東京の自宅だ。
途中で高速を降ろされてしまい、豪雨の中、下の道をナビを頼りに進むか、ここで通行止め解除を待つか…
後者を選んだ… で、自宅に連絡し息子に何時に帰ることが出来るか分からない旨を伝え、車中で暫し睡眠を取ることにした。

と… ウトウトし始めたころ、息子からメールが… ネットで調べたら、間もなく通行止めは解除されるとの情報!
眠い目を擦り擦り、SAの電子掲示板を見に行くと… 本当だ!通行止めは解除になっている!
SAの駐車場からも次々と車が出発し始めているではないか!ラッキー!!

で、再び出発したのは深夜前。
ここからはお察しの通り豪雨との戦いだった…
でも私はそういう状況の運転は大好き!(困った性格なのです)
大喜びで戦い続け…
深夜2時半にはようやく東京目黒の自宅に帰りついたのでありました!

末期癌と分かって以来、もう2度とこんな旅は出来ないのだろうと思っていたが、運命のお陰でたっぷり楽しい2週間を過ごすことが出来た!

日課にしていた散歩道…

沢山遊んで、帰ってきました!

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